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2012年 6月12日

「国民を守るため」はごまかしだ 
大飯原発再稼働

野田首相の会見を考える 

 野田佳彦首相は6月8日の記者会見で、関西電力大飯原発3、4号機を再稼働する意向を表明した。会見を受けて、地元の福井県では同意手続きが進んでおり、近く再稼働されそうだ。しかし、首相が語った内容には多くのウソがある。

 「福島を襲ったような地震・津波が起こっても事故を防止できる対策と体制は整っています。すべての電源が失われる事態においても、炉心損傷に至らないと確認されています」

 首相は、原子力安全・保安院が結論付けたストレステスト1次評価の結果を重んじている。だが、結果は「大飯原発は想定される地震の1・8倍、津波は11・4メートルの高さまで耐えられる」というだけで、実際に重大事故が起きた際の対策は2次評価に委ねられたまま。だが、関電は2次評価をまだ出していない。

 「(福島原発事故の)最新の知見に基づく30項目の対策を、法制化を先取りして実施するよう電力会社に求めています」

 30項目の対策は、政府が4月に示した暫定基準だ。しかし基準は、津波を防ぐ「防潮堤」と事故時に作業員の被曝を抑える「免震棟」の建設や、原子炉格納容器の爆発を防ぐ「ベントフィルター」の設置を計画だけでOKとしている。

 「IAEA(国際原子力機関)や原子力安全委を含め、専門家による40回以上にわたる公開の議論を通じて安全性を確認した結果であります」

 40回のなかには、保安院が意見聴取会で一般傍聴を拒み、抗議した市民を警察の力で排除したものも含まれる。市民たちが「聴取会の委員に原子炉メーカーから寄付を受けた人がいる」と指摘したのを、保安院は「不規則発言」とみなしたのだ。安全委も1次評価の了承を決めた会議を5分弱で終わらせている。

 「関西の15%もの需給ギャップは厳しいハードル。仮に計画停電を余儀なくされ、突発的な停電が起これば、命の危険にさらされる人も出ます。働く場がなくなってしまう人もいます」

 「電力不足」の根拠は、5月に政府の需給検証委員会が「2010年並みの猛暑で需要ピーク時に供給が14・9%足らない」とした試算結果だ。最悪の場合を考えているようにも見えるが、試算は関電の言い値で決まったのも同じだ。供給について、企業が増強している自家発電の買い取りや、他社からの融通が少なく見積もられているのだ。関電は、検証委で「再稼働しても不足」と説明していたが、途中で「再稼働すれば足りる」と変節した。
 こうした怪しい数字を元に「命や仕事がなくなる」と言うのは、世間では脅しと呼ぶだろう。それを国のリーダーが率先して行ったのだ。

 「国民の生活を守るための今回の判断に、何とぞご理解をいただきますようにお願い申し上げます」
 
 関電は経営危機に突入している。全11基の原発が止まり、12年度3月期のグループ全体(連結)の最終損益は2422億円の赤字。手持ちの純資産も前年同期から約2割マイナスの1兆5298億円に目減りした。資産に占める原発・核燃料関連は約8000万円分に上るため、原発を動かせずに赤字が続けば、最悪の場合は債務超過に陥る可能性もある。首相は「国民の生活を守るため」と連発したが、不十分な大飯原発の安全対策と関電の経営指標を照らし合わせれば、「関電を守るため」と話した方が率直だった。 


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