京都府職員労働組合 -自治労連-  Home 情報ボックス 府政NOW 京の写真館 賃金 料理 大学の法人化
官庁速報


2008年 6月 6日

平成の村事情(下) 次世代育成、福祉に注力
富裕団体の「自信」と「不安」

  市町村合併を模索する村、単独での存続を志向する村―。平成の村事情はさまざまだが、数は少ないものの実際に「自立」を手中にしている村もある。全国193村のうち、財政力指数が1を超える不交付団体は10。そのいずれも現状では、合併の意思を示していない。豊富な財源を背景に次世代育成や福祉に力を注ぎ、村民の満足度向上に努める「富裕村」だが、一方で道州制論議が活発化する中、国が小規模自治体の在り方についてどのような政策を打ち出すのか、注視している。

◇住民サービス向上を追求
 神奈川県のほぼ中央、人口約20万人を抱える厚木市に隣接する清川村。丹沢山地の東ろく、山林が域内の大半を占める人口約3300人の小さな村だが、ダムによる交付金などで財政は豊かだ。

 同村は1956年、旧煤ケ谷、宮ケ瀬両村の合併により誕生。もともとは工場も無く産業は振るわず、財政力は県内最低レベルだった。ところが宮ケ瀬ダムの完成により、2001年度から国有資産等所在市町村交付金が入るようになり、03年度から不交付団体に転じた。

 「不便と言えば不便だが、住民は生活面で不平不満は感じていないのでは」と大矢明夫村長。公共交通には難点があるものの、住民サービスには一定の自信がある。以前、財政的に厳しかった時に、隣接市町の支援を受けたことから「(隣接市町を)超えるようなサービスは遠慮していた」が、「今年は何を言われようと住民サービスを高める」決意で、08年度予算では小児医療費助成や保育事業の大幅拡充に踏み切った。

 合併について同村はこれまでも検討したことがなく、当面考えることはないという。80年代、ダム建設に伴い約1000人が転出し、その後新たに約1000人が同村に移り住んでいるが、村長によると「新たに入ってきた人が、20、30年を経て清川になじみ、自然、人情の豊かさに強い愛着を持っている」。新旧含め村民の地域への思いは強い。

 しかし、村民の中でも「行財政改革の流れは止められない。いずれ逆らうわけにはいかなくなる」という認識はあるという。村長自身も、国、県の動向に「抵抗しても仕方がない」と考える。ただ、合併するなら「住民サービスの質が落ちない担保をしてもらい、役場職員もリストラなどせず、悠々とした環境に置いてほしい」と話す。

◇「人口増」に活路
 平日でも観光客でにぎわう山梨県忍野村。国の天然記念物に指定されている忍野八海に加え、富士山の眺望の中でもバランスの良い優美な姿を望むことができる同村は、海外からの観光客にも人気。台湾や韓国から訪れる修学旅行の児童・生徒らも多い。

 その財政基盤を支えるのは観光ではなく、同村に本社を構える電機、ロボットメーカー大手ファナックからの税収だ。84年の本社移転以来、村の人口は年々増加して現在は約8800人。財政力指数(06年度までの3年平均)も1.94に達している。

 富裕な村だけに、村内は電柱に至るまで整然と整備されている。その中でも、特に目を引くのが大きくて新しい児童館や保育所、そして広い小学校。「福祉と教育に手厚く」という天野康則村長の強い意向からだ。学校の周辺では、子どもたちが擦れ違う人々に進んであいさつする姿が見られた。天野村長は「もともと純朴で素直な土地柄」と話しつつ、「教師が必要とするものを村がすぐ出せる。そういう環境での指導で子どもが良くなることもある」と、充実した教育施策の効果を強調した。

 周辺市町村との合併については、「村民サービスが低下するのではないか」という懸念がぬぐえない。天野村長は「独自でやれば、村民の要望や苦情にも即応できる。かゆいところに手が届く」と指摘し、「独自でやれるだけ、頑張ってやろうかなと思っている」と話す。 

 ただ、1企業への依存が強いだけに、将来への不安が無いわけではない。今後も企業誘致を進めていくとともに、「自治体が自立できる基準」とされる人口1万人を目指し、教育や福祉を充実させ、さらに「住みやすい村」を目指している。

◇「日本一」にも油断せず
 伊勢湾に臨む工業地帯から、大型車両が行き交う車道を挟み、水田が広がる。その水田の先に、愛知県飛島村の赤い大きな庁舎がそびえる。体育館や公民館、温水プールまで備える施設は、日本一富裕な自治体の象徴として、マスコミが取り上げることもある。

 財政力指数2.78は全国の自治体で最高。収入の7割は臨海部からの固定資産税だ。しかし「初めから裕福だったわけではない」と久野時男村長。土地が海水面より低い「ゼロメートル地帯」にある同村は、59年の伊勢湾台風で120人を超える犠牲者を出し、農地の面でも「汗水たらして塩害を克服してきた」といった苦難の歴史を持つ。

 現状の財政についても、「この状況が続くとは限らない」と久野村長は気を引き締める。同村の一般会計予算規模は約50億円だが、基金にはそれを上回る70億円を積んでいる。村民からは「積むばかりで、村長は何をやっているんだ」といった声もあるそうだが、国が大きな制度変更を実施した場合でも「住民には迷惑を掛けないためだ」と久野村長は力説する。

 合併に関しては、02、03年に近隣市町村と検討した際、住民アンケートを実施。その結果、反対が74%を占め、自立に向けた理念を「小さくてもキラリと光る村づくりを目指す『とびしま』」として議会承認した。

 ただ、「これから住民もいろいろな人が入ってくるだろうし、さまざまな変化があるだろう」と久野村長。「どこまでも合併反対ということで突き進むのは良くない」との認識で、「変化が起こったときには、直ちにそのことについて議論しよう」との心積もりを持っている。巨額の基金と同様、「予想外の事態」への備えは欠かさない。

◇国土を守るのは誰?
 今回紹介した富裕村と異なり、財政難にあえぐ埼玉県東秩父村の磯田博安村長は、繰り返し「財政力が無ければ何もできない」と嘆いていた。果たして財政力があれば何をするか―。清川、忍野、飛島の3村長の考えに共通していたのは「子どもへの投資」だった。子育て支援、教育を最重要課題に掲げ、「小学6年までの医療費無料化」「35人学級」などに多くの事業費をつぎ込んでいる。

 かつて三位一体改革をめぐる議論で、保育所の施設整備費や義務教育費国庫負担金などの削減と税源移譲を求める地方側に対し、厚生労働省や文部科学省からは「何に使ってしまうか分からない。地方には渡せない」といった声が聞こえた。しかし、財政に余裕がある時、3村が真っ先に取り組んだのが教育と福祉だった。

 いずれの村長も、小規模自治体の良さとして「住民に近い行政が行われる」点を挙げている。「小さい村で、村民の話を聞かずおかしなことをやれば、立ち行かなくなる」。

 一方で各村は、小規模であることでリスクに弱い体質であることも自覚している。今後道州制などの議論が進み、小規模自治体が消滅の運命をたどる可能性も念頭に置かざるを得ない。それでも「自治体制度は効率だけで決めていいのか」との思いは、各村長の言葉の端々からうかがえた。「限界集落が増え、一方で村や町が無くなれば、誰が国土を守るのか」(大矢清川村長)との問題提起は重い。


府職労ニュースインデックスへ