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実践ふまえた児童虐待対策

川崎二三彦著・「児童虐待」−現場からの提言

 深刻な「児童虐待」が全国で多発しています。京都の長岡京市でも3歳児が「餓死」するという事件が起こりました。いったい、なぜ児童虐待が多発するのか、国の児童虐待対策はどんな現状にあって法律・制度がどう変わっているのか、児童相談所はどんな取り組みをしているのか、「現場からの証言」として岩波新書「児童虐待」が話題を呼んでいます。
 著者は、京都宇治児童相談所に勤務する川崎二三彦さん。それだけに、現場の実践に裏付けられた虐待問題であり、具体的な事例が盛り込まれていており児童虐待問題の「最適な入門書」となっています。
 著者は、児童虐待について次のように告発する。「閉ざされた家庭の中で生じる児童虐待という現象が、実は私たちの社会に深く根を下ろしている深刻な矛盾、あるいは腰をすえて取り組むべき種々の課題など否応なくあぶり出す」「密室の出来事が、現代社会を照射する」
 児童虐待は、社会全体の課題であり、一人ひとりが真剣に向きあい、考える必要があると指摘し、本題に入っています。
 
 虐待への対応について、衝撃的な事例を紹介しています。その代表例のひとつとして「岸和田事件」を取り上げています。
 2004年1月に起こったこの事件は、活発で学年代表を務める中学3年生の男子が、保護者によって意識不明の重態にいたるまで放置されるというショッキングな出来事でした。しかも、学校や児童相談所が、虐待の恐れがあるという情報を得ていたにもかかわらず援助の手が差し伸べられなかったという二重のショッキングな出来事として紹介されています。ここで、著者が指摘しているのは虐待の「発見」と「通告」という問題です。
 まず「発見」について「児童虐待の大部分は家庭内で、つまりプライバシーが最も尊重されるべき密室空間で生じる」「保護者はもちろん、被害を受けた当の児童も、虐待について積極的に打ち明けることは少ない」「発見することが非常に難しい」というのを、本質的特長としてあげています。

 この、岸和田事件をきっかけに「通告」をさらに促進し、児童虐待防止法でより幅広い範囲を通告対象としました。通告対象を「学校、児童福祉施設、病院その他の福祉に業務上関係のある団体」も「児童虐待の早期発見に努めなければならない」としました。
 法改正がされましたが、ここで問題になってくるのが「誤報」だと言います。ここで事例を挙げているのがカナダで、「通告」の誤報が39%を占めていること、誤報によって通告されたものが傷つき、かえって地域から孤立する事態を招きかねないし、そのことをケアする制度の必要性を説く。
 虐待や非行、不登校などを含む児童相談に対応する児童福祉司の実態にも触れています。年間30数万件に上る児童相談に対応している福祉司はたったの1,813人、子ども一般人口1万数千人に一人(アメリカは2千数百人に一人)という状況です。

 現代社会の貧困が子どもと家族を直撃している実態を憂い、「本来最も大きな喜びなのであり、子どもを育てることで親も成長し、生きがいを感じ、生活にも張りが出てくるという」ことが忘れられている現代、「子育てをしっかり応援することが、虐待防止キャンペーン以上に重要である」ことを訴えています。
 「人間の尊厳=人権を希求するすべての人たちの必読の書であり、教養の書である」と、賞賛する読者もいます。
  


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