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労務政策の転換を確認 |
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OECD指針使い本社動かす |
「ネスカフェ」「キットカット」で知られるネスレ日本(神戸市)で、少数組合との和解が成立した。スイスにあるネスレ本社の労務担当役員がこのほど来日し、争議解決を支援してきた全労連の大黒作治議長と和解内容を確認する文書に調印。差別や嫌がらせ、不当解雇、配転など、組合分裂工作から31年に及んだ労働争議が終結した。 争議では、労組がOECD(経済協力開発機構)多国籍企業ガイドライン違反として申し立てていた。国際食品労連(IUF)がネスレグループに対し労使対話を求めるキャンペーンを展開する中、ついにスイス本社を動かした。 ▲判決、命令の順守を確約 「昼休みにご飯を食べていると『会社を辞めろ』と言われる嫌がらせが長く続いた。職場の人たちと普通に話せるようになり、僕としゃべっても相手が不利益を被ることがなくなるというのは本当にうれしい」 ネッスル日本労組の前開明書記長がこう話すように、少数組合への差別、嫌がらせは苛烈を極めた。 工場再編を前にした1983年の第二組合発足を機に、会社側は団交を拒否するとともに、遠隔地配転、解雇を乱発。400人いた組合員は、親族や就職採用時の保証人などの繋がりから次々に切り崩されていった。今、現役では5人が組合の旗を守る。 労働委員会などの決定や司法判断は100件を超え、最高裁での組合側勝利判断は4件に上る。しかし、解雇撤回の最高裁判決が出され原職復帰しても、ゴミ集めの雑用をさせられたり、連日取り囲み罵声を浴びせられるなどの暴力的行為が続き、退職に追い込まれた。口を利かない、社内ネットワークにアクセスできないなど、労組分断による「傷」は今も残る。 和解内容はネスレ日本が(1)職場での人権侵害、いじめ、差別的取り扱いがないように努め、従業員教育を行う(2)人事異動の際の事前協議を行い、本人同意を得るよう努める――などで合意。過去の司法判断、労働委員会決定を「真摯(し)に受け止め、今後は順守する」とした。過去の労務政策を繰り返さないという内容だ。 ▲企業ブランドに烙印 画期となったのが、ネッスル日本労組と兵庫労連による、OECD(経済協力開発機構)多国籍企業ガイドライン違反を指摘した提訴だった(2005年)。指針は、差別や強制労働の禁止、団結権の尊重など中核的労働基準の順守を定めているほか、情報公開、環境、消費者利益などについても、多国籍企業の行動を規制している。 指針違反の申し立てがあれば、関係国は連絡窓口となる「ナショナル・コンタクト・ポイント(NCP)」(日本は外務、経産、厚労省で構成)が、解決を探る制度。日本ではこれまでに、フィリピントヨタ、トップ・サーモ(マレーシア)、ブリヂストン(インドネシア)の4件を受理している。 NCPが示す勧告に強制力はないが、その進ちょく状況は、OECD加盟国が集まる年次会合に毎年報告されるため、未解決の状態が長引けば、人権や環境、労働などの「CSR(企業の社会的責任)」に後ろ向きな企業との烙印を押されかねない。 共産党議員による国会質問を経て、提訴から2年後の07年、日本NCPは、審査開始を示す「初期評価」をようやく示した。だが、解決には、労務担当部長の交代と、スイス本社が重い腰を上げるまで待たなければならなかった。 ▲国際労働運動との共鳴 ネスレは最近まで、世界各地で大量解雇や労働組合権の否定など、多くの労使紛争を抱えていた。国際食品労連日本加盟労組協議会(IUF―JCC)によると、欧州では労使対話が行われてきたが、途上国では労働組合権を認めない傾向があり、労組との対話を求めるキャンペーンを展開していた。そして、昨年秋以降、IUFをグローバルパートナーとして認め、紛争解決に向けた話し合いを進めているという。 ネスレは昨年、パキスタンでの雇用安定を求めた争議で協定を締結。今年5月には大量解雇を争ったインドネシアでの長期の紛争が終結した。日本の解決もこの流れに位置付けられると関係者は見る。全労連の小田川義和事務局長も「スイス本社の意思で決した側面が強い」と語る。 和解合意書はネスレ日本とネッスル日本労組、兵庫労連が調印し、その内容をスイス本社と全労連が確認する文書を交わした。小田川事務局長は「全労連とスイス本社が和解内容を保障し合う枠組み。OECDガイドラインを使ったことにより可能となったもの」と意義を語っている。 ■ネスレ日本のコメント 団体交渉に関することと、紛争の終結、債権債務の不存在について合意した。人権と労働の基本原則を示す国連グローバルコンパクトをはじめとする国際的ガイドラインを全面的に支持し、各国の法律を順守して事業活動を展開し、人権と労働慣行の良い模範となることをめざしている。 ■ネッスル労組、全労連の声明(抜粋) 「本社が進出国の紛争の解決に関与する」とした多国籍企業ガイドラインに沿った和解となったことは大きな意義がある。少数派組合でも会社と対等な関係を築く正当性を勝ち取ったことは大きな成果だ。さらに、「ガイドライン」が多国籍企業との紛争防止と争議解決の手段として有効であること、権利擁護の有効な手段となりうることを示した。 OECD指針の活用を/国際労働法の吾郷眞一立命館大学教授の話 OECD多国籍企業ガイドラインは追跡調査・報告を行うフォローアップ手続きがあり、問題解決を担う各国の「ナショナル・コンタクト・ポイント(NCP)」の対応次第では、相当に効果が上がる仕組みとなっています。 ILO(国際労働機関)には、多国籍企業の行動を規制する「三者宣言」がありますが、フォローアップ手続きは不十分です。国連グローバル・コンパクトも言いっ放しで、提訴はできません。ISO(国際標準化機構)はさらに緩く、ISO26000で、企業の自発性に重きを置いた労働基準順守をめざしているだけです。OECDガイドラインは現存する国際条約以外の紛争解決機構の中では、最も優れた制度と言えるでしょう。 ネスレ日本では、少数派労組が最高裁で勝っても、会社側は差別をやめませんでした。OECDの枠組みが「最後の砦」として機能したことは、国際法の専門家としても心強く、嬉しく思います。 通常、NCPは行政機関が担います。日本は外務、経産、厚労省です。当初、日本NCPの対応は鈍く、国会質問があってようやく動き出しました。 一方、欧州諸国の多くではNCPに労組や使用者団体などが加わっています。フランスNCPは約10年前、ミャンマーで軍部とともに強制労働に手を染めていた同国の多国籍企業を、撤退に追い込みました。日本も同様に、労使団体をはじめ民間団体を加えるべきです。 また、ガイドラインの存在を広く知らせることも欠かせません。被害を受けた側も支援する側も、政府機関の側もよく知らないのが現状です。とりわけ、法曹関係者や運動に携わる人にはぜひ知ってもらいたいと思います。(談) |
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