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府職労ニュース


2011年 1月11日

「すべり台社会」の抜本見直しこそ急務 
京都の国保実態調査から見えてきたもの

国保の府県一元化に不安と警鐘

 「社会保障としての国保」を破壊

●病院に行きたいけれども行けない


 「治療や診察が必要だと感じながら、お金がかかるために病院に行くのを先延ばしにしたことがある」(45人)、「最近1年間のうちにお金がかかるために病院に行かなかったことがある」(24人)、「最近1年間に治療費や診察代がかかるために中断したことがある」(14人)。これらは、昨年12月4日、5日の両日に、府職労連からも25人が参加して京都市伏見区でとりくまれた「国保実態調査」で、直接対面形式で行った聞き取り(318件)から、明らかにされた府民の声の一端です。

 京都国保調査実行委員会の参加団体の1つである京都社会保障推進協議会・事務局次長は、両日の調査の中で「ガンの転移が見つかったが、治療費や診察代がかかるために中断したことがある」との回答があったことや、「4年前に盲腸で手術を勧められたが、薬を飲んで手術を延ばしている」との資格証明書を持っておられる方の回答、そして失業し現在はアルバイトの30代女性と、定年退職した60代男性の、いわゆる2人の無保険の方がおられたと語ります。

●正規の保険証なしが府内で3万世帯

 無職や非正規労働者も加入する保険である国民健康保険で、貧困の拡大や国庫負担削減によって生じた保険料の引き上げのもと、滞納世帯の増加など空洞化が急速にすすんでいます。

 経済的な理由で、医者に診てもらうのを延ばしたという方が6人に1人。行くのをやめたという人が13人に1人の割合、国民健康保険料を払えない世帯が450万世帯(5人に1人)、国民健康保険料を全額払えないために、正規の保険証がもらえない世帯が、全国で150万世帯、京都府内で3万世帯です。また、同じ所得でも社会保険料に比較して、国民健康保険料が3倍となる人もいます。

 「61歳男性、2009年1月派遣切りにあい、所持金もなく受診を控えていた。受診したときは、肺ガンと診断され1ヶ月後に死亡。国保加入歴がなく、無保険であった」(2010年3月11日全日本民医連「調査報告」における「京都の事例」より)など、保険料の高さや、保険証の取り上げによって手遅れとなり、死に至るケースが全国至る所で報じられるなど、「国民皆保険制度」は存亡の危機に瀕しています。

●広域化への旗振り役・山田京都府知事

 こうしたもとで、現在、市町村が運営している国民健康保険を都道府県単位に一元化しようという、国保広域化の動きが急速に進みつつあります。
 12月3日、厚生労働省は市町村が行っている国民健康保険の運営を2018年度から都道府県に移すため、今年の通常国会に関連法案を提出する方針を決めました。

 この間、こうした動きに積極的な役割を果してきたのが山田啓二・京都府知事です。

 2008年11月の全国知事会で「都道府県は国保の安定した運営に責任を果すべき」と発言。2009年1月には「国保の都道府県単位での一元化を検討すべき」と表明し、調査検討を行う医療企画課を庁内につくりました。「国保は最も大事なセーフティーネット」「都道府県単位で一元化を図り、社会保険としてのスケールメリットを発揮していくべき」(09年7月18日付「週刊東洋経済」)との表明です。

●広域化へ噴出する懸念の声

 しかし各方面からは、国保の都道府県単位での一元化への懸念の声が噴出しています。

 まず、大きな声として挙がっているのが、国が国庫負担を減らしたままの市町村国保を集めて「広域化」をしても、国保財政や制度の改善にはならないとの指摘です。

 それどころか、都道府県単位での一元化によって、3つのあらたな問題が指摘されています。第1は、国保会計への市町村の一般会計からの繰り入れが縮小されることへの危惧です。結果として、府民の保険料負担が引き上げられることになります。

 第2に、医療費の1割を保険料に連動させる仕組みづくりです。国保広域化に先行して導入が検討されている75歳以上の新たな高齢者医療制度では、広域化とあわせて自動的に医療費の1割が保険料になります。これは、自己負担か医療費抑制かの選択を迫る制度で、都道府県が策定する医療費適正化計画にリンクしていきます。国保が社会保障制度でなくなっていきます。

 第3は、広域化されることで、住民の声が届きにくくなるのではないかという点です。
 後期高齢者医療制度や介護保険の経験をふまえての懸念です。

●国民皆保険制度の再構築を

 12月の「国保実態調査」で直接対面し聞き取りを行ったみなさんの中には、慎ましい生活の中でも保険料を滞納せずに納付されている方々が多くおられました。ご本人に大病がなく働いてこれた、介護の必要な家族がいなかったという「幸運」があることが共通点でした。

 京都社保協・事務局次長は「法施行から50年が経過し、国民皆保険制度が大きな岐路を迎えている今、地域に足を踏み出して、社会保障としての国保のあるべき姿について、住民や行政職員のみなさんとともに考え、社会的に発信していく重要な時期を迎えている」と指摘、1月22日、23日の宇治市をはじめとして、府内各地での調査を成功させたいとの強い決意を滲ませました。

 今、国の責任と負担を明確にすること、そして市町村を支援・補完すべき都道府県の役割は具体的にどうあるべきなのかが、鋭く問われています。。