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2013年 5月21日

違法な「水際作戦」を合法化
「生活保護法改正案」 国会提出 

親族の扶養を事実上生活保護の要件に

 5月17日に国会上程が強行された「生活保護法改正案」について中央社保協が見解を発表しました。

違法な「水際作戦」を合法化し、親族の扶養を事実上生活保護の要件とする
「生活保護法改正法案」の撤回・廃案を求める緊急声明


              生活保護問題対策全国会議(代表幹事 弁護士 尾藤廣喜)

第1 はじめに
 現在,国会において審議されている平成25年度予算案では,「生活保護制度の見直し」によって450億円の財政効果を果たすとしていた。そして,いよいよ自民党厚生労働部会は,本年5月10日,生活保護法改正法案(以下,「改正法案」という。)等を了承し,政府は,これを受け,増え続ける保護費を抑制する狙いで,今国会での成立を目指していると報道されている。

 しかしながら,本改正法案は,これまで違法とされてきた「水際作戦」を合法化・法制化し,保護の要件ではない扶養義務者の扶養を事実上保護の要件化するという,現行生活保護法の根本を前近代的復古的内容に変更する驚愕すべき内容を含んでいる。これらの内容は,生活保護制度の見直しについて諮問されていた社会保障審議会の「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」の報告書にも全く触れられておらず,これまで議論の対象にさえなっていない。

 しかも,配布されているポンチ絵や法律案要綱にも,全く触れられておらず,こっそりと隠されている。わが国の生活保護の利用率,捕捉率は,ただでさえ先進国中で異常に低い状況にあるが,仮に,本改正法案が成立し施行されることとなれば,より一層,生活保護を必要とする生活困窮者が生活保護を利用できなくなり,餓死者,自殺者,親族間殺人等の犯罪の多発という戦慄すべき事態を招くことが必至である。

 本改正法案は,何としても廃案とされなければならない。第2 違法な「水際作戦」の合法化(改正法案24条1項2項)1 現行法,確立した裁判例と厚生労働省通知の内容現行生活保護法は,保護の申請は,書面によることを要求しておらず,申請時に要否判定に必要な書類の提出も義務づけていない(現行法24条1項)。口頭による保護申請も認められるというのが確立した裁判例iであり,保護の実施機関が,審査応答義務を果たす過程で,要否判定に必要な書類(通帳や賃貸借契約書等)を収集することとされている。

 しかし,実際の実務運用においては,要保護者が生活保護の申請意思を表明しても申請書を交付しなかったり,申請時には必要ない疎明資料の提出を求めて追い返す事例が少なからず見受けられたが,これらの行為は,申請権を侵害する違法な「水際作戦」と評価され,数々の裁判例においても違法であると断罪されてきた。そのため,厚生労働省も,「保護の相談に当たっては,相談者の申請権を侵害しないことはもとより,申請権を侵害していると疑われるような行為も厳に慎むこと。」として(実施要領次官通知第9),繰り返し現場に警鐘を鳴らしてきた。

2 改正法案24条1項2項の内容
 ところが,改正法案24条1項は,「要保護者の氏名及び住所」等だけでなく,「要保護者の資産及び収入の状況(生業若しくは就労又は求職活動の状況,扶養義務者の扶養の状況及び他の法律に定める扶助の状況を含む)」のほか「厚生労働省令で定める事項」を記載した申請書を提出してしなければならないとし,同条2項は,申請書には要否判定に必要な「厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」としている。

 すなわち,改正法案は,これまで口頭でも良いとされていた申請を必要事項を記載した書面の提出を要する「要式行為」とした上で,要否判定に必要な書類の提出までも必須の要件としている。

3 改正法案24条1項2項の効果(=「水際作戦」の合法化)

 改正法案24条1項及び2項が成立すると,必要とされる事項をすべて申請書に記載し,必要とされる書類をすべて提出しない限り,申請を受け付けないことが合法となる。つまり,これまでは,申請意思が表明されれば,まずはこれを受け付けて,その後に実施機関の側が調査権限を行使して,保護の要否判定を行う義務を負っていたものが,逆に,要保護者の側が疎明資料を漏れなく提出して自身が要保護状態にあることを事実上証明しなければならなくなる。

 これは,これまで違法であった「水際作戦」を合法化・法制化することによって,多くの生活困窮者を窓口でシャットアウトする効果をもつ。「生活保護は、憲法25 条に定められた国民の基本的人権である生存権を保障し、要保護者の生命を守る制度であって、要保護状態にあるのに保護を受けられないと、その生命が危険にさらされることにもなるのであるから、他の行政手続にもまして、利用できる制度を利用できないことにならないように対処する義務がある」(後記注2小倉北自殺事件判決)にもかかわらず、生活保護を必要とする状況にある生活困窮者に申請時に今回の法改正案のような負担を課せば、客観的には生活保護の受給要件を満たしているにもかかわらず申請を断念に追い込まれる要保護者が続出する危険性が高い。

 また、自治体の福祉事務所が誤った説明で要保護者を追い返す違法行為が後を絶たない現状で、書面を提出しなければ申請と認められないことになれば、後で争いになっても違法行為を行った行政側が「書面で申請書が提出されていない以上申請とは認められない」と強弁する口実を与えることになる。

第3 扶養義務の事実上の要件化(改正法案24条8項,28条2項,29条)
1 現行法と厚生労働省通知の内容

 現行生活保護法は,扶養義務者の扶養は保護の要件とはせず,単に優先関係にあるものとして(現行法4条2項),現に扶養(仕送り等)がなされた場合に収入認定してその分保護費を減額するに止めている。

 しかし,実際の実務運用においては,あたかも親族の扶養が保護の要件であるかのごとき説明を行い,別れた夫や親子兄弟に面倒を見てもらうよう述べて申請を受け付けずに追い返す事例が少なからず見られ,札幌市や北九州市などにおいては,追い返された要保護者が餓死死体で発見され社会問題となってきた(別紙参照)。

 これらも,明らかに違法な「水際作戦」であるため,厚生労働省は,「『扶養義務者と相談してからではないと申請を受け付けない』などの対応は申請権の侵害に当たるおそれがある。また,相談者に対して扶養が保護の要件であるかのごとく説明を行い,その結果,保護の申請を諦めさせるようなことがあれば,これも申請権の侵害にあたるおそれがあるので留意されたい」との通知を発出して(実施要領課長通知問第9の2),現場に警鐘を鳴らしてきた。

2 改正法案24条8項,28条2項,29条の内容

 しかし,改正法案28条2項は,保護の実施機関が,要保護者の扶養義務者その他の同居の親族等に対して報告を求めることができると規定している。また,改正法案29条1項は,生活保護を申請する「要保護者の扶養義務者」だけでなく過去に生活保護を利用していた「被保護者の扶養義務者」について,「官公署,日本年金機構若しくは共済組合等に対し,必要な書類の閲覧若しくは資料の提出を求め,又は,銀行,信託会社・・雇主その他の関係人に,報告を求めることができる」と規定している。

 つまり,生活保護を利用しようとする者や過去に利用していた者の扶養義務者(親子,兄弟姉妹)は,その収入や資産の状況について,直接報告を求められたり,官公署,年金機構,銀行等を洗いざらい調査され,さらには,勤務先にまで照会をかけられたりすることとなるというのである。

 さらに,改正法案24条8項は,「保護の実施機関は,知れたる扶養義務者が民法の規定による扶養義務を履行していないと認められる場合において,保護の開始の決定をしようとするときは,厚生労働省令で定めるところにより,あらかじめ,当該扶養義務者に対して厚生労働省令で定める事項を通知しなければならない。」と規定されている。厚生労働省令でいかなる事項が定められるのかは現時点において定かではないが,本声明の末尾に添付した文書例のような通知が想定される。すなわち,扶養義務者に対し,上記の関係機関や雇主等への調査権限の存在(改正法案29条1項)や,十分な扶養が行われていない場合には事後的に要保護者本人に支弁された保護費の支払い(徴収)を求められる場合があること(現行法77条1項)を告知したうえで,その収入,資産状況と扶養の可否や程度の報告を求める(改正法案24条8項)という内容である。端的に言えば,正直に収入や資産状況を告白し,できうる限りの扶養(仕送り等)を行わなければ,官公署・銀行,さらには勤務先にまで洗いざらい調査をかけ,事後的に本人に支弁した保護費の支払いを求めることがあるぞと受け取れる「脅し」の文書が想定され
るのである。

3 改正法案24条8項,28条2項,29条の効果(=扶養の事実上の要件化)

 上記のとおり,親子,兄弟等の親族が生活保護の申請をすれば,その扶養義務者は,その収入や資産状況を勤務先も含めて洗いざらい調査され得る立場に立つことになる(仮に,本人が生活保護から自立しても,生活保護を利用していた期間については生涯調査の対象となる)。そして,保護の開始決定前にその旨の警告を受けるのであるから,扶養義務者としては,無理をしてでも扶養を行うよう努力するか,保護の申請をした本人に申請を取り下げるよう働きかけるであろう。

 これは,扶養を事実上保護の要件とするのと同じ効果を持つことが明らかである。生活保護を利用しようとする者の親族もまた生活に困窮していることが多く,仮にそうでなくても,関係が悪化したり疎遠になっていることが多い。扶養を事実上強制されることとなれば,生活に困窮する者の大多数が生活保護の利用を断念せざるを得ず,さらには,親族間の軋轢を悪化させる事態が容易に想像できる。

第4 改正法案のその他の問題点

1 後発医薬品の使用促進(改正法案34条3項)

 改正法案34条3項は,「被保護者に対し,可能な限り後発医薬品の使用を促すことによりその給付を行うよう努めるものとする。」と規定している。法文上,後発医薬品の使用を義務づけるとはされていないものの,敢えて明文化することによって事実上使用を強制する効果を持つ危険が高い。

2 被保護者の生活上の責務(改正法案60条)

 改正法案60条は,被保護者に「健康の保持及び増進に努め,収入,支出その他生計の状況を適切に把握する」という「生活上の責務」を負わせている。生活保護利用者の中には,精神的又は知的な障がいや依存症(アルコール,ギャンブル)等のために健康管理,家計管理に支障を来す人も一定数存在する。求められているのは専門的個別的な治療や支援であるが,一方的に被保護者に責務を課すことは,本人を追い込み,問題をこじらせる危険が高い。

3 保護金品からの不正受給徴収金の徴収(改正法案78条の2)

 改正法案78条の2は,不正受給の徴収金(法78条)を保護金品から徴収することを認めている。法文上,本人の申し出を前提とはしているが,敢えて法文化されることによって,事実上強制され,保護金品の差押え禁止(法58条)規定に違反する結果となる危険が高い。
                                                      以 上
                         

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