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国民投票法案の危険な仕掛け
渡辺治一橋大学教授

●歴史の大きな岐路に
 安倍首相は自民党総裁として初めて、「任期中に改憲を実現する」と明らかにした。これは「画期的」なことだ。
 自民党は結党以来、改憲をめざしてきたが、政治課題に掲げたことはなかった。国民の平和主義や小国主義が強いこと、改憲には時間がかかりリスクも大きいこと、政治を不安定にする可能性があるためだ。

 ところが、90年代からは改憲の流れが強まっている。経済グローバル化に伴って日米企業が世界、とくにアジアに進出していることが背景だ。米国は「世界の警察官」として軍隊による秩序維持をめざしている。日本はこれに協力しようとしているが、憲法九条があるため自衛隊は海外で米軍の行動に協力することができない。

 しかし、改憲の壁は依然高い。そこで、日本の歴代政権は解釈改憲を行ってきた。その頂点が小泉政権で、米軍の戦争に追随してイラクへ派兵を行った。だが、憲法九条の束縛で武力行使はできず、軍事的に足手まといになったため、米国は九条を変えて自衛隊が武力行使できるようにすることを強く求めている。
 この意味で、安倍政権は90年代以降の改憲の流れの完成をめざして発足した、とみることができる。


●法案成立後、改憲加速
 安倍政権は改憲のための「車の両輪」をつくろうとしている。1つが国会で発議できる改憲案づくりであり、もう1つは国民投票法案だ。先に投票法案に手をつけたが、参議院選挙後には改憲案づくりが始まることになるだろう。
 国民投票法案では必ず勝てるルールづくりと、民主党を巻き込んだ法案づくりをねらった。というのも、勝てなければリスクを冒してまで国民投票を行う意味がないからだ。また、与党だけの党利党略で法案をつくってしまうと、民主党は怒って賛成せず、一緒に改憲を発議することが難しくなるからだ。

 与党案と民主案を見比べてみると、与党は譲歩可能な部分では民主案を丸のみしていることが分かる。投票期間や投票方法、マスコミ規制などの点だ。
 肝心の部分は譲っていない。国民が投票に参加することを阻止するための公務員・教育者の「地位利用」の禁止や、テレビのスポットCMの放任、最低投票率を定めないことなどだ。
 国民投票法案が成立したら、与党は民主党を巻き込んで改憲案をつくり、発議するだろう。これは軍事大国化の完成のため九条改憲に絞ったものだ。


●危険な内容知らせよう
 この3年間の、新聞の世論調査の推移をみると、「改憲賛成」が減り、「九条改憲反対」が増えている。「九条の会」など草の根の運動によって国民の意識が変わりつつあるということだ。
 こうした大きな輪をつくる動きは明らかに前進しているが、それとかみあって機敏に動くべき労組や市民団体などの取り組みが弱いのが実情だ。両者がかみあった運動をつくることが課題となっている。

 昨年の教育基本法改悪反対の時は、両者がかみあった運動が展開された。教育基本法改悪の内容を知らない人にとっても、「愛国心教育は何となく危険」と分かりやすかったからだ。
 国民投票法案の内容について国民はまだ十分に理解していないし、護憲派の中にも「国民が投票するための法律をつくるのはよいこと」などの誤解がある。労組などは法案の内容を国民に早急に知らせる必要がある。教育基本法改悪反対の時のレベルの運動が今できれば、投票法案の推進派は苦しくなるだろう。
 憲法施行60年の今年、私たちは歴史の大きな岐路に立っていることを忘れてはならない。


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