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2014年12月25日

人命・健康を軽視するな
〈技官レポート〉 (11)〈安全文化の継承〉

変容する企業の姿勢に危機感

 以前のレポートで、かつて企業や行政に必ず存在し、厳しい目で職場の労働安全衛生を見守っていた「安全おやじ」がめっきり少なくなってきたことを取り上げた。この傾向は、企業における安全文化の継承に少なからず影響を与えている。

 日本の産業界、とりわけ製造業や建設業では、高度成長期以来、工場の安全衛生課などの部門を設け、専門の担当者を置いてきた。その多くは、事業場内など身近なところで多発する重篤な労働災害に直面し、正に「安全第一」の重要性を肌で感じ取り、安全管理者あるいは衛生管理者として、労働災害の撲滅に向け真剣に取り組んでいた。

▼安全衛生技術力が低下

 いわゆる団塊世代の大量退職以降、企業はこうした労働安全衛生の専門家を大幅に減らし続けている。一方で、新たな専門家の育成をしないため、事業場内で培われた真の安全衛生技術力が低下し、最近では、企業の安全文化が形骸化していると指摘せざるを得ない。

 一例として、労働安全衛生に関わる企業のスタンスの変化が挙げられる。近年、ステークホルダーとしての株主の顔色をうかがい、短期の業績に目が向けられがちな経営方針を垣間見ることが増えた。企業スタンスは、これまでの絶対的な「安全第一」から、「関係法令に違反さえしなければ良い」という意識に変わってきている。労働災害の発生件数が減少し、「悲惨な事故」を資料上の知識としてしか知りえなくなってきていることも、さらに拍車を掛けていると思う。結果として、間接費用である労働安全衛生にかかるコストの抑制につながってきたのではないか。

 私たち技官は、個別指導や窓口でのやり取りで、こうした傾向を強く感じている。

 コスト抑制への圧力が強まるなかで、労働安全衛生の専門部署をなくし、「環境・労働安全衛生及び品質管理」など、他の多くの業務を兼務する組織に改編される流れにある。限られた人員である以上、労働安全衛生に投入できる業務量は減らされてしまう。

 実際に、事業場内において労働災害につながりそうな危険(リスク)を十全に排除することが困難になっている。石油化学コンビナートで複数の尊い人命が失われるなど、重大災害が頻発していることは非常に残念だ。

 組織と人がこういう状態では、企業の安全文化には既に黄色信号が灯っていると言っても過言ではない。

▼労働行政内部にも問題

 実は、同じような事態が、労働行政の内部でも起こっている。

 厚生労働省が2008年より運用を始めた「新人事制度」は、都道府県労働局、労働基準監督署において、主に安全衛生を担当してきた「厚生労働技官」の採用を停止している。現在の労働行政の第一線では、労働安全衛生に携わる専門家の採用・育成を行っていないのだ。 

 このままでは、労働行政として、いつか大きな代償を払う日が来るだろう。

 安全文化は「労働者の安全と健康を最優先する企業文化」である。

 時代を超え、人から人へ継承する安全文化。

 企業も行政も、決してこの火を消してはならない。 

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