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2012年11月30日

どうなる保育の新システム
「公的責任」後退で保育に格差  

全国保育団体連絡会 実方伸子事務局長

 社会保障と税の一体改革に伴い、来年度から新しい保育制度(子ども・子育て新システム)の実施に向けた議論が始まる。8月に成立した新システム関連3法では、保育への企業参入を促し、格差をもたらす枠組みがつくられた。制度の問題点を全国保育団体連絡会の実方伸子事務局長に語ってもらった。

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 保育所の設置・運営は2000年から民間に開放されていますが、新システム関連3法で企業がより参入しやすい仕組みができました。

 認可保育所(国が定めた設置基準を超えて都道府県に認可された児童福祉施設)には運営者に補助金が交付されますが、民間企業の場合、「配当に回してはいけない」「資産を形成してはいけない」など使い道は規制されています。そのため現在、全国で株式会社立の民間施設は288カ所にとどまっていますが、新制度ではこの制限がなくなります。

 認可保育所以外の「地域型保育」にも補助金が入るようになります。認可保育とは違って国の最低基準に従う必要はなく市町村の裁量で基準が決められます。全体の保育予算の額が決まっていないため、予算が同額であれば施設当たりの受け取り額が減ることになり、全体の水準を押し下げることにつながります。

 事業者が上乗せサービスを行い費用を徴収することは可能で、お金がないと良い保育を受けられず、保育に格差と差別が持ち込まれる恐れがあります。

▼新制度で預けにくくなる

 都市部では当初、「新システムになれば待機児童が解消される」と期待する人もいました。しかし、認可保育所は増えず、ビルの一室の質の低い施設しか増えません。一方で、子どもが少ない地方では、「100人定員の認可保育所を20人の子どもで維持するのは不経済だ」となれば、自治体は企業を誘致したり、基準の低い地域型保育に変更したりしてお金のかからない保育に流れていきます。

 新たに親の就労に応じて保育の「必要性」と「必要量」を自治体が認定する仕組みが導入されることも問題です。厚生労働省は「短時間保育」「長時間時間保育」の大くくりで区分するとしていますが、1カ月の労働時間で判断すれば週2日8時間パートで働く母親の場合は「短時間」とされ、これまでのように毎日8時間子どもを預けるのは困難になります。一方、職員にとっては短時間の保育であっても子どもの登園時間がバラバラになるため、負担は増えます。

 さらに保育所を利用するためには、施設・事業者に直接契約を申し込む形に変更されます(認可保育所に限り市町村)。自治体は入所のあっせんは行いますが、受け入れは施設・事業者の判断次第。施設側には一応、「応諾義務」が課されますが、「受け入れ設備がない」「定員がいっぱい」と言えば、正当な理由とされて断ることができてしまいます。直接契約になれば自治体は待機児童を把握する必要がないため、これからは待機児童という概念がなくなります。これまで待機児童解消に取り組んできた自治体の努力に冷や水を浴びせるものです。

▼「詰め込み保育」始まる

 既に基準の切り下げが始まっています。4月から子ども一人当たりの国の面積基準(0歳5平方メートル以上、1歳3・3平方メートル以上、2~5歳1・98平方メートル以上)が地方自治体の裁量で緩和できるようになり、大阪市が一律「1・65平方メートル以上」に引き下げました。

 これは6畳の広さで子ども6人を保育することを意味します。もちろんゼロ歳児の場合は世話をする保育士(2人)も必要です。ご飯を食べるテーブルや着替え場所、乳児がいればベッドも置かなければいけません。この状態で1年間を過ごすのはとても難しいことです。

 現行の基準は1948年に決められたもので、それ以後一切改善されていません。当時は戦後直後でもあり、保育所を建てやすいよう当初から低い基準が設定され、厚生大臣には改善の義務が課せられていたにもかかわらず、です。日本の保育の水準は国際的にも低く、良い方向で市長村が独自性を発揮するのは構いませんが、引き下げは許されません。

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