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2013年 8月15日

国、詳細な反論を断念
日本の最低賃金⑥

神奈川の最賃裁判

 最低賃金と生活保護を比較する際、国が誤った計算方法を用いているために最賃が低く抑えられているとして、その是正を命じるよう求める神奈川の集団訴訟が、これから佳境を迎えようとしています。国は原告の主張への詳細な反論を断念。「裁量権」という聖域に逃げ込もうとしています。

 裁判は秋以降、証拠調べに。原告団は「暮らせない最賃でいいのか」という問題の核心に迫る構えです。

▼釈明では開き直り

 裁判は昨年、国が「この裁判は成り立たない」という当初の主張を続けることができなくなり、実質審理に入りました。

 焦点は生活保護費と最賃の比較方法です。2008年の中央最低賃金審議会で使用者側委員の主張がほぼ採用されたことについて、国が準備書面(13年3月11日)で釈明しています。

 そこでは、「審議会の議論」を踏まえているので裁量権の逸脱・乱用は認められないとした上で、「地域別最低賃金が生活保護の水準を下回る水準となることが許容されないものではない」と述べました。生活保護より低くても違法ではないと開き直ったのです。

 他にも原告の主張に逐一反論を試みていますが、ここでは生活扶助のくだりだけを紹介しましょう。

 国は、生活扶助が低い地域を含めた平均額を採用しているため、生活保護が低く算定されます。そのため、原告は「最賃が生活保護を下回らないためには、県庁所在地の額で計算すべき」と主張していますが、国は「通常の事業の支払い能力に照らして使用者の過度の負担になりかねない」と、使用者側に過度に配慮する姿勢を示しています。

 国は次の口頭弁論で、裁判長から「原告への再反論」の意向を尋ねられましたが、国民感情からかい離した主張だと悟ったのか、「計算式については反論しない」と答えました。

▼生計費原則を問う

 そこで、国が逃げ込みを図る先が「裁量権」です。これは法律をどのように運用するかについて、行政に判断が委ねられた権限のこと。裁判所もよほどのことがない限り踏み込みにくい分厚い「壁」だとされます。

 原告が主張する方法で計算した場合、10年度の神奈川の最賃と生活保護の差は600円以上。このような著しく低い水準に据え置く最賃の決め方は、裁量権の逸脱で乱用であると主張してきました。

 この主張と併せて、秋以降の証拠調べでは、現行の最賃は「健康で文化的な最低限度の生活ができる額なのか」と問題の核心に迫る構え。低賃金が生活や社会関係に及ぼす影響を調べる調査を2000人以上の規模で行い、現行の最賃が必要な生計費を満たしていないことを実証し、「低すぎる最賃をこれ以上放置してはならない」と訴える考えです。

▼当事者が立ち上がる

 「神奈川最賃裁判」は、低すぎる最低賃金は違法であると訴える初の集団訴訟です。これまでに10人の当事者が法廷で意見陳述し、厳しい暮らしぶりを語ってきました。「最賃体験」など早くから引き上げの運動に携わってきた福田裕行・原告団事務局長は「『本物の運動』になってきた」と手ごたえを語ります。

▼社会のあり方に気付く

 原告には、タクシーやバスの運転手、スーパー、コンビニの店員、生協委託配送社員、清掃、保育士、病院事務、レストランホール係、ガソリンスタンド店員など、多彩な職種の人々が名を連ねています。

 提訴当時、必死で集めた50人の原告数は、今では倍以上の123人に。1000円の会費で原告を支援する「サポーター」は1000人を超えました。

 福田事務局長は「今までの運動は最賃水準の生活体験をするなど(低賃金で働く人に)代わる形で行ってきたが、当事者が中心に自分自身の労働と生活の実態を赤裸々に語るという、一皮むけた『本物の運動』になってきた」と話します。

 運動はさまざまなドラマを生み、社会に波紋を広げ、人をも変えます。裁判を通じ、「低賃金でずっと働いてきた原告の方が『生活が苦しいのは、自分のせいではないということに気付いた。国や社会のあり方に、おかしいと言えるようになった』と、支援者の前で堂々と話していたことが非常に印象的だった」と振り返ります。

 違法派遣や「名ばかり管理職」の問題では、被害に遭った当事者が声を上げることによって、社会問題となり、その後の法改正や行政の見直しにつながりました。

 最賃引き上げの運動は、当事者が声を上げる新たな段階に入っています。

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