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官庁速報


2009年 8月 3日

 受給世帯119万、過去最多更新続く
雇用情勢の悪化などで―自治体財政に大きな影響院

  雇用情勢の悪化などを背景に、生活保護の受給者が急増している。今年3月は全国で前月比1万4478世帯増の119万2745世帯となり、11カ月連続で過去最多を更新。実人員は同2万1576人増の165万4612人で、昨年12月からは毎月1万人を超えるペースで増加し、増加幅も拡大を続けている。現行の財政負担割合は国が4分の3、自治体が残り4分の1を担っており、とりわけ受給者の多い都市部の自治体には財政上大きな影響を与えている。時事通信社は7月、政令指定都市18市を対象にアンケートを実施し、現状の課題や今後の在るべき姿を探るとともに、経済的自立に向けて効果を上げている支援策などを取材した。(2回連載)

◇全額国費負担を
 「もはや1自治体での対応は限界を迎えている」―。政令市・中核市で最も保護率の高い大阪市の平松邦夫市長は6月、東京都内での講演で悲鳴を上げた。同市の4月の生活保護申請件数は、前年同月比1.9倍。今年度予算における生活保護費は約2443億円に上り、一般会計歳出総額の実に約15%を占めている。平松市長は「国に全額負担を求める声を全自治体が上げてほしい。大阪市はその先頭に立つ覚悟がある」と語る。

 アンケートでも11市が「国が全額を負担すべきだ」とし、1市が「国の負担割合を増加すべきだ」とした。具体的には「ナショナルミニマムは国の責任において保障されるべきだ」(仙台市)、「法定受託事務のため、国の責任において負担してもよいのではないか」(新潟市)といった主張が聞かれ、「地域特性などによって自治体の財政が影響されることがあってはならない」(広島市)との意見もあった。

 一方、「現状を維持すべきだ」とする政令市も5市あった。地方側は、小泉内閣の三位一体改革で2005年、生活保護に関する国との協議の際、国庫負担率の引き下げを提案された苦い経験がある。静岡市のように「国と地方が協力して制度を維持しているので現行が望ましい」との積極的評価もあったが、「三位一体論の時のように国が負担割合を変えようとすることがないようにしてもらいたい」(神戸市)、「現実的には国の負担割合が増加するとは考えにくく、これ以上減らないように現状を堅持すべきだ」(北九州市)と、地方の負担増の議論を蒸し返されたくないとの意向もうかがえた。

 政府の地方分権改革推進委員会の勧告を受け、08年11月から今年3月にかけて開催された生活保護に関する国と地方の協議でも、地方側は「財源問題には触れない」(岡崎誠也高知市長)ことを前提に席に着いた経緯がある。

 厚生労働省保護課は「生活保護は国と地方が共同で支えているサービスであり、自治体が一部負担することで結果的に乱給防止にもつながる」として、負担割合の見直しには応じない考えだ。

◇ケースワーカー不足が深刻化
 生活保護の受給者数の現状について、「想定より少し多い」「想定を大きく超えている」とした政令市は計16市。「想定より少ない」「想定の範囲内」とした市はなかった。景気悪化による失業者の増加を挙げた市がほとんどだが、工場での仕事がなくなって収入が激減した非正規労働者の申請も多いという。北九州市などではホームレスの申請も増加した。

 申請者や相談者の急増により、福祉事務所などの現場では、ケースワーカー不足といった問題が深刻化している。現状の体制整備について「問題が生じている」としたのは12市で、この全市がケースワーカーら担当職員の不足を挙げた。

 大阪市は8月、臨時的任用職員55人の採用を予定しているが、それでも「ケース数の増加に追い付かない状況」という。阿部孝夫川崎市長は3月、国と地方の協議の中で、「地方交付税の不交付団体は生活保護担当者の人件費も丸々負担しなくてはならず、地方財政の圧迫要因となっている」と訴えた。人件費も含めた国庫負担はさいたま、京都、大阪、広島の各市なども求めている。

 ケースワーカーについては、「増大する相談、申請の調査業務などに追われ、自立支援の業務に手が回らなくなり、ますます被保護世帯の増加に拍車を掛けることが予想される」(岡山市)といった悪循環に陥る恐れが指摘されている。

 名古屋市中村区役所の職員で元ケースワーカーの津田康裕氏によると、同区役所への相談は通常、1日20〜30人程度だが、今年1月には連日100人を超す相談者が訪問。半分以上は工場などでの「派遣切り」に遭い、職とともに住居も失った人だった。新規申請の調査には1件につき2〜3日かかるため、1人当たり月5〜6件もあるとそれだけの仕事に追われてしまう。現在、職員の残業は月100時間を超える状態という。

 津田氏は「1月のころは職員がみんな目を輝かせて頑張っていたが、半年たっても先が見えない状態。病人が出ないのが不思議なくらいで、とても頑張れとは言えない」と訴え、職員の増加を求めている。

◇過剰診療の防止を模索
 生活保護費の中で大きな比率を占めるのが医療扶助だ。07年度実績は全体の49.3%に当たる1兆3074億円に上り、09年度予算ベースでも49.7%の1兆3629億円となっている。受給者に高齢者や傷病者・障害者が多いことを考えても「ちょっと異常」(舛添要一厚労相)な水準との指摘もある。

 生活保護受給者は国民健康保険の被保険者から除外されているため、ほとんどの受給者の医療費は、全額を窓口負担なく、医療扶助で現物給付されている。そのため、「本人負担がないことから、重複受診や頻回受診が繰り返されている」(新潟市)といった意見が出ており、抑制策が議論されている。

 3月に決定された国と地方の協議の取りまとめではモラルハザード防止策として、医療費通知や窓口負担の導入などを中長期的な検討課題とした。いずれも被保護者に医療費を自覚させ、過剰な診療の防止につなげるのが目的だ。このうち、被保護者への医療費通知については8市が賛成だった。反対は3市。「事務処理の負担増に見合うだけの医療費抑制効果は見込まれない」(さいたま市)のが主な理由だ。

 既に実施している北九州市は年4回、受診した医療機関や回数、診療費の総額などを掲載した通知を送っている。今年度は1万世帯に送付する想定で、レセプト(診療報酬明細書)データ入力委託料約750万円、郵送費約300万円の費用を見込んでいる。

 当初は、保護受給者との不公平感に関する一般市民からの苦情などを受け、市民感情に配慮して始めた制度だったが、通知を見て不審に思った被保護受給者からの連絡を受け、水増し診療やカラ診療などを発見するきっかけになったこともあるという。市保護課は「副次的な面も含めて一定の効果があると認識している」と説明している。

 窓口負担(後に全額還付する方式も含む)の導入については賛成6市、反対4市と分かれた。「一定の効果はあると考えるが、現在の生活扶助基準で自己負担額の一時立て替えが可能かという問題もあり、受給者の理解を得ることは困難ではないか」(岡山市)とのジレンマがあるようだ。

 過剰診療の防止に関しては、「福祉事務所が受診先を決定することとされているが、適正な受診に当たりケースワーカーの知識が十分にあるとは言えず、制限することは難しい。何らかの制度化が必要」(千葉市)、「慰安ともとらえられる(マッサージなどの)施術の給付は廃止する」(浜松市)といった案も出た。

 また、財源問題に関しては、医療扶助の生活保護からの分離、医療保険の適用に賛成したのは3市にとどまった。「現行の医療保険制度のまま国保に被保護者を加入させるのであれば、国保財政を圧迫する」(さいたま市)との意見が目立った。政令市は生活保護費の地方分を全額負担しているが、三位一体改革議論の中で医療扶助に関して国が提案した「一定割合の都道府県負担の導入」に賛成したのはわずか2市。「そもそも国が全額負担すべきだ」との多数自治体の基本姿勢が反映されたようだ。
◇社会保障全般の見直しが必要に

 生活保護制度は1950年の制度開始以降、抜本的に見直されたことはなかった。そのため、少子高齢・人口減少社会の進展、家族や就業形態の変容などの構造変化に対応し切れていないとして「制度疲労を起こしている」(大阪市)との批判がある。

 全国知事会と全国市長会による「新たなセーフティネット検討会」は06年、▽稼働世代のための有期保護制度の創設▽高齢者世帯対象制度の分離▽収入などが生活保護受給要件に近いボーダーライン層に対する就労支援制度の創設―を柱とする提案をまとめた。座長を務めた地方財政審議会委員の木村陽子氏は「今の制度は貧困原因が違う高齢者も就労可能な世代も一緒くたにしている。貧困との戦いにおいて有効ではない」と語る。

 政令市の回答でも、14市が制度を「抜本的に変えるべきだ」としており、「基本的には現行制度を維持すべきだ」と答えた市はなかった。

 個別の制度改革については、「高齢者世帯対象制度の分離・新設」に賛成したのが12市で、反対はなかった。07年度の被保護世帯のうち、高齢者世帯は全体の45.0%を占めた。さいたま市は「生活保護制度は稼働年齢層の生活保障、自立支援に集中して取り組むことが望ましく、高齢者らについては別の制度で対応すべきだ」と主張。ちなみに、関連する施策として最低保障年金制度の導入に賛成した政令市も8市に上り、反対した市はなかった。「高齢者においては、基本的に年金で最低生活保障がなされるべきではないか」(岡山市)との意見があった。

 他制度優先の性格を持つ生活保護制度の抜本改革は年金、医療保険、雇用保険などと強く関連し、整合性も必要になる。木村氏は「制度改革のためには社会保障制度を全般的に変えなければならず、国などは尻込みしているようだ。しかし、このままの制度では就労支援という面から見ても自立には役立たず、改革は避けられない」と主張している。

◇アンケート結果の概要(数字は自治体数)
 〔負担割合〕「現状を維持すべきだ」=5、「国の負担割合を増加すべきだ」=1、「国が全額を負担すべきだ」=11、「国の負担割合を引き下げる一方、保護基準設定などの権限を地方に移すべきだ」=0、「その他・無回答」=1

 〔受給者数〕「想定より少ない」=0、「想定の範囲内」=0、「想定より少し多い」=4、「想定を大きく超えている」=12、「その他・無回答」=2▽その主な原因(複数回答可)「低所得の高齢者の増加」=6、「景気悪化による失業者の増加」=16、「その他・無回答」=4

 〔人員や施設などの体制整備〕「問題が生じている」=12、「特に問題は生じていない」=1、「その他・無回答」=5

 〔医療扶助関連で提案されている施策の賛否〕医療扶助の生活保護制度からの分離・医療保険の適用「賛成」=3、「反対」=4、「その他・無回答」=11▽被保護者への医療費通知「賛成」=8、「反対」=3、「その他・無回答」=7▽窓口負担導入(後に全額還付する方式も含む)「賛成」=6、「反対」=4、「その他・無回答」=8▽長期入院患者の退院・通院移行促進「賛成」=13、「反対」=0、「その他・無回答」=5▽一定割合の都道府県負担の導入「賛成」=2、「反対」=5、「その他・無回答」=11

 〔制度〕「基本的には現行制度を維持すべきだ」=0、「制度の一部を変えるべきだ」=1、「抜本的に変えるべきだ」=14、「その他・無回答」=3

 〔生活保護に関連する施策の賛否〕高齢者世帯対象制度の分離・新設「賛成」=12、「反対」=0、「その他・無回答」=6▽住宅扶助の現物支給「賛成」=2、「反対」=3、「無回答・その他」=13▽給付付き税額控除「賛成」=2、「反対」=3、「無回答・その他」=13▽最低保障年金制度の導入「賛成」=8、「反対」=0、「その他・無回答」=10


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