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2012年 6月14日

扶養強化は新たな「水際作戦」だ 
生活保護問題で専門家ら懸念

民主党は「貧困根絶」に立ち返れ  

 人気お笑い芸人の母親が生活保護を「不正受給」したとされ、政府が親族への扶養義務の強化など制度「改正」を検討している問題で、生活保護に詳しい専門家から疑問の声が出ている。扶養が強要されれば、生活が困難な人の申請を拒絶する新たな「水際作戦」になりかねないためだ。

▼証明は困難

 「扶養義務の強化は新たな水際作戦になる」。こう断言するのは、生活保護利用者の就労支援や相談業務を行う元ケースワーカーの男性。6月4日、国家戦略室に提出された厚生労働省の「生活支援戦略」の骨子で示された扶養義務の強化に首をかしげる。

 生活保護は、国が健康で文化的な最低限度の生活を保障する制度だ。申請の際に自治体の福祉事務所は通常、親や兄弟、子などの親族に金銭的な援助ができるか扶養照会を行う。場合によっては面談でどのくらい援助ができるかを相談。例えば2万円が入金されると、その分を保護費から差し引く。制度上、親族が扶養できるかどうかにかかわらず、生活に困窮すれば生活保護を利用できるのだ。

 ところが、扶養義務が強化されれば、「なぜ2万円しか援助できないのか証明が必要になる」という。扶養を求められた親族は預貯金や保険、不動産、車などのあらゆる資産が扶養に活用できない理由を説明しなければならず、「この証明をしない限り、保護が利用できなくなる」と指摘。事実上の水際作戦になると見る。

▼申請者への嫌がらせ

 扶養強化は本当に生活保護を必要する人を遠ざける恐れが強いのだ。男性によると、今でも扶養照会の手続きを伝えると、「親(子ども)に合わせる顔がない」「死んだ方がマシ」と申請を諦めて立ち去る人が大勢いるという。

 「虐待や勘当されたケースでは照会を見合わせるが、それ以外でも照会すると、親族から『家族の縁を切る』と言われることが結構ある」

 背景には、「生活保護の利用者はダメ人間」という根強い偏見と差別があるためだ。中には「一族の恥」と公言する人もいる。生活困窮者の多くは、親族との関係がすでに悪化しているなどほかに頼る制度や手段を使い果たした人たちだ。花園大学の吉永純教授(社会福祉学)は「扶養強化は保護利用者の減少に効果はない。申請者への嫌がらせになるだけ」と批判する。

▼餓死・孤立の防止を
 
 一方、今年に入って札幌市やさいたま市、立川市などで夫婦や親子が餓死・孤立死する事件が相次いでいる。札幌市白石区に住む40代の姉妹のケースでは、病気の姉が3回も福祉事務所に相談に訪れていたにもかかわらず、申請が認められなかった。収入は妹の障害年金月額6万6000円のみ。家賃や公共料金は滞納していた。それでも市は仕事を見つけるよう伝え、非常用食料を手渡すだけで済ませた。姉妹は1月、マンションで死亡しているのが発見された。

 こうした現状に「生活保護問題対策全国会議」の代表幹事・尾藤廣喜弁護士は「福祉の底が抜けている。必要なのはどう生活保護を受けやすくするかだ」と危機感を強める。生活保護の利用者は3月時点で約211万人と過去最高を更新した。「貧困は年金や最低賃金、失業給付の受給率が低いことが原因だ。民主党は働く場の提供や就労支援など初心の『貧困の根絶』に戻ってほしい」と語った。


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