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2012年 12月 4日

「予算増で、現行制度の拡充を」 
どうなる?保育の新システム(下)

全国保育団体連絡会 実方伸子事務局長

 現行の保育制度を良くするには、子どもにかけるお金をもっと増やす必要があります。認可保育所が国の最低基準を維持するために交付される運営費のうち、保育士の人件費(給与)は、1人当たりわずか月19・5万円。昇給分は含まれておらず、自治体が独自に運営費を上乗せしているのが実態です。それでも介護に次いで低賃金産業で、男性保育士が結婚を機に収入の多い仕事に転職する「寿退社」も。給与を引き上げるなど専門職にふさわしい待遇にしないと良い人材は集まりません。

 働く条件の改善も必要です。国の最低基準では保育時間は1日「8時間」とされているため、運営費となる補助金は8時間分で計算されています。しかし、親の方は8時間労働だとしても、実際は通勤時間がかかり10~11時間の保育が必要ですが、補助金は8時間保育の分だけ。最近は保護者の労働実態も厳しくなっており、長時間化しています。延長保育の要求は根強く、現場はとにかく大変です。保育予算を増額して保育士を増やせるようにしなければなりません。

 保育の質は、「保育士の質」と言っても過言ではありません。労働条件や処遇を改善させなければ保育は良くなりません。保育士は子どもをただ預かっているわけではありません。子どもは一人一人異なる人格であり、要求や思いもそれぞれですが、考えていることを自分で上手く表現できません。それらをちゃんと読み取り、子どもの思いを尊重しながら集団で遊ばせ、ご飯を食べさせて、寝かせることはプロの保育士でなければとてもできないことです。

▼運動で「公的責任」残す

 新制度では企業参入を緩和する仕組みが導入されましたが、児童福祉法24条1項の中に自治体による「保育の実施責任」を残すことができました。当初の政府案は全てなくすものでしたが、それを押しとどめたのは運動の成果です。さらに政府側として答弁した民主党議員から「認可保育所が基本」という発言も引き出しました(8月3日、参議院特別委員会で)。これは実質的に政府が「保育の拡充は新システムではなく、現行制度が基本である」と認めたことを意味します。

 こうした成果は、全国各地の保育園の経営者や保育士、父母、労働組合など関係者の間で「新システムに反対」という声が広がったおかげです。新システムは「子どもや保護者のためにならない」「自治体の責任がなくなれば、権利としての保育が保障できない」という一番大事な部分で一致して運動をすることができました。

▼新システム阻止は可能

 新システムが本格的に稼働するのは、最短でも2015年4月から。政府答弁を足がかりにして実質的に制度を実施させない取り組みを行います。制度の枠組みは決まりましたが、保育の必要性の認定基準や保育施設・事業ごとの設置認可基準、そのベースとなる国の基準、保育の公定価格、保育料金などを決めるのはこれからです。全保連として、「最低でもこれくらいの基準は必要だ」ということを示していきたい。企業参入についても、現行でも一定の規制を掛けています。世論の合意があれば実現は十分可能です。

 現行の保育制度は、国や自治体が一定関与して保育の質を保障しています。それを介護保険制度のようにお金でサービスが決まってしまう産業にしてはいけません。足りないところがあれば補えばいいだけ。仕組みを全て変える必要はありません。親は安心して子どもを預けられる認可保育所が増えることを望んでいます。
 保育制度が良くならなければ、安心して働くことはできません。働くことと子育ての両立をみんなで考え、事業者や国に要求しなければなりません。新システムではなく、現行制度を拡充することが必要です。 
                                      

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