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府職労ニュース


2010年10月21日

森は病んでいる
「日本有数の植物群落」食べつくす鹿たち

「有害鳥獣問題研究会」が京大芦生研究林を視察

 10月4日、京都大学研究林(南丹市美山町)のシカ被害の実態を視察し、地域の方々の声を聞きました。メンバーは、京都府有害鳥獣問題研究会の事務局と府職労連代表を加えた6人です。

●林床を食べ尽くした鹿たち

 京大芦生研究林を、「芦生山の家」の今井館長の案内で見せて頂きました。
 まず目についたのは、林床の植物が鹿に食べ尽くされ、全体の地肌が露出している異様な光景です。最近は少しの雨でも由良川の源流である美山川が濁るようになった、といいます。まばらに生えていたのは、シカの好まないイワヒメワラビ、オオバアサガラ、イグサ等で、この3種を除けば、見るべきものはほとんどありません。かつて群生していたというササ類の群落も全滅状態でした。
 写真①の巨木は、幹周り10メートルの桂の保存木。以前、株元に「胸位までびっしり茂っていた」ササ類はどこにも無く、地肌が丸見えです。
 写真②は、かつてここに「長治谷作業小屋」があった広場。シバがわずかに食べ残され、「手入れの行き届いた公園」のようです。
 写真③④⑤は、鹿の食べない代表的な植物3種。
 写真⑥は、研究のために設置された「鹿よけネット」の内と外。鹿食害のすさまじさを見事に示しています。

●森は非常事態

 4200ヘクタールの広大な面積を誇る京大研究林は、「日本有数の豊かな植物群落」とされてきただけにまさに激変。その芽生えも木の実も鹿が食べ尽くし「森の再生」は完全にストップし、その結果、降雨の度に土砂が流出する非常事態です。

●芦生の人たちと熱い交流

 この後、地元の方4人から、生の声をお聞きしました。
 美山町で獲れた鹿のほとんどを地元で解体して肉をとり、生肉又は加工品として販売している先進的な取り組みと共に、「戦後の植林が鹿、猪増加の出発点」「周年、必要に応じて駆除可能なシステムがどうしても必要」などの指摘もあり、今後につながる熱い交流になりました。
 印象的だったのは、山間集落の厳しい現実の中で、地域ぐるみでの汗のにじむ取り組みです。それだけに説得力のある話が多くありました。

大きな課題ひしひし

 まさに森は病んでおり、その要因として農林業の衰退と政府の林業政策の失敗が指摘されているだけに、緊急に対処すべき大きな課題をひしひしと感じさせる視察でした。

●鳥獣に大きな影響を与える「ナラ枯れ」

 芦生原生林や周辺の山では鹿による食害の他、茶色くなった葉をつけたまま枯れているミズナラを何本も見ました。「ナラ枯れ」です。見たのは、ミズナラだったのですが、ドングリのなる木なら樫のような常緑樹であれ、コナラのような落葉樹であれ、また、数百年の巨木もお構いなく虫が侵入し枯らすという状態です。ミズナラ、コナラ、カシ類など森を構成する主力種を含むだけに、よく観察すれば被害はもっと深刻に広がっているかもしれません。

 「ナラ枯れ」の北上は、地球温暖化のあらわれの一つ、とされています。暖地の一部にしか見られなかった「ナラ枯れ」が北上を続け、標高700メートル前後のこの奥深い原生林にも到達、侵入しているのです。熊の出没の原因の一つにドングリなどのエサ不足が指摘されています。

 芦生原生林は、日本海と太平洋の中間、暖温帯林と冷温帯林の中間に位置し植物の種類も多く、学術上も貴重な植物群であるといわれています。その中には、アシウスギ、アシウテンナンショウ等、「芦生」の地名を冠した貴重な植物も含まれています。

 原生林近くの川は、由良川の最上流に位置し、川幅10数メートルの清流です。しかし、最近では雨で水が濁ってしまい「鮎掛けをしようにも鮎がみえない」と、鮎掛け名人が嘆いていました。以前なら、「1メートル位増水しても濁らなかった」そうです。
 森の水浄化機能が落ちて、雨の度に土が流出しているのです。

■「有害鳥獣問題研究会」とは

 「京都府有害鳥獣問題研究会」は7月17日、京都社会福祉会館で研究者や自治体職員、農林関係者、自治体OBなどの参加で設立されました。
 いま、京都府内の中山間地における野生のニホンジカ、イノシシ、ニホンザルなどによる農林業を中心とした被害は、農林業を含めた地域社会の崩壊につながりかねない深刻な事態となっています。この事態に対処するため、「学習や交流、調査、研究、提言等を行い、多くの個人、団体のとともに展望を切り開きたい」との思いから、10月4日に最初の行動として南丹市美山町の「芦生京都大学研究林」の調査を地元の協力も得ながら実施しました。

 今後は、美山の実態調査の報告会、府北部を中心に年内に実行委員会形式による「有害鳥獣問題を考える研究集会」を計画しています。今年の猛暑により有害鳥獣の被害が懸念されています。「研究会」の活動が注目されています。

①幹回り10メートルの桂、下草の笹はどこにもない

②ここのシバは伸びれば鹿が食べ、まるでいき
届いた公園のよう

③鹿が食べないイグサ

④イワヒメワラビ

⑤オオバアサガラ

伸びればすぐ食べられるシバ

⑥鹿よけネットの内と外