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官庁速報


2008年10月21日

後期医療の見直し論議本格化へ
都道府県の関与が焦点に

 75歳以上を対象とした後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の見直し論議が今後、本格化する。与党の「高齢者医療制度に関するプロジェクトチーム」(PT、座長・鈴木俊一自民党社会保障制度調査会長)では、市町村の国民健康保険(国保)を都道府県単位に再編した上で、後期高齢者医療制度と一体化する案が浮上。舛添要一厚生労働相は直属の有識者検討会(座長・塩川正十郎元財務相)に同様の私案を示した。同相は1年後をめどに具体案をまとめるスケジュールを描いているが、運営主体と想定された都道府県から反発の声が上がるなどしており、意見調整は難航が予想される。
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 後期高齢者医療制度の見直しに伴い焦点となった国保の再編・統合はもともと、医療制度改革における懸案。与党PTでは、後期高齢者医療制度が「年齢で区分する差別的な制度」との批判を浴びていることを踏まえて、「国保を都道府県単位に再編・統合すれば、後期高齢者医療制度と制度を別々に分けている意味はなくなる」(幹部議員)との一体化案が浮上した。

 与党の厚労族議員と「非族議員」を自任する舛添厚労相は対立関係にあり、後期高齢者医療制度の見直しをめぐって亀裂がさらに深まっているが、こうした状況の中、同相も同様の考えを私案として示した。同相は「75歳以上だけではなく、みんなが乗れるバスに改造する。孫も子どももみんな乗る。孫が乗っているのに『うば捨て山』に行くはずがない」などと述べ、国保を「県民健康保険」にすると強調。都道府県が運営する県民健康保険に後期高齢者が加入する形にしたい考えを明らかにした。

 同相は、私案の表明に当たって事務方と事前に全く調整しておらず、「大臣が公表した9月30日の記者会見前には担当部局への相談はなかった」(山井和則衆院議員の質問主意書に対する政府答弁書)。10月7日に開いた第2回有識者検討会に提示した「私案のイメージ」は、記者会見での表明後に作成したもので、内容には事務方は一切関与していない。同相は私案を「あくまでたたき台」としており、具体的な制度設計は今後の議論に委ねられている。

 高齢者医療の保険財政についてはこれまで、加入者の年齢や所得に応じて保険者間で負担を調整する「リスク構造調整方式」、被用者保険がサラリーマンOBの医療費も負担する「突き抜け方式」、現行の後期高齢者医療制度のような「独立保険方式」などが提案され、関係者が延々と議論を続けてきた。今回の厚労相私案はこれらの案のいずれとも異なっており、厚労省幹部は「過去の議論を蒸し返すのではない点では、検討の余地がある」と指摘する。

 ただ検討に当たっては、数々の大きな課題がある。後期高齢者医療制度と国保の一体化の前提となる国保の再編・統合は、小規模市町村の保険財政を安定化させる利点があるが、各市町村の保険料水準は同一都道府県内でも格差があり、市町村間で利害関係が生じる。厚労省幹部は「国保保険料を都道府県単位で統一しようとすれば4000万人に影響し、1300万人の後期高齢者の比ではない」としており、国保保険料の統一に当たって激変緩和措置を設ける際には、加入者の反発に配慮した制度設計が求められる。

 また、被用者保険との財政調整の仕組みや、都道府県が運営主体を引き受けるための条件整備も課題に挙げられている。財政調整については、現在でも前期高齢者納付金の負担に不満を募らせている健康保険組合がさらなる負担増を警戒。また都道府県が運営主体となるための条件整備に関しても、一部の知事が既に「(私案は)経緯を全く無視したもので、誠に遺憾」などと反発の声を上げており、先行きは不透明だ。舛添厚労相は新制度の運営方法について「県の職員と市の職員が兼任するとかいろいろ手はあると思う」ともしているが、これまで保険者となることを拒否してきた都道府県の理解を得るには「相当なテコが要る」(厚労省幹部)のは間違いない。

 その点では、高齢者医療における公費負担割合の在り方も論点になりそうだ。同相は「税の比率を相対的に増やさざるを得ない」と指摘。後期高齢者医療制度で公費5割、若年層からの支援金4割、後期高齢者の保険料1割としている分担割合を、前期高齢者でも公費5割、若年層からの支援金3割、保険料2割にするパターンを例示した。前期高齢者医療をめぐっては、健康保険組合もかねて公費を投入するよう主張しているほか、与党PTでも「公費が一定の役割を果たすべきではないか」との声が上がっている。

 ただ、約5兆円(2008年度の給付費)に上る前期高齢者医療で仮に5割を公費負担する場合、2兆5000億円もの巨額の財源が必要になる。しかも今後、団塊世代が次第に前期高齢者に入ってくるため、医療費の増加に伴って公費負担額は増大することになる。厚労省や与党の厚労族議員は、前期高齢者医療への公費投入は消費税を含む税制の抜本改革と表裏一体の検討課題とみており、現時点では短期間で結論が出せる状況にはない。

 一方、厚労相私案では、75歳以上でも働くサラリーマンは後期高齢者医療制度に加入せず、被用者保険に加入することを認めるとしている。これに対して与党PT内では、企業の役員などの金持ち優遇だとの批判を招きかねないとの懸念が出ているほか、厚労省幹部も「サラリーマンは社会に貢献しているから健康保険組合などに残ることを認めるという考え方はある。ただそうすると、医者や弁護士らをどうするかという問題が出てくる」と指摘。議論は一筋縄ではいかなさそうだ。

 厚労相直属の有識者検討会は、大学教授ら9人で構成。全国知事会や健保組合、日本医師会といった関係者は全く入っていない。このため与党などからは、「関係者を入れなければ納得を得られる案にならない」との批判も出ている。厚労省は「これから議論していくに当たっては、さまざまな関係者の意見を聞く機会をつくる」(江利川毅事務次官)としており、自治体などからも意見を聴取していく考えだ。


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