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2012年 7月 5日

「労働協約」軸に処遇改善へ
建設産業の労組が模索 

労供事業、公契約条例の活用で 

 工事単価の下落に苦しむ建設産業で、産別労使交渉による処遇改善の模索が始まっている。建設産業は「一人親方」など事業主として契約することが多く、会社員のような労使交渉は難しいのが実情。そんななか、労働者供給事業や公契約条例など新しい仕組みの活用が注目されている。

■労働者供給事業に挑戦/埼玉土建
 
 埼玉土建一般労組(約7万2000人、全建総連加盟)は7月1日、労働者供給事業(労供事業)の許可を取得した。

 労供事業は「労働者派遣」のように労働者を企業に送り出す事業で、労働組合にだけ認められている。派遣労働との決定的な違いは、「供給元(派遣元)」となる労組が、利益(マージン)を得てはならないということだ)。

 全建総連(約61万人)によると、加盟組合が労供事業を行うのは全国でも初めて。

 「仕事がなく、あっても低賃金、低単価で、無権利状態。『仲間を守る』が出発点だった」。島野義人書記次長は事業のきっかけをこう語る。

 労供事業では、労組が供給先(派遣先)企業との間で「労働協約」を結ぶ。口約束が慣例の業界で労使が集団的に契約を交わし、必要な交渉も行う。ここに最大の狙いがある。

 安全対策をはじめ、休憩や駐車場、トイレの問題など、課題は事業場ごとに山積する。単価の切り下げやサービス残業という理不尽な扱いがなくなるだけでも大きな改善になるという。建設産業での「働くルール」づくりだ。

 中間業者を飛び越えて契約するため、差し引かれていた「手数料」分だけ賃金が改善するうれしい効果も期待される。

▼技能工の安定確保

 企業側にもメリットがあるという。

 建設産業は重層的な下請け構造が特徴。元請けはこの仕組みを活用し、必要な時に必要な働き手を確保してきた。だが、近年の建設不況や受注単価の急落で、一人親方の転廃業が進行。従来の働き手確保のシステムが「技能工不足」という形でほころび始めているのだ。

 野本勝常任中央執行委員は労供事業について、「腕のいい技能工を安定的に確保できる」と供給先企業のメリットを強調する。働き手の賃金が改善し、ルールが守られ安心して働けるようになれば、現場の生産性は向上する。企業は新たな投資を行うことなく、その恩恵を受けられると話す。

 埼玉土建は組織率が約3割に上る、県内建設業最大の労組。建設産業への深い理解と豊富な人材は、供給先を確保するうえでの強みだ。建設業が派遣禁止業務とされ競合相手がいないのも有利な点。技能向上のための教育訓練も拡充する計画だ。

 一方、労働保険加入や休業補償、仕事の配分をどうするかなど課題は多い。まずは「大工」から始めることとし、建設労働者全体の処遇改善という壮大な目標を見据えつつ、手探りの挑戦が始まる。

■公契約条例に注目/新設「審議会」を重視
  
 6月、東京都内で公契約条例が渋谷区、国分寺市で立て続けに制定された。自治体が発注する工事や委託業務について、賃金の下限を定めるもの。「官製ワーキングプア解消」の打開策として注目されているが、建設関連の労組からは、産別労働協約を展望する新たな枠組みとして熱い視線が注がれている。

 適正賃金の確保には、職種ごとの「賃金の下限」や、工事に関わる重要な問題を検討する「審議会」がポイントとなる。労使の代表と有識者が意見を交わし答申するもので、川崎市で先行し、多摩市、渋谷区、国分寺市で同様の仕組みが設けられた。

 具体的な賃金・労働条件、入札などについて、労使が同じテーブルに着き、定期的に話し合う公的な仕組みはほかにない。

 東京土建一般労組の松森陽一書記次長は「条例制定によって、公契約の場で初めて建設労働者の働くルールができる」と期待する。まずは安全対策や作業環境の課題、入札のあり方などについて、労使が話し合いながら、ゆくゆくは「現場ごとの産別労使による労働協約」を結ぶ枠組みに発展させたい考えだ。

 大手ゼネコンやハウスメーカーなどの現場では、職人の多くが「請負契約」で働き短期間で作業場を移動するため、労働条件はもちろん、作業環境改善の交渉でさえ簡単ではない。あるゼネコン現場では軍隊式のミーティングが行われるなど、物が言いにくい職場もあるという。

 こうした民間の建設現場の改善は建設産業の再生を考えるうえで待ったなし。公契約条例で新たに設けられた労使の話し合いの枠組みが、集団的労使関係を確立する糸口として期待されている。

〈用語解説〉労働者供給事業

 労働者を他者の指揮命令の下で働かせる事業。供給元が労働者を雇用しないタイプは職業安定法で禁じられていますが、労組による無料の事業だけが許されています。港湾労働やプログラマー、配膳人、家政婦など81組合があります。供給元(派遣元)が労働者を雇用するタイプは例外的に「労働者派遣」として認められています。

 全建総連は昨年、福島の木造仮設住宅約1000戸の建設のために労供事業の許可を取得。のべ約18000人の組合員を送り出しました。他の仮設建設現場では、約束通りの収入が得られないという問題が発生するなか、全建総連の組合員は契約をきっちり確保したといいます。

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