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2013年 7月29日

    消えていく漁師の灯
宮崎・日南ルポ(上)

アベノミクスも要因

 宮崎県南部にある日南市は、伝統の「近海カツオ一本釣り」による水揚げ量が18年連続で日本一だ。この漁法をなりわいとしてきた一人、渡辺義一さん(71)の漁船「春日丸」には、後継者の長男数也さん(43)が乗っている。渡辺さんは息子の親孝行を喜びつつも、複雑な思いだという。

 「家業がなければ一般企業に就職もできただろう。継いでくれてありがたい気持ちと、すまない気持ちがある」

 伝統漁法を続ける漁船が一隻、また一隻と姿を消している。この20年間で、最盛期の80隻超から30数隻まで激減。そのしわ寄せをもろに受ける漁師街・南郷地区では、駅前の人影は乏しく、商店も見当たらない。漁師たちが「かつてはこうではなかった」と口をそろえた。

▼燃油負担6000万円増

 カツオは赤道付近に生息する魚だが、一部は黒潮に乗って沖縄周辺や三陸沖などの日本付近にやって来る。近海カツオ一本釣りの漁師は、その群れを狙う。航海に出ると4~7日間はかかり、1隻が年間で消費する燃料油は約1000キロリットルに上る。

 船を降りる漁師が後を絶たないのは、この燃料費の高騰だ。直近の15年で1リットル当たりの価格は28円から90円台に跳ね上がり、操業の適正価格である60円台を大きく超えた。漁師の負担は年間6000万円以上も増えている。

 燃油高騰はもともと新興国の需要増などが要因だったが、近ごろでは安倍政権の経済政策「アベノミクス」がもたらす円安が追い討ちを掛けている。そのため、政府は7月から緊急特別対策を講じ、1リットル当たりの価格が95円を超えた場合、超過分について国が4分の3を負担するとした。しかし、漁師の岩切孝次さん(63)は「国の負担額は数百万円に過ぎず、焼け石に水」と失望している。対策はあまりにも不十分なのだ。

▼「太平洋銀行」底突く危機

 確かに漁業はとにかく金が掛かる。

 近海カツオ一本釣りの漁船は、重量119トンの主力級で1隻6~7億円。安い船でも1億円は下らない。魚群を探知する「ソナー」や船の位置が分かるレーダーなどの設備も、新しくするたびに数千万円かかる。さらには漁に出る時は、燃油だけでなく、カツオを釣るためのカタクチイワシなどエサ代が年間3000万円以上もする。

 それでも、岩切さんたちが漁師を続けられたのは、それに見合うだけの豊かな資源があったからだ。かつて日南の漁師たちは、その潤沢さを「太平洋銀行」と名付けていたという。「陸(おか)で散財しても、漁に出ればいくらでも埋め合わせができた」(岩切さん)。だが、その「銀行」の底が突きかねない事態になりつつある。

 なぜなら、20年ほど前から米国や中国、台湾から来る700トンクラスの大型漁船が赤道付近でカツオを捕り始めたからだ。これらの船は、群れごと網で囲んで捕る「巻き網漁」を用いる。まさに一網打尽の漁法だ。

 岩切さんは「かつては4、5年ごとに不漁の年があったが、今では大漁が4、5年に1回だ。大漁とはいっても、漁獲量はかつての不漁年と同じ程度だ」と危機感を隠さない。巻き網漁の乱獲による資源枯渇の兆候は、既に現れているというのだ。

▼漁師が裕福、今は昔

 前出の渡辺さんは、「昔は漁師という家業を持っていた親父が誇らしかった」と言う。小学生のころ、50人のクラスの中でランドセルを持っていたのは5人だけで、自分がその一人だった。漁師と言えば裕福だった時代。それが「今では家業イコール借金だ」と嘆く。

 アベノミクスによる燃料高騰が顕著になった5月末、対策を政府に求めた全国漁業協同組合連合会の全国集会で、渡辺さんは政治家や官僚たちにこう訴えた。

 「水産業以外の産業が成立しがたい地域の経済基盤の確立について、よくよく考えてもらいたい」

 その一方で、漁師たちは国をアテにせず、地域住民や自治体と協力しながら、自力で苦境を乗り越えようとしている。その現場に足を運んだ。(つづく) 

                 

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