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2013年 9月26日

特区構想は労働法崩す突破口
憲法上も大問題

西谷敏 大阪市立大学名誉教授

 産業競争力会議が9月20日に示した、「国家戦略特区」での労働規制外しについて、労働法が専門の西谷敏大阪市立大学名誉教授は「労働法を崩す突破口になる」と指摘し、憲法の精神に著しく反すると語った。

▲労働行政への大きな圧力

 ――「特区」をどう見ますか?
 労働基準法や労働契約法16条(解雇)など、労働者を保護するための法律は最低基準を定めたものですから、全国一律で適用しなければなりません。特定の地域について、例外を認めるという「特区」構想は、諸外国でも聞いたことがないような制度です。

 考え方としては、著しく経済発展が遅れている地域や、大規模災害の被災地で特定の期間、全国と違う労働基準を適用することがあり得るかもしれない。しかし、今回の「特区」による適用除外は全く違います。

 次に指摘したいのは、労働規制を外せば企業が成長し、雇用や労働条件の向上が図られるという、既に破綻した「新自由主義」の理論をベースにしているということです。

 ある地域で「特区」が認められれば、競争条件が不平等になりますから、必ず他の地域も同じように申請するでしょう。これが突破口となり、最低基準を定めた労働法が崩壊してしまうのではないかと強く危惧します。

 厚生労働省はこれらの適用除外に反対しているように言われていますが、労働時間規制の適用除外については、既に「全国レベルで慎重に検討中」です。特区によって労働行政に大きな圧力を加え、全国的な規制も変えてしまおうという意図を感じます。

▲憲法27条に反する

 ――法的に可能ですか?
 一般論、形式論では、法律で定めたものは法律で変えられます。労働時間の適用除外についても、無期雇用への転換申し出権を盛り込んだ改正労働契約法についても、形式的には変更は可能です。

 もっとも、合理的でない解雇を禁じた労契法16条のルーツは、解雇権の乱用を許さないという判例理論です。これに例外を加えるということは、つまり乱用を認めるということ。現行法の大原則に対する挑戦と言うべきで、より重大です。

 そして、どれも憲法27条2項(勤労条件の法定)に反します。「勤労条件に関する基準は法律でこれを定める」とした条文。これは、法律で定められ、これまで適用されてきた労働法の基準を、合理的な根拠なしに引き下げることは許さないという趣旨を含んでいます。

 27条2項がなぜ設けられているかというと、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とする憲法25条(生存権)を具体化するために、適切な最低基準を設けることを、国に義務付ける必要があるからです。
 ですから、「特区」構想のように、合理的根拠もなく、生存権に関わる最低基準の適用除外を設けるということは、憲法に、少なくともその精神に著しく反すると言えます。

▲絶対に認めてはならない

 ――「特区」内では監督行政を強めるとあります
 労働基準監督署による取り締りの強化は実現しないと思います。労働時間規制の適用除外や、無期転換権の放棄については、個々の労働者の「同意」が必要とされていますが、これが強いられたものなのか自発的なものなのかの見極めは非常に難しい。監督署ではほとんど不可能です。

 監督署の体制強化の対象に、「不当労働行為」の防止を挙げているのも間違っています。これは労働委員会の管轄。実におざなりで、とってつけたような内容です。こんな制度は絶対に認めてはなりません。

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