京都府職員労働組合 -自治労連-  Home 情報ボックス 府政NOW 京の写真館 賃金 料理 大学の法人化
官庁速報


2009年 3月17日

特集・行き詰まるダム行政「ダム」に相次ぐ知事の反対
地元市町村では賛成も−河川法改正から12年、難しい意見集約

 国土交通省が国直轄事業として進めるダム計画に対して、地方の知事らから反対の声が続けて上がった。昨年9月には蒲島郁夫熊本県知事が川辺川ダム(相良村)の建設計画の白紙撤回を求めると表明。同11月には淀川上流の大戸川ダム(大津市)についても滋賀、大阪など流域4府県知事が建設凍結を求めることで合意した。これを受け、2009年度政府予算案では「知事の反対するダム計画は認められない」(財務省)との判断で本体着工に関する経費が盛り込まれず、いずれも事実上休止に追い込まれる事態に。1997年に改正された河川法では、流域自治体や住民の意見がダム計画などの治水行政に反映される仕組みが整ったはずだった。しかし、二つの事例では知事らが反対する一方、流域市町村では建設を求めるところも多く、地元の意見集約の難しさを改めて見せ付けた。国交省は今年1月から、ダム計画に関するプロセスの検証を有識者会議で開始。現行河川法の不備も含め、ダム行政見直しに向けた課題を探る。

◇川辺川、大戸川両ダムの共通課題
 国が球磨川水系に建設を計画している川辺川ダム。下流の人吉市などが60年代に繰り返し水害に見舞われた上、高度経済成長期の中、農業用水や水力発電の需要も高まり、治水・利水両面の多目的ダムとして66年に計画が始動した。

 ただ、その後は農業用水の需要が減退。電力会社も撤退したため、現在は治水目的のみとなっている。ダム建設によって、日本有数の清流とされる球磨川水系の環境が悪化する可能性も指摘されており、蒲島知事も建設計画に反対する理由として「球磨川こそ守るべき熊本県の宝」と強調した。

 一方、大戸川ダムは淀川水系の治水目的に加え、著しく人口が増加していた近畿地方の水道用水を確保するため、70年代から建設計画が本格化した。ただ、04年に大阪、京都両府が水道事業から撤退すると、川辺川ダムと同様、治水が目的の中心に変更された。06年には公共事業の見直しを公約に掲げた嘉田由紀子滋賀県知事が当選。昨年11月に滋賀、大阪、京都、三重の各府県知事が建設凍結を国に求めることで合意した。

 両ダムに共通しているのは、社会情勢に伴って建設目的が変化したことだ。いずれのダムも高度成長期に計画されたが、ダム建設は計画、用地買収、住民移転、本体着工のプロセスで進み、供用開始まで最低でも約20年の時間を要するため、その間に農業・発電などの水需要が減った結果、国は治水目的を前面に掲げる方向転換を迫られた。

 しかも、近年は地方財政の悪化を受け、「この時期のダム建設は府民の理解を得られない」(橋下徹大阪府知事)として、ダム建設費の負担を嫌う雰囲気も強まっており、国交省河川局幹部は「今後もダム反対の動きが広がる恐れがある」と焦りを隠し切れない。

◇深刻な知事と国の意見対立
 現行河川法は97年の改正によって、ダム建設に際して、地元首長の意見を取り入れるための仕組みが盛り込まれている。

 同法改正の契機となったのは、90年代の長良川河口堰(ぜき)の建設反対運動。流域自治体や市民団体を巻き込んだ論戦に発展し、旧建設省は河川法を改正することで、地元の意見を河川管理に反映させる枠組みを整備した。

 具体的には、国が流域住民・自治体の意見を聞きながら、河川改修などの方向性を定める「河川整備基本方針」を策定。その後、30年程度を見通した治水対策などを盛り込んだ「河川整備計画」を制定する枠組みだ。いずれも制度上は流域自治体から意見書の提出を受ける形で、地元の意思を聴取する機会が担保されている。川辺川、大戸川両ダムについては、知事意見が「反対」となったため、「治水対策を進める上でダムは不可欠」とする国交省との意見が真っ向から対立する形となった。

 大戸川ダムに関しては、嘉田知事と橋下知事が2月13日、河川法に基づく手続きの一環として、ダム建設を整備計画に盛り込まないよう求める意見書を国交省に提出。これに対し、河川局幹部は「河川法は知事の意見聴取を定めているが、国は治水対策に対して最終責任を負っており、治水安全度を高める上でダム建設は必要」との立場を変えていない。

 知事の反対の傍らで、地元市町村で建設を望む首長や住民も多いことが問題を複雑にしている。川辺川ダムに関しては、住民の大半が移転を済ませた五木村などがダムの早期完成を要望。大戸川ダムについても、建設予定地の目片信大津市長が「下流市町村が完成を待ち望んでいるのに、どうして工事が進まないのか。治水は国の責任でやってほしい」と建設推進を訴えており、流域自治体の意見集約の難しさが浮き彫りとなっている。

◇大臣主導で検証会議発足
 「(川辺川、大戸川両ダムのようなことが)なぜ起きるのか。河川法に不十分な点があるのではないか」−。金子一義国交相の主導によって今年1月、有識者でつくる「ダム事業プロセス検証タスクフォース」が発足した。両ダムをめぐる地元と国の意見対立が鮮明になる中で、ダム行政全般について、住民参加手続きなどの問題点を探るのが目的だ。

 初会合では、委員から「自治体が反対と言わないという甘い見通しの上に立っている」「流域自治体がダム建設に反対した場合の規定がない」といった指摘が出た。また長期間に及ぶダム計画を進めている間に知事が交代し、地元の意見が覆った川辺川ダム、大戸川ダムを念頭に、「選挙のたびに政策が変更されるのは困る。継続性を保証する枠組みが必要だ」との見解も示された。

 これに対し、河川局幹部は「知事や自治体の首長にもさまざまな立場や思いがあり、それを集約するのは難しい」と語る。長良川河口堰問題の反省に立って、現行法が制定されて12年。これまでに河川整備基本方針は国管理河川全109水系で、同基本計画は約半分の50水系程度で作られており、流域住民・自治体の意見を尊重する法改正の考え方は川辺川、大戸川両ダム以外でも、各地で実行に移される段階に入った。

 ただ、両ダムの問題が意見集約の難しさを露呈したのも事実。今後、タスクフォースは河川法に定められた手続きの課題や住民参加のプロセス、直轄事業に対する自治体の財政負担などを年末までに探る予定だが、問題解決の糸口はまだ見えない。


府職労ニュースインデックスへ