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2013年12月 9日

JAL再生の光と影
経済ニュースの裏側

(1)ジャーナリスト 北健一

 まるで「神様」のようである。会社更生になった日本航空(JAL)の会長を務めた稲盛和夫氏に対する大マスコミの扱いのことだ。

 朝日新聞は10月27日、「中国企業家たち 『稲盛哲学』心の道しるべに」と題する編集委員のコラムを載せた。稲盛氏の教えを受け、「利他」や「徳」を取り入れた経営が中国に広がっているという。日経新聞の編集委員は近著で「日本は再生できる。JALを蘇らせることで、稲盛はそれを証明した」と書いた。

 大マスコミの稲盛絶賛で思い出したのが、住管機構、整理回収機構という国策会社を率いた中坊公平弁護士(故人)についての報道だ。国家権力をバックに不良債権回収を進めた中坊氏を、メディアは「平成の鬼平」と持ち上げた。

 それは時代劇のように分かりやすく、不良債権問題を「借りたものを返さない人」のせいにし、旧大蔵官僚と銀行の免罪に手を貸す。その挙句、住管機構による詐欺的回収の責任を取って中坊氏は弁護士バッチを返上した。

 JALはどうか。経営が再建したのは良かったが、それは国の出資と会社更生による債務圧縮、徹底したコストカット、税制優遇効果による。事実を見る限り、稲盛哲学の効果は不明というほかない。

 「利益なくして安全なし」と言い放つ稲盛経営の副作用も見過ごせない。10月25日に開かれた集会で、JAL乗員組合の田二見真一委員長は、「JALでは人材確保もままならず、育成も追いついていません。こんな状態で再生を目指しているとは、とても思えません」と語った。

 2年前の整理解雇以降も、JALでは社員の退職が止まらない。立派に再生したのなら、なぜ人が去るのか。

 心配なのは安全面だ。昨年1月2日には、フライト直前に肋骨(ろっこつ)を折った機長が、痛みをこらえて旭川空港から羽田空港まで旅客機を操縦するという出来事さえ起きた。

 会社が空前の利益を上げる半面、働き手はヘトヘトで安全への懸念も広がるが、そうした報道はほとんどない。政府と大企業の発表に依存した大マスコミが取り上げない、そんな「経済ニュースの裏側」を新連載で追っていきたい。

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