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2012年 4月19日

観光支える地熱発電所(下) 
「再生可能エネルギーの現場」

妨げる規制と足りない政策 

 「地熱発電は温泉地に新たな活性化をもたらすでしょう。でも、今のままでは、一企業の投資に見合うものにはならない」
 杉乃井地熱発電所所長の塚崎賢治さんは、施設を取り巻くさまざまな問題を一つ一つ挙げていった。

 その説明の前に地熱発電の仕組みをおさえよう。

 発電のエネルギー源は、地下で熱水がたまっている「地熱貯留層」、すなわち温泉の源泉だ。地下の岩盤の割れ目に流れ込んだ雨水が地熱で熱せられてできたもので、発電には貯留層にパイプを埋め込み、熱水をくみ上げる必要がある。

 火山の鶴見岳のふもとにある杉乃井の貯留層は地下約300メートルにある。国内の発電所の多くは1000メートルよりも深く掘り下げているというから、日本一の温泉湧出量を誇る別府の地の利は大きい。

 くみ上げられた熱水は、気水分離器で蒸気と温水に分けられ、蒸気だけがタービンに送られる。蒸気で回転するタービンが発電機を動かして、はじめて電気が生まれる。

▼事業者にリスク押し付け

 杉乃井発電所は1980年に運転を開始。発電量は当初3000kwで余剰電力を九州電力に売っていたほどだが、今は1900kwに落ち込んでいる。元の能力に戻すには貯留層とのパイプを増やすしかない。

 しかし、法律による規制が立ちはだかっている。

 「温泉法及び大分県温泉法施行条例の施行に関する規則」に基づく「大分県環境審議会温泉部会内規」は、既存の源泉から150メートル以内での地熱発電目的の掘削を認めていない。源泉を掘り当てても埋設するパイプは内規で「80ミリ以内」と決まっている。

 法規制は温泉資源を守るためで、ほかの自治体でも同じ。ただ、杉乃井の地熱貯留層の規模や、近くに別の貯留層があるかどうかは完全につかめていない。調べるには多額のお金がかかり、温泉を掘り当てられなければ、杉乃井はリスクだけを負うことになる。

 所長の塚崎さんは「市民やほかの温泉旅館の方々に理解してもらわないと掘削は難しい」とも語った。
 「別府の温泉資源がどれほどあるか明確でないままでは『温泉が枯れる』と心配されるだけです」

▼使いづらい補助金

 地熱発電を始める事業者の負担を抑えようと、国は補助金制度を用意してはいるが、そのほとんどは単年度。環境エネルギー政策研究所の飯田哲也さんが「開発には時間がかかる。1年間では事業者を支えられない」と指摘する通りだ。

 こうした状況では、ホテルも経営判断として発電所への投資に慎重にならざるを得ず、30年が経過した設備は老朽化。タービンと発電機は2005年に新品に換えたが、それまでは懸命なメンテナンスでギリギリまで使っていた。

 さらに設備の維持に厄介なのは、温泉に付きものの硫化水素だ。腐った卵に似た臭いは鼻やのどの粘膜を刺激するが、発電所の機械にもダメージを与える。運転を制御するパソコンは故障しがちで、アナログの装置も同時に備えていた。

▼「国の責任で支えて」

 地熱発電の機運は高まっている。現在の発電量は全国で計53万kwだが、430~640万kwまで開発可能といわれている。

 別府では、県内の中小企業4社が今春から既存の温泉施設の配管を使った小型発電機の実験を始めた。環境省も3月末に国立公園内の掘削規制を緩める通知を都道府県に出し、福島県では民間10社が27万kw級の大型発電所を計画中だ。

 7月には、電力会社が再生可能エネルギーの電力を国が決めた固定価格で買い取る「FIT制度」もスタートする。杉乃井が九電に売っていた価格は1キロワット時当たり17~18円ほどで、これより高値ならば将来の展望も見えてくる。それでも、所長の塚崎さんは楽観的な考えを披露しなかった。

 「FIT制の定着は政治情勢にもかかってくるのでは。開発から管理まで高いコストがかかる地熱発電は、国や行政が一貫して支える仕組みがないと難しい」

 発電所は6人のスタッフが24時間体制で回し続けている。杉乃井ホテル&リゾートの東健治さんが「所長の言葉は地熱発電の可能性に期待するからこそ」と話すのも、所長たちの苦労を見ているからだ。

▼立派な石碑と老朽施設

 杉乃井発電所の地は、戦後間もないころ、通商産業省工業技術庁の「地熱発電別府実験場」だった。発電所が動き始めた当時は、原油価格が高騰した第2次オイルショックの最中で、今と同じく代替エネルギーが注目されていたという。

 発電所の敷地には、開始当時の通産大臣が自らの名を刻んだ石碑がある。年季の入った発電所と、立派できれいな石碑を見比べれば、日本が再生エネを普及させる好機を幾度も逃してきたことがよく分かる。                 


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