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2012年 5月16日

小水力発電の秘めた力(上) 
「再生可能エネルギーの現場」

「優等生」を活用しきれず 

 富士山の麓にある山中湖から始まる桂川は、日本一高い山がもたらす傾斜に沿って、北へ流れ落ちていく。山梨県東部の都留市にある家中川(かちゅうがわ)はその支流で、かつては広かったという川幅も今は3メートル余りと狭い。その割に水量が豊かなので、川の流れる音は、すぐ脇にある小学校の校庭で遊ぶ子どもたちの声よりも周りに響いている。(写真は、都留市の小水力発電)

▼「環境のまち」の主役に

 都留市ではこうした川の特徴を生かして、2006年から「家中川小水力市民発電所」を運営している。小学校と隣り合う市役所前に置かれた「元気くん1号」、明治末期から1953年まで小水力発電所があった地点に「2号」、そして12年3月には「3号」を新たに稼働した。3基の場所は300メートルの範囲におさまっており、どれもその名の通り「ザザッ、ドドッ」と音を出しながら元気に回っている。

 3基の最大出力を合わせると46・3キロワット(kW)で、市役所や周辺施設の使用電力の5割程度に上る。使用量の少ない休日は電力会社に売電している。

 発電所名に「市民」が入るのは、1~2号の建設費約1億円のうち4割を都留市民の出資が占めているからだ。市は、財政運営に苦しむ全国の自治体向けに制度化された「住民参加型市場公募債」を発行し、「未来への投資」を呼びかけたのだ。一般市民からお金を集めて再生可能エネルギーを促進するやり方は、茨城県神栖市などの「市民風車」のケース(隔日版3月24・27日付)と似ている。

 小水力発電所の近くでは、その電力を使ってアイスプラントという野菜を栽培する施設や、使用電力を一般住宅の約4割に抑えたエコハウスが併設されていた。

 エコハウスの担当者によれば、福島原発事故後からエネルギー問題への関心が高まったことで、県外からの視察が急増したという。市では発電所やエコハウスなどの見学を説明付きで有料にした。都留といえばリニアモーターカーの実験線があることで知られてきたが、市では「小水力のまち」として一躍有名になった効果を観光にもつなげて、出資してくれた市民に恩返ししようとしているのだ。

▼ドイツと格段の差

 この辺で、小水力発電をおさらいしよう。

 小水力発電が水の流れ落ちる力を利用する点では、水力・揚水発電と同じだ。水力や揚水は主にダムから大量の水を落とすが、小水力は河川や渓流、農業用水、上下水道の流れを使う。当然、発電能力は水力よりも低く、出力は1000kW未満に定義されている。

 発電エネルギーが施設を建てるそれよりもどれだけ大きいかを示す「エネルギー収支比」で見ると、小水力は太陽光の7・65倍、風力の約4倍に達する(電力中央研究所調べ)。発電効率に優れた小水力は、再生エネの優等生なのだ。

 資源エネルギー庁によると、09年3月末時点で運転中の小水力発電所は474カ所。ドイツでは7300カ所以上で、毎年約150ずつのペースで新設されているとのデータもある。日本は山梨県のように急流が多く水資源に恵まれているのに、なぜ開発が進まないのだろうか。

 そのワケを聞こうと、都留市を含めた全国各地に水車と発電機を納入している民間企業「日本小水力発電」を訪ねた。

 同社の地元である山梨県北杜市も、八ヶ岳と南アルプスに囲まれた小水力の適地である。同社がやはり発電施設を納めた「村山六ヶ村堰水力発電所」のほか、12年4月には下流に大手商社・丸紅の子会社が導入した別の発電所も動き出している。

 記者が小水力の今後の可能性を尋ねると、事業統括部長の一ノ瀬五男さん(68)は表情を厳しくした。

 「今起きている期待は、表面的で浅い認識から来ている。原子力に代わるエネルギーといっても、原発1基分を100kW級の小水力でまかなおうとしたら1万カ所も必要だ。そんな簡単な話じゃない」(つづく)        


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