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2013年 8月 1日

働き続けられない業界
最低賃金の周縁で

タクシー運転手/減り続ける収入

 猛暑続きだった7月上旬の夕暮れ時、横浜駅から東急東横線でひと駅の町にある自交総連神奈川地連の事務所には、S書記長(男性)がよく冷えた麦茶をグラスに注いでくれた。室内は参院選関連のビラやニュースが、四隅の角をそろえて整然と積まれている。訪問前の勝手な先入観が崩れ、パート専従さんがいるのかと尋ねると、「散らかっているのが嫌いでして。私一人で切り盛りしています」と笑顔をみせた。

 乗務歴は20年超。タクシー業界の盛衰を肌身で知る。組合業務の傍ら、今もハンドルを握る。国(神奈川労働局)を相手に、神奈川県の最賃は生活保護を下回っているとして、是正を求める「神奈川最賃裁判」にこのほど、第4次原告として仲間とともに名を連ねた。

▼「足切り」と規制緩和で

 「営業収入が低い人は、最賃を割り込んでしまうのです」

 収入が一定の水準に満たないと、乗務が月法定労働時間(173・8時間)を超えても、手取り10万円程度にしかならず、実際には神奈川の最賃849円を下回る。タクシー業界では有名な「足切り」と呼ばれる賃金カット。業界特有のグレーゾーン運用だ。

 Sさんのようなベテランともなれば足切りはないが、それでも、2000年代初頭の規制緩和の影響をはじめ、リーマン・ショック(08年)後に落ち込んだ収入は、持ち直す兆しが一向に見えない。

 神奈川の最賃裁判は、生活保護を低く、最賃は高めに見積もる厚生労働省の計算方法を是正すれば、2010年度の神奈川の最賃額は時給1471円以上必要になると訴え、少なくとも1000円以上に決定するよう求める裁判だ。今、タクシー業界ではこの水準を超えられる人ばかりではない。

 「生活保護より低いというのは納得できません」。Sさんはかみしめるように語る。

▼無理して長時間労働

 タクシー業界は暮らせない業界になりつつある。

 厚労省の賃金構造基本統計調査(2012年版)によると、所定内賃金の全国平均は19万6000円で、所定実労働時間は171時間。時給換算すれば1146円にすぎない。高知県は時給696円、大分県では729円と低い水準にとどまる。

 「リストラに遭って入ってくる人はギャップが大きすぎて辞めていく。拘束時間が長く、フルに働いても10万円そこそこしかもらえない仕事を誰が続けますか。結局、年金収入のある人や、小づかい稼ぎの人、単身者に限られる。5年先を見通せない業界になってしまっているのです」

 長時間労働も深刻だ。2010~12年度の脳・心臓疾患の労災認定件数はそれぞれの年で、運輸業・郵便業が他の業種を抑えて最多。精神障害の認定件数は、自動車運転従事者が上位を占める。

 生活できる収入を得ようと無理をして働き、健康を害してしまう。結果、乗客の安全にそのしわ寄せが及ぶということを忘れてはならない。

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 タクシー業界は歩合制が基本で、自由に働ける印象があるが、それも暮らせてなんぼの話だ。運転手の平均年齢は57歳(2010年)と他産業よりも高い。低過ぎる最賃が低賃金依存の事業体質を助長し、産業の基盤崩壊を助長している。

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