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2013年10月 1日

「審議の公開は民主主義の問題」
日本の最低賃金(10)

インタビュー 前鳥取最賃審会長・藤田安一鳥取大学教授

▲鳥取はすべて公開

 最低賃金の分野では、知る人ぞ知る「鳥取方式」。金額審議、議決、調査報告など審議の全てを公開している。その運営を確立した前鳥取地方最低賃金審議会会長の藤田安一鳥取大学教授は、「金額審議など肝心なところを公開しない密室審議は民主的ではない」と語った。

▲当事者の目が届くように

 ――審議を「フルオープン」にしたのはなぜ?
 今から5、6年前、一生懸命働いても賃金が低いために暮らしが成り立たないワーキングプア(働く貧困層)が社会的に問題になりました。政府も国会もこの問題を取り上げ、最賃引き上げの機運が高まりました。金額を引き上げることについても、私の考えと政府・国会の考えとが合致しましたので、引き上げを求める意見を集約しようと考えました。

 地方最賃審の会長に就任し、着手したのが審議の改革でした。それまでは「原則公開」としながら、専門部会の金額審議は非公開でした。いわば「原則公開」を隠れみのにしながら、肝心なところは「密室」で、市民、県民には分からないという状態がずっと続いてきたわけです。公開されている本審は、既に決まったことを承認するだけの一種形式的なものでしかありません。

 これでは不十分だということで「専門部会の公開」を委員に諮りました。反対意見は特には出ませんでした。ただ、公開してはいけない事態が生じた場合、傍聴者に退席を願う規定は設けています。しかし、これまでそうしたケースはありません。
 重ねて言いますが、パートや派遣で働く人たちから遠い所で、また分からない所で議論をすることは絶対に民主的ではありません。切実な思いを持つ人々の目に触れることが必要です。

 ――その他には?
 「傍聴は1団体6人まで」という旧来の制限も撤廃しました。会場がいっぱいになるなら、移せばいいだけの話。傍聴の制限は民主的ではありません。

 意見陳述のあり方も変えました。それまでは意見が「紙」で提出され、審議会でそれを配布して議論していただけでした。しかし、それでは生の声が届かないし、インパクトも弱い。そこで、労使ともに意見を述べたい人には、直接、審議会の場に来て発言してもらうことにしました。

 外部からの異議申し立ても同様で、従来は「紙」での異議申し立てだったものを、審議会の場で直接述べる機会を設けました。こうしたやり方が現在まで続いています。

 以上、鳥取県の最賃審議会で実施された、(1)審議会の完全公開制度の導入(2)傍聴の自由化(3)参考人意見陳述および異議申し立ての改革が、いつしか「鳥取方式」と呼ばれるようになりました。

 ――企業名が出る調査報告はどうしていましたか?
 企業調査は、労働局の職員を派遣し、その結果を報告してもらっていました。その際、企業名は出てきますが、傍聴者に退席を求めたことはありません。一般に読まれる議事録については、企業名などは伏せています。

▲本音の議論が大事

 ――審議に差しさわりはありませんか? 
 前例のないことだったので、どうなるかと最初は思いましたが、審議の過程をオープンにした方がむしろいいと思っています。

 例えば、それまでは非公式に事務局が労使を媒介し、スムーズに審議が進むようにしたこともありました。しかし、本来、労使は利害が対立して当然。本音で話し合うことの方が大切です。オープンにした結果、うまくまとまらないということがあったとしても、それは仕方のないことです。

 ――昨年は使用者側委員が退席をするひと幕もあったとか
 はい。実際、労使の間で鋭い対立がありました。それは本当の思いが出たわけで、当然起こり得ることだと思います。寛容な受けとめが必要でしょう。むしろ、トラブルを避けて議論を十分にしないことの方がマイナスだと考えます。

▲安全網の意義、認識を

 ――その他に不合理を感じたことは?
 委員が最賃の意義をしっかり認識する必要があると思います。「最賃は不要」と発言する使用者側委員がいました。経営が苦しいのは分かります。しかし、私たちは賃金一般の議論をしているのではありません。「最賃が上がると中小零細企業がつぶれる」という議論は最賃法の趣旨に適いません。賃金を底上げする、ある種の「セーフティー・ネット」としての位置付けがまだまだ不十分だと思います。

 また、せっかく決められた最賃が守られないことが多くあります。この対策も不可欠です。

 ――労働側への助言はありますか?
 使用者側とやりとりする際、もっと実態を把握した議論をして欲しいと思います。使側はわりに多くの資料を出すのですが、それに比べると労側は弱い。最賃水準で働く人々の現状把握が不十分です。
 ですから、審議では、使側がどうしても押し気味になり、労側は後ずさりする感じがしてしまう。もう少し労側も押して行き、互角の綱引きができればいいのではないかなと感じています。

                          「中賃には哲学がない」

 審議を全て公開する「鳥取方式」を確立した前鳥取地方最低賃金審議会会長の藤田安一鳥取大学教授は、中央最低賃金審議会の審議についても民主主義の原則が貫かれなければならないと説く。目安審議、委員選出についても聞いた。

▲公益委員の質向上を

 ――中央最低賃金審議会(中賃)の目安審議はどう見ていますか?
 まずは公開をもっと進めるべきだと思います。地方の場合は、私どもが改革したように、そういう機運がありますが、中賃には全く見られない。その点が不満だし、国民の目が向くことを遮断しているので、一貫性を欠き、「迷走」を続けています。

 「最賃を引き上げなければならない」「早急に最低800円、全国平均1000円の実現」と言ったかと思えば、不況で企業に支払い能力がないからと非常に低額の目安を示す。1、2円の年があれば、今年のように政府の要請で10円以上出してくる時もある。中賃は一体、何を基準に議論をしているのか。哲学がないと言わざるを得ません。

 では、議論に一貫性を持たせるにはどうすればいいか。最賃には今何が必要なのかについての統一した認識を持たなければなりません。その点で公益委員には大いに問題があります。
 労使の中に立つ公益委員が揺れ動いているのです。どこに軸足を置いていいかわからない人たちで構成されているので、圧力を受けやすい方向に振られてしまう。委員の質を変えなければなりません。

▲パートや派遣の代表を

 ――労働側委員が連合系で占められていることについては?
 公平ではないと思います。ただ、労働側委員も自分たちの考えだけで議論が進むことへの不安は十分感じています。連合は全労働者の代表ではありませんから。組織された労働者で比較的恵まれている層の代表です。本当は、労組がない職場でパートや派遣として働く人々の声を吸い上げて代弁しなければならない。そうすると委員が連合系だけでは不十分です。

 とはいえ、労働側にも意見をまとめていきたいという思いもあります。色々な団体の代表がいるとまとまらないかもしれない。使用者側と対峙している時に内輪もめが起こり得ることを考えると、慎重にもなるでしょう。事務局にしても、最終的にはまとめなければならないわけですから、バラバラであっては困る。

 今は最大の団体である連合に委員になってもらっていますが、これでいいとは思っていません。何とか、パートや派遣で働く人々の代表をもっと出せないものかと思います。

〈プロフィール〉
ふじたやすかず
鳥取大学地域学部地域政策学科長。専門は公共政策、財政学。1998年4月に鳥取地方最賃審の公益委員に就任。08年4月から13年3月まで同会長を務めた。

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