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「市民風車」で未来描く(上) |
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東日本大震災でも壊れず |
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「3・11で無事だったのは奇跡です」 茨城県東南端の神栖市にある風車「なみまる」を運営する波崎未来エネルギーの遠藤道章さんはそう思っている。 東日本の太平洋沿岸に甚大な被害を与えた大地震と大津波は、「なみまる」が建つ波崎海岸の砂浜にも襲い掛かってきた。すぐそばの港で漁船やコンテナが津波で陸地に押し流されるなか、「なみまる」は何一つ壊れることなく無事だった。 ▼5日後から東電に供給 大震災からわずか5日後の16日、「なみまる」は運転を再開し、3月だけで東京電力に30万キロワットを送り届けてみせた。東電はそのころ、福島第一原発事故を言い訳に電力不足をしきりにアピールしていたから、一般家庭1000世帯分の電気を売ってもらったことに感謝すべきだろう。 「なみまる」は、直径70メートルもあるプロペラ型の3本の羽根(ブレード)を回している。ブレードを支える高さ65メートルの鉄塔(タワー)の最下部では、コンピューター画面で風力と発電状況を知らせている。つくられた電気は、自前の変電施設を通った後、100メートルほど電線を伝って、東電が持つ電信柱にたどり着く。 ▼風力に最適の地 取材したときは南風。毎秒4メートルの風速は採算が取れるかどうかギリギリのレベルだった。 風車は風向きに合わせて、ブレードとナセル(ブレードとタワーをつなぐ発電機部分)を自力で動かし風をとらえる。風速が強くなれば、ブレードの角度をやはり自ら調整しながら回り、風速25メートルを超えれば止まる。ただし、それほどの強風は台風が来たときぐらいだ。 波崎海岸のある神栖市と、利根川の河口をはさんである千葉県銚子市は、国内でもっとも風力発電に適した地といわれている。太平洋に突き出ていた地形ゆえに、「冬場は北、夏場は南」と季節ごとに向きは変わっても、4メートル以上の風が吹かない日の方が珍しい。環境省が潜在能力を見込む北海道でさえ、稼動できるのは冬場に偏りがちだ。 ▼欠点もフルにカバー とかく指摘される風力発電の欠点も、この地では補うことができる。 ブレードが回るたびに出る「ブォーン」という風を切る音は、周辺住民にストレスや健康被害を与えるといわれるが、ここでは海鳴りの音の方が大きく、苦情が来たことはない。野鳥が羽根に衝突して命を落とすという「バードストライク」も、なみまるが2007年に動き始めて以来、一度も起きていないという。 「ブレードにぶつかるのは、気流に乗って羽根を止めたまま飛ぶタカなどの猛きん類ですが、この沿岸は貴重な渡り鳥の宝庫。渡り鳥は羽根をはばたかせて風車を避けます。地元の野鳥の会の方が言うには、砂浜をジープなどで走って巣が荒らされる方がよっぽど良くないそうですよ」(遠藤さん) ▼「なみまる」の生みの親 神栖、銚子の両市にはすでに50基以上の風車があり、沿岸に並ぶ様子はなかなかの圧巻だ。多くは民間企業のもので、地元の漁協が冷凍施設の電気を賄おうと水産庁の援助で建てた変り種まである。 そのなかで「なみまる」は、地元NPOが計画を立て、全国の一般市民から出資を募って建てられた「市民風車」だ。冒頭に紹介した「波崎未来エネルギー」はNPOのメンバーが設立した会社である。 苦労は多い。建設には約3億7000万円も費やした。3・11こそ耐えたとはいえ、昨年9月には予想外の部品が故障。製造元であるドイツから新品を取り寄せるのに22日間も停止を余儀なくされた。 それでも「なみまる」を回し続けているのは、実は美しい波崎海岸を未来に引き継ぐという目標があるからだ。(続く) |
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