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2013年 3月26日

病院技士の流出が止まった
〈無期・正規に転換した職場は今〉上 

熊本大学教職員組合 

 雇用の上限が5年の特定有期雇用職員390人全員を2010年に正職員化した国立大学法人熊本大学付属病院。今では、臨床工学技士など「コメディカル」(医師や看護師を除く医療専門職)で人材の流出が止まり、中期計画を立てられるほど職場は落ち着きを取り戻した。一方、看護師には効果が表れていないという。背景には、世間相場に比べて低い賃金が横たわる。

▼路頭に迷わず安心

 特定有期雇用職員の制度は2006年にスタート。1年有期、最長5年とするフルタイム勤務で、賃金、一時金で正職員との差はなかったが、退職金の支給はなく、育児・介護休暇を取得できる日数は正職員の半分とされていた。

 07年に、看護体制をより手厚くする「7対1」看護の導入を機に人数を増やしたが、5年でクビになる制度では人材が定着せず、導入から4年で全員を正職員にした。

 あれから3年――。熊本大学教職員組合(全大教加盟・日本医労連オブ加盟)の伊藤正彦書記長は「特に技師などコメディカルの人材流出が止まった。高度医療を担う病院がいくつもある大都市と違い、(母数の少ない)地方では人材確保が難しい。管理側にとって最も頭を痛めていた問題が解決したのではないか」と語る。2~3年で仕事に慣れた頃に辞めていく悪循環に一定の歯止めがかかったのである。

 臨床工学技士の小原大輔さん(40)は勤続5年。人工心肺装置の保守・管理を担う。東京の医療機関での勤務を経て、郷里の熊本にユーターン。その時見つけた一年有期の特定有期雇用職員の求人に応募し、採用された。

 「就職した年、『生まれたばかりの三男が5歳になる頃に無職になるのか』と心配していた。家族が路頭に迷わずに済んでよかった」と振り返る。

 高度医療の質を維持するための職場の中期計画が立てられるようにもなった。職員が透析や呼吸器などさまざまな設備をローテーションで担当し、専門性を究めようという教育プランが行われ始めている。2~3年で人が辞めていった以前の職場では考えられなかったことだ。

▼賃下げは死活問題 

 一方、効果が及びにくい職種もある。看護師だ。伊藤書記長は「労働はきついのに、同じ地域の民間病院と比べて給与が格段に低い。大学で看護師を養成しているのに、新卒が来ないほどだ」。国家公務員(=100)との人件費の比較をみるラスパイレス指数は82・9と低い。
 さらに人材確保に水をさすのが、国家公務員給与の7・8%マイナスに伴う賃下げ。04年の独立行政法人化で「民間職場」となり、職員の処遇は労使交渉で決めるはずの、全国の国立大学法人で吹き荒れている。熊大付属病院では、看護師など医療職には波及させないことで労使が合意したが、事務職も含めれば人材確保にとって「死活問題」となりかねない。

▼組合に恩義 

 病院の労使関係はかつてなく良好だという。2010年の正職員化では、「働く実態は正職員と同じ」という認識を病院・管理側と組合が共有し、大学本部に対し「雇用期限の見直し」を求めていくことで足並みをそろえた。

 組合は大学本部からの09年度の賃下げ提案に対し、賃下げで生じた原資を正職員化のための退職金積み立てに使うことで合意。病院労使が協力して正規化のレールを敷き、職場に落ち着きを取り戻せたことが、その後の労使関係にプラスに作用しているという。

 組合活動でも嬉しい変化が。レクリエーションへの若手の参加が増えるなど、組合活動への姿勢が随分変わってきた、と同書記長は語る。

 現在、組合の副委員長を務める小原さんも次のように話す。

 「正職員化を求めた団体交渉に参加し、組合が自分たちのために頑張ってくれたことへの恩義を強く意識している。人手不足を解消するためにも、人が辞めないで済む職場環境をつくっていきたい」

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