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2013年 3月28日

「先を考えられるようになった」
〈無期・正規に転換した職場は今〉中 

サービス連合帝国ホテル労組 

 帝国ホテルが労組の要求を受け入れ、1年有期契約のエリア社員約500人全員を無期契約に転換してから2年。4月からは正社員と給与体系を一本化する人事制度をスタートさせ、正社員登用の枠を増やす。組合員からは「先を考えられるようになった」との声が上がる。

▼年収上限はほぼ倍に

 有期契約の撤廃から2年。エリア社員(4月からは東京/大阪社員)の柴田美博さん(25)は「特に変化はない」と話す。有期契約とはいっても、組合が以前から雇い止めを許さなかったためだ。人材が定着しない主な問題は雇用不安ではなく低賃金にあった。

 専門学校で洋菓子作りを学び、卒業後入社した。この春で勤続6年目に入る。一人前のパティシエ(洋菓子職人)をめざし、ケーキなどをつくるペストリー部門で経験を積む。

 同期入社は皆、有期契約で採用された世代。正社員登用試験を2度受けたが、残念ながら及ばなかった。以前のルールだと受験には「入社後3年間で2回」の制限があったため、正社員化の望みは絶たれていた。

 「仕事はきちんとやろうとプライドを持って臨んできたが、正社員になれた人と同じ仕事をしているのに給料が違ったり、退職金が出ないのはなぜだろうと疑問に感じていた。特に後輩が正社員になっているのが辛い」と胸の内を明かす。

 長い時間かけて人材を育てる職場なのに、1996年に導入したエリア社員制度は、長期の勤続を期待しない制度だった。30歳で昇給は頭打ちとされ、年収は若手正社員の90%(2年前に91・5%に)、最大300万円程度に抑えられていた。これでは家族を養えない。

 無期転換後、労使で人事制度の見直しを協議。4月からは、45歳まで年収が伸び、上限を540万円に引き上げる新たな人事制度をスタートさせる。同年代の若手正社員との格差はわずか5%にまで縮小させた。そのために高齢層の昇給原資を一部まわしている。

 正社員登用も受験制限を撤廃し、「昇格試験」のようなイメージの制度とした。比較的厚い高齢層の退職後、相当数が社員になれる見込みだという。

 これらの見直しで心境の変化があったかと聞くと、柴田さんは「ありましたね。先が考えられるようになった。以前だったらどこかで辞めていたと思う」と笑顔をみせる。

▼経営陣は今も後ろ向き

 「経営側はつねに嫌々だった。今でも経営陣には頭が切り替わっていない人がたくさんいる」。帝国ホテル労組(サービス連合加盟)の岡本賢治中央委員長は、非正規労働の安易な拡大に警鐘を鳴らし続けてきた労組の取り組みと、厳しかった交渉を振り返る。

 経営側がエリア社員の割合を半数に引き上げようとした2000年代前半から、労組は「ホテルの付加価値の源泉は人にある」と訴え続けてきた。正社員登用制度や、職場ごとに必要な正社員数を定め欠員を補充する「要員協定」はその賜物だ。今では人材の定着にはそれなりの処遇が必要という認識を一定共有できている。

 だが、それでもすんなりとは事が運ばない。

 残る5%の年収格差がそれだ。差は一時金の額によるもの。経営側が人件費増に抵抗した結果だった。

 エリア社員への退職金制度の適用も2年前に見送っている。連結ベースで年間営業利益が吹き飛ぶ額の積み立て不足が判明。正社員の現行支給水準さえ500万円程度引き下げざるをえない苦渋の決断を強いられた。「エリア社員全員に広げると、退職金の支給水準はさらに低下し、世間水準を大幅に下回ることになる。(正社員とエリア社員の組合員が)皆で決めるにはそれが限界だった」と同委員長は語る。

▼強い労組が必要 

 日本社会全体でみれば、自社の非正規労働の実態さえ知らない企業内労組が多いなかでの先進的な実践。だが、残る格差への思いもくすぶる。

 岡本委員長は「まじめに長く働いていれば、ほどほどに正社員になれ、そうでなくてもかなりの割合で年収が45歳で500万円台に届く制度。とはいえ、差は差でもある。過渡期にある今、次の人事改定を見据え、より職場に根ざした強い労組になることが必要だ」と語る。

 エリア社員の多くが組合の職場委員になり、苦情処理を担う。家族を養える労働条件を整えた今、彼らが主軸となる近い将来に、格差解消の希望をつなぐ。

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