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2012年 3月1日

「弊害の方がはるかに大きい」
有期雇用規制の労政審建議

全労働委員長が懸念

 元労働基準監督官の森崎巌・全労働省労働組合委員長は、労働政策審議会が昨年末にまとめた有期労働契約規制の「建議」について、「むしろ無期契約から有期契約への流れが広がるのではないか」との懸念を表明した。2月24日に都内で開かれた集会での報告を紹介する。

▼同じ轍を踏むな

 有期労働契約の問題は大きく言って二つある。

 一つは低賃金をはじめとする低処遇化を正当化する材料となっていること。労働基準法には正規・非正規という文言はどこにもない。しかし、世の中では正規・非正規で労働者が分断され、あたかも法の適用が違うかのような扱いがまかり通っている。

 これを解決するには均等待遇原則を実効あるものにしなければならない。差別禁止を規定する法律にはパート労働法があるが、対象となるパート労働者は全体のわずか0・1%。労働基準法の男女差別禁止規定も実務上はほとんど使えない条項だ。同じ轍(てつ)を踏んではならない。

 もう一つは、不必要に契約期間を設けることで、労働者が雇い止めを恐れて権利主張できない「無権利状態」に置かれていること。これを解決するには(有期契約を原則禁止し、例外業務だけを認める)入口規制しかない。

 建議は入口規制を見送った理由として「紛争の多発」をあげるが、多くの有期契約労働者は正当な権利主張すらできず泣き寝入りしているのが現状。不法・不当な扱いに異を唱える紛争ならばむしろ増えた方がいい。

 また、「雇用機会の減少」も理由にしている。これも多くが有期契約のために雇用を失っている現状を見れば、まったく逆さまな議論を行っている。入口規制を見送る理由は合理性のない言い訳と言わざるを得ない。

▼効果はごく一部
 
 上限(通算5年)を超えた労働者に与えられる「無期雇用転換申し出権」は、雇用打ち切りの判断をする使用者側に主導権があるところに大きな問題がある。

 この権利を使えるのはどのようなケースか。良心的な経営者は最初から原則無期で雇用しているから該当しない。有期契約を活用する「旨み」を逃したくない経営者は権利発生前に雇い止めにするだろう。考えられるのは、法改正を知らずに更新を続ける、間の抜けた経営者の場合ぐらい。その程度のものでしかない。

 雇い止めにして新たに労働者を雇うことへの規制はなく、「建議」の内容で改正されても無期契約への転換が広く行われるとは思えない。

▼真に必要な規制がない

 (長期間にわたり契約更新した労働者の雇い止めを無効とするなどの)判例法理の条文化は、立法で補強しないとダメだ。例えば、契約に(次の更新をしないという)「不更新条項」を書き込まれると、後で雇い止め無効を争っても、働く側はなかなか勝てない。こうした点に制約をかけない限り、規制は絵に描いた餅となってしまう。

 もう一つ気になることは、3年や5年といった有期契約を(正社員採用までの)試用期間として使う手法が広がっているということ。これが(5年を雇用の上限とする)今回の法改正で一般化するのではないかと懸念している。つまり、有期契約から無期契約へではなく、逆に無期契約から有期契約への流れが広がるのではないか。

 厚生労働省は「建議」の内容を「一歩前進」とみているかもしれないが、入口規制なき出口規制の弊害は大きく、また、真に必要な規制には焦点があたっていない。国会で抜本修正させるべく引き続き声をあげていきたい。

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