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府職労ニュース


2010年 9月24日

これからの京都府政はどうあるべきか
地域主権改革・道州制…地方自治をめぐる大激動の時代

府職労連自治研集会、基調報告

 1.はじめに
格差と貧困をもたらした「構造改革」路線ノーの国民的審判がくだされ、民主党を中心とする政権が誕生しましたが、この政権は、国民の期待に背を向け、普天間基地の県内移設や消費税増税などアメリカと財界の意向に従う姿勢を強めています。地方自治を巡っては、政権与党が「一丁目一番地」と位置づけすすめてきた地域主権「改革」で、6月に「地域主権戦略改革大綱」が閣議決定され、「地域主権改革一括法案」も衆議院に送られ継続審議扱いとなっています。経団連が「究極の構造改革」と位置づけている道州制導入とも軌を一にし、いま、地方自治は、最大の危機を迎えていると言えます。
4月の京都府知事選挙では「構造改革」路線の転換、「いのちの平等」「くらしの再生」が大きな争点となりました。府政の転換には至りませんでしたが、山田知事は選挙後、集落の振興や医療対策の充実、子どもの医療費無料化拡充など府民要求に一定応えざるを得なくなった状況が生まれています。その一方で、京都地方税機構の強行発足、国民健康保険の府一元化構想、関西広域連合推進など新たな「構造改革」が展開されようとしています。
以上のような情勢のもとで開かれる第26回自治研集会では、以下の3点を討論の中で深めあいたいと考えます。
①知事選でも争点となった「いのちの平等」「ふるさと再生」の課題が現局面でどのような状況にあり、課題はどこにあるのか、府政政策と地域での運動の両面から明らかにする。
②民主党政権と財界が進める「道州制」「地域主権改革」「新たな公共」の問題点を明らかにし、あるべき地方自治像を考える。
③府政労働者として、現在の府政のあり方についてあらためて考える場とし、同時に府民本位の府政の実現に取り組む府職労連の果たす役割を確認する。
また討論を通じて、私たち府職員が府民本位の仕事を進める上で、自らの専門性を問うていきたいと思います。

2 地域主権改革と道州制
民主党政権は自民党政権時代の「地方分権改革推進本部」を廃止し、鳩山前首相を議長に、原口総務相を副議長にし、橋下大阪知事らを構成員にした「地域主権戦略会議」を昨年11月に設置し、6月22日に「地域主権戦略大綱」を閣議決定しました。「大綱」は、「住民に身近な行政は自治体に委ねることを基本とし、国は本来果たすべき役割を重点的に担う」国のかたちをめざすとしており、90年代後半に自民党・橋本内閣が「国と地方の役割分担論」を唱え、6大改革で福祉・教育などに関する国の責任を縮小しようとした流れに忠実に沿い、さらなる公的責任の縮小と自己責任論が色濃くにじみ出ています。具体的に次のような問題点があります

①国と地方の役割分担・補完性の原則を強調する中で、これまですべての国民に最低生活基準、いわゆるナショナルミニマムを保障してきた国の役割と責任を放棄しようとしている点です。実際に上程されている「地域主権一括法」ではこれまで国が自治体に対して行ってきた最低基準の義務づけを後退させ、自治体の条例に委ねています。例えば多くの自治体が財政的に厳しい状況にあり、整備基準に満たない住宅の建て替え計画も縮小している中で、公営住宅法が定めていた居室の広さや防火・耐震化対策などの公営住宅の設備基準と入居資格基準を自治体条例に委ねるとしています。待機児童の多い市町村区での保育所の居室面積基準など、児童福祉施設の設備や運営基準の一部についても同様です。この点については昨年12月に鳩山内閣が策定した「地方分権改革推進計画」で提起されており、保育の関係者・関係団体から危惧の声があげられていました。またグループホームなど高齢者施設の設備や運営基準についても取り上げられおり、死亡事故が続発しているグループホームの火災事故の防火対策がさらに後退する危惧が指摘されています。また大綱では「国の出先機関の原則廃止」を打ち出していますが、全国知事会の「国の出先機関原則廃止PT」では、労働行政に関し、地方労働局、ハローワークと並べて労働基準監督署も挙げており労働政策審議会から反論も出されるなどの動きがあります。いずれにしても国の出先機関を地方移管してナショナルミニマムが果たして保証されるのかが問われています。

②首長と議会の議員をそれぞれ住民が直接選挙する二元代表制の変更も含む地方公共団体の基本構造の選択を「地域住民自らの判断と責任によって」行うことができるようにすることをはじめ、地方自治法を抜本的に改め、地方政府基本法を制定するとしています。これまでの議論から、議会と首長が牽制しあう二元代表制を変えて、議会から特別職を選出するなど、国の議員内閣制に似た構造を地方議会に持ち込み「地方政府」と称し、住民の声が地方自治体の運営に反映されなくなる危険性が明らかになっています。

③「地域のことは地域が決める『地域主権』を確立するため、国から地方への『ひも付き補助金』を廃止し、基本的に地方が自由に使える一括交付金にするとの方針の下、現行の補助金、交付金等を改革する」としていますが、「一括交付金」は何より政府の経費・人件費大幅削減により、総額を大幅に抑制する狙いを持ったものです。さらには交付税を解体して財政調整機能を大幅に後退させた上で、国の財源保障責任を極めて限定し、地方に負担を迫り、地域格差を拡大させる危険性があります。

④都道府県の区域を越えた広域連携を進め、明確に道州制の検討も射程に入れると宣言している点です。経団連は道州制を「究極の構造改革」と位置づけ、民主党、自民党、みんなの党などは競い合って推進しようとしています。道州制は、単なる都道府県の再編でなく、財界奉仕の国づくりの構想として、国家機能を外交、防衛、危機管理などに特化し、その受け皿としての10程度の道州と300~700程度の市町村再編を想定しています。そして大規模に産業基盤整備を展開し、近畿では大阪エリアに人・モノ・金を集中させることをねらっており、地域の疲弊をいっそう加速させることは明らかです。
 あらためて、地方自治の本旨に立ちかえり、住民自治の拡大と都道府県と市町村の二層性自治の果たす役割について、府民的な検証が求められます。

3 府政の状況
3-1 府政に現れる2つの流れ

 山田知事はこれまで「小泉改革が、民間活力、地域活力を利用することでわが国の活力を取り戻そうとする流れは私も同感」と語り、京都府政に「構造改革」路線を持ち込んできました。しかし5軒に1軒の中小企業の倒産・廃業など地域経済の疲弊、4割に到達した非正規労働者の急増など深刻な雇用情勢、北部をはじめとした医師不足と地域医療の崩壊、押しつけ合併のもとでの限界集落の拡大など構造改革路線の爪痕は誰の目にも明らかになってきました。
京都商工会議所が7月に発表した京都の経営経済動向調査結果では「業況は着実に持ち直しが続く」としていますが、4~6月期の自社業況(総合判断)でのB.S.I値は大企業が3.7であるのに対して中小企業は▲4.3であり、大企業との上昇幅に差がみられることを指摘しています。また京都府内の倒産件数は7月度では5カ月連続で前月を下回り、件数・負債総額とも今年最少でしたが、サービス、繊維、食品など内需にたよる業界での経営破たんの割合が多く、負債1億円未満の小規模倒産が今年に入り連続7か月70%を上回っており、小規模な事業者の破たんが高い水準で進行しています。府内の有効求人倍率は1月から微増して7月の指数は0.55倍となっていますが、正社員のみでは横ばい状態であり、0.34倍と1を大きく割りこんだ状態が続いています。また実質賃金指数も平成21年は95.0と下降傾向にあります。

 このような府民の暮らしの実態があるもと、知事は知事選後の登庁式で知事選挙を振り返り、「全体を通じ、大変厳しい経済情勢の中で、高齢化が進んでいくことに対する不安、閉塞感は著しいものがあり、雇用の問題、医療、福祉、子育て、そして商店街等地域活性化の問題について、改めて切実な声をお聴きしました」と述べざるを得ず、府民の「構造改革から暮らしの再生へ」という願いは押しとどめることはできない大きな底流となっています。3期目に入った山田府政は、「いのちの平等」「暮らしの再生」の切実な府民の声・要求に耳を傾けざるを得ないという側面を持ちつつ、道州制を視野に入れた「関西広域連合」推進、「税業務の共同化」、政府の医療費適正化計画を推し進める「国民健康保険の市町村から都道府県への一元化」など、地域主権「改革」を全国に先駆け様々な分野と手法で推し進める府政となっているのが最大の特徴です。

3-2 府民の要求運動により前進したもの
 知事選挙や様々な府民のたたかいを通じて、3期目初の本格予算となった6月補正予算には、「暮らしの再生」「いのちの平等」の要求に応える予算が一定組まれました。
-医療問題
 京都府内での地域による深刻な医療格差は知事選でも大きな争点になりました。医師確保の困難から脳神経外科が休止されていた与謝の海病院では1万人目標で再開を求める署名が取り組まれるなど運動が広がった結果、2009年11月に外来診療が再開されていましたが、さらに一部手術・入院受け入れが再開され、今年度から新たに神経内科も設置されるなど改善が進んでいます。

-くらし・福祉
 子どもの医療費無料化拡充のための検討予算が盛り込まれました。子どもの医療費無料拡充の動きは、府内でも2010年に入ってから新たに9市町村で実際に改善あるいは改善予定となっています。この他、私立高校授業料無償化のための学校経営支援策、生活困窮者に対するワンストップサービス相談窓口の設置、鳥獣害被害対策強化のための狩猟者確保や防除活動への支援策などが計上されました。6月の組織定数では、過疎化・高齢化の進む地域で地域住民とともに地域の課題解決に取り組む「里の仕事人」が配置されました。また生活困窮対策、緊急雇用対策、地域包括ケアの対策推進、鳥獣被害対策など知事選挙の争点となった課題の担当部署で増員されるなど人員体制において少なくない点で「構造改革」のゆがみを是正する方向に向かいました。

3-3 地域主権「改革」を先取りする知事の姿勢
 山田知事はこの間、住民サービスの向上といった行政としての本来の役割よりも効率や経費削減を目的とし、税業務や国民健康保険の府内一元化を推進しています。同時に全国知事会を舞台に地域主権「改革」に呼応して国の出先機関の地方移管についての積極的な発言を繰り返すとともに関西広域連合への京都府の参加条件づくりを急ぐなど、自治体「構造改革」路線を推進する姿勢を強めています。

-京都地方税機構
 徴税・課税の一元化をめざした京都地方税機構を現場の意見を無視して発足を強行し、4月から業務を本格的にスタートさせました。税務行政を市町村と京都府の総合行政から切り離された徴税機構です。税を扱うにふさわしいルール・体制が整備されていない、予算・釣り銭がないなど運営上の問題も次々と発生していますが、税機構送りになると丁寧な相談のうえに立った分納や猶予がされないなどの納税者の声も挙がっています。税機構議会の議論ではすべての滞納事案を機構移管とし、「生活保護者や生活困窮者についても選別すべきでない、市町村と納税者が約束した分納計画も妥当かどうか機構が判断する、クレジット納税も選択は納税者の問題だ」といった答弁が山田連合長や機構側からなされるなど納税者の生活や権利が保証されない事態が生じています。

-国民健康保険の府一元化
 2009年1月の全国知事会で、山田知事が国民健康保険の都道府県への一元化を提起し、昨年4月の組織改正では、さっそく一元化を検討する部署(医療企画課)を新設しました。今年4月に国民健康保険法の改定により都道府県が広域化方針を主導的に策定できるようになったことを受け、年内に広域化方針を策定することを表明、庁内の組織体制も固めて一元化を進めようとしています。
国は増え続ける医療費を抑制するために、都道府県に対し「医療費適正化計画」を策定させ、伸び続ける医療費を「適正化」するよう義務付けてきました。国保一元化には、国保までも医療費適正化計画に組み込み、都道府県によりいっそう医療費抑制の旗振り役をさせる狙いがあります。また、国の責任と負担を曖昧にしたまま、異常に高い保険料や無保険者の急増など、現行の市町村国保の持つ問題や矛盾をさらに拡大するおそれがあります。さらに京都府が1月に全国知事会に対して行った国保の都道府県単位での一元化提案ではレセプト等のデータ把握とともに診療報酬決定、医療機関指導権限の都道府県への委譲を挙げています。これにより同一医療行為に対する診療報酬が地域によって変わることになり、日本の地域医療を支えてきた全国一律の社会保険診療報酬制度を脅かすものとなっています。

-関西広域連合
 関経連会長の「会長」就任を始め関西財界関係者が中心に座る関西広域機構が07年7月に発足。早くから道州制を提案してきた関西財界の思惑にのっとり、道州制をにらんだ近畿圏での「受け皿組織」として関西広域連合設立が進められてきました。しかし広域連合が道州制へ進むことに対する不安や危惧が拡がる中で、「設立案」から「道州制へのステップ」との言葉を消し、まずは体制づくりを優先して府県をまたがる防災、観光・文化振興、産業振興、医療連携、環境保全、資格試験・免許等、職員研修の7分野の事務から着手し、道州制に向け拡充していこうとする戦略です。

 今年1月には関係2府6県の知事により設立準備部会が開催されています。財界は、道州制導入により国家公務員や地方公務員を大幅削減し、生みだした財源で大阪湾ベイエリア構想など大規模な公共投資を進めるなど、その目的を近畿全体の財政を財界のために大阪中心部に集中投資することに置いています。広域行政の効率的推進が名目になっていますが、例えば、ドクターヘリなどは現行の「広域連携」で十分対処できていることや、逆に政令市抜きでの「広域連合」では機能しない消防力などの分野の存在、さらに「広域連合は、責任主体が不明確な広域連携とは違って、特別地方公共団体として、議会の関与や住民監視の機能を持つもの(京都府HP-検討にあたっての基本的考え方)」としながら「連合議会」での京都府選出議員予定数はわずか3名であり、住民の意見が反映できないなど多くの矛盾や問題を抱えています。「屋上屋を架すだけ」「メリットが見えない」といった意見から奈良、三重、福井の各県は参加を見送っており、橋下大阪府知事主導で大阪を中心とした「関西州」に突き進むのではとの警戒感から発足は遅れてきました。京都府ではこの間、パンフレットの作成、「府民だより」への掲載、意見募集の実施など府民向けPRを強めてきました。一方、京都府議会では「デメリットが示されていない」「なぜ『連合』にする必要があるのか」「議会で十分な議論のないまま、広域連合議会のあり方まで含めた設立案が提示され、議会軽視」といった異論が噴出していましたが、山田知事は、広域連合設立に必要な規約案を9月府議会に提案することを決めました。京都府の動きに合わせ、各府県も9月議会に一斉に規約案を提案する予定であり、全府県議会で可決されれば、全国で初めての広域連合が誕生する恐れが強まっています。

4 今こそ自治研運動の前進を
 府職労連は、府民の暮らしと地方自治を守ることと、府民のために働きがいを持って働ける民主的な職場をつくることを統一的に追求してきました。このためには労働組合の立場から現状の府政と地方自治のあり方について、客観的な分析とその上に立った府政のあり方についての提言を行っていくことは不可欠な要素であるといえます。そのためにも職場や支部単位での業務分析、府政を横断する財政や府政のトピックスなどについての分析、提言など通年的な活動の積み上げが必要です。同時に府政の現場は府内の地域であり、各地域での府民の暮らしを取り巻く現状と課題の分析が求められています。舞鶴、福知山、亀岡、乙訓、東山、宇治など府内各地域でのまち研活動も活発に行われています。これらの活動を積極的に行っていくことは単に「課題」であるのではなく、私たち自身の仕事の進め方に客観的な意味合いを与え、「働きがい」を生み出していくのではないでしょうか。ふるさと再生をめざす各地の人々と各層の研究者とも手を結び、新たな京都府政を展望していきましょう。。