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2012年 4月26日

職員の献身的努力で態勢維持 
地域医療の拠点は今/〈南相馬を再び訪ねて〉(2)

急速に進む高齢化に課題も 

 東京電力福島第一原子力発電所から32キロの地点にある福島県厚生農業協同組合連合会・鹿島厚生病院。ベッド数80床の地域医療の拠点だ。昨年、原発事故の1カ月後に外来診療を再開したが、屋内退避区域とみなされ、当時は入院が市内で72時間・10床に制限されていた。現在、ほぼ震災前の態勢に戻ったが、ここも施設と職員の献身的な奮闘で支えられている。

▼看護師不足に拍車

 福島市内から車で峠を越え、1時間半ほど東に走った、海寄りの小さな町に鹿島厚生病院はある。南は原発、西は全村避難の飯舘村、北は鉄道が2駅先の相馬止まりと、「陸の孤島」とも表現される南相馬市の北部に位置する。

 「診療態勢はほぼ原発事故の前に戻りました」

 1年前、地元に残る高齢者のためにも地域医療を再開しなければならないと話していた柔道整腹師の菅野晴夫さんが語る。

 南相馬市内の入院制限の問題はテレビの全国ネットでも報じられ、昨年5月の連休明けには一般病棟が、6月には療養病床が再開にこぎ着けた。今は県立医大から医師が派遣され、診察を補っている。

 だが、ここでも人材の流出に頭を悩ませていた。

 看護師や介護士が妊娠や出産を機に退職して市外へ出て行くのである。福島県厚生連労組(福厚労)鹿島分会で中央執行委員を務める介護士の大友浩介さんは、「自分たちのことはあきらめているけれど、子どもへの万一の(放射能の)影響を考えると仕方がないですね」と、去って行った同僚たちを思いやる。

 看護と介護は震災前から人手不足が深刻な分野。これに追い打ちをかけたのが原発事故だった。

 同じく分会の中執で看護師の紺野裕美さんはこの4月、国の基準(月8回)を超える9回の夜勤をこなさなければならない。新入職員が入る時期で比較的忙しい月だとはいえ、一昨年は月8回に収まっていた。人手不足が進むことによる夜勤増が心配だ。

 今は職員の頑張りでまわしているが、若手が出て行かざるをえない南相馬市の現状は、持続可能な地域医療の確保に暗雲を漂わせている。

▼医療と福祉は車の両輪

 南相馬市の人口は震災前の63%にあたる4万5153人(4月19日現在)。他の自治体から避難している人を含めると、実際に住んでいる人の数はもっと多いとみられる。

 特筆すべきは総人口に占める65歳以上の割合が増えたことだ。震災前は26%だったのが、現在は32%に急上昇した。

 急速な高齢化で介護ニーズは確実に高まる一方で、供給が追い付かない。そんななか、福祉施設の拡充をめぐり、一つの問題が浮上している。

 同病院は、併設する介護老人保健施設(58床)を拡充するために、国の地域医療再生臨時特例交付金を申請したが、県からは「医療ではない」として門前払いされた。交付金は被災地の地域医療復興のために、国の第3次補正予算で総額720億円が被災県に基金として積み増しされたもの。

 介護士の大友さんは「福祉がしっかりしていないと医療は成り立たないのに」と県の機械的な判断に首を傾げる。

▼帰る場所のない高齢者

 4月、新たな診療・介護報酬がスタートしたが、被災地ゆえの事情で改定の恩恵を得られないことが懸念されている。その一例が、新設された福祉・介護職員の処遇改善加算。震災後、利用者の在所日数が長くなりがちで、このままだと制度上、加算分の報酬を受けられなくなるかもしれないのだという。

 福厚労の折笠由美子委員長は「津波で家を流されたり、お世話をする人がいないという『帰る場所のない人』が多くいます。でも、今の制度で施設が収入を確保するには、いったん追い出すしかないという矛盾が生じているのです」と実情を話す。

 旧鹿島町地域は仮設住宅も多い。看護師の紺野さんも「仮設住宅は車いすで入れず、介護用ベッドも置けない。帰りたくないという人は多い」。

 都会と比べて大きな家屋で暮らせてきた地域。それが一転、薄い壁1枚隔てた隣に他人がいる暮らしを余儀なくされた。ふさぎがちとなり、低運動障害による骨折、寝たきりになる人が増えていると、リハビリ担当の菅野さんは指摘する。

 福厚労は5月、国への要請を行う予定。2次、3次の被害を防ぐため、被災地の実情に応じた柔軟な対応を求める労組の運動が再び始まった。(つづく)            


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