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都道府県が持つ役割 再認識を
国家改造のねらいありあり 安倍内閣の道州制

 立命大の教員としての籍をおきながら、長野県職員として働いた経験をもつ森さん(立命大助教授)。1月19日の府職労拡大中央委員会の参加者を前に、「道州制をめぐる動向と都道府県の課題」と題して、この間の道州制をめぐる特徴的な論議にふれながら、その経験をふまえて都道府県がもつ機能の再評価について講演いただきました。概要を紹介します(文責・教宣部)。


住民にとって道州制導入の意義は希薄

 地方制度調査会「道州制のあり方に関する答申」(06年2月)についていくつか問題提起をしたい。
 「都道府県制度に対する問題意識」について市町村合併によって底力がついたとしているが、けっしてそうではない。行政能力を高める合併になっていないところが多く、合併しない小さな自治体も多いからだ。また府県の区域を越える広域行政課題の増大としているが、はっきり示されているのは河川管理だけで他は抽象的だ。
 「道州制の制度設計の方向性」について地域における政策形成過程への住民参加の拡大を掲げているが、エリアの拡大と住民参加は明らかに矛盾する論理だ。圏域相互間の競争と東京一局集中とを対比させているが、「東京以外は自分たちの責任で好きなようにやって下さい」としか読めない。
 私は「道州制の基本的な制度設計」について、現在の都道府県の圏域が大変に安定していると考える。これを新たに組み立て直すことは住民生活が一変することになってしまうと考える。

 
「美しい国」づくりのための道州制

 経済財政諮問会議による答申「抜本的な地方分権改革について」(06年10月)では、国の財政再建を最優先させる姿勢を軸に道州制の実現の必要性を強調している。続く答申「日本経済の進路と戦略」(06年12月)では、経済成長に寄与し「美しい国」づくりのために道州制を利用しようとする意図があからさまに打ち出されている。
 一方、地方6団体の「新地方分権構想検討委員会」は「最終報告」(06年11月)で、都市部と農村部とがそれぞれにもつ敵意の現状に警鐘を鳴らすとともに、自治体間の互助意識を醸成することこそが真の地方自治との思想を強調している。現在のところ、もっとも冷静な主張のひとつと考える。ただ、この「最終報告」の段階では、道州制がすすまなければ地方分権改革もすすまないとの考え方に傾いてきている点が残念だ。

 
国からの脱却をめざした長野県

 長野県における財政改革のとりくみを振り返りながら、現在の都道府県の再評価を行いたい。長野県では従来、その地理上の制約もあって全県をカバーするような大規模公共事業の機会はなかったが、冬季オリンピック招致を契機に高速道路や新幹線をはじめとした大型公共事業が展開され、1995年をピークに他府県と比較しても莫大な歳出が行われた。
 その結果、当然のように財政状況は悪化し、危機感を覚えた県が策定したのが、「財政再建推進プログラム」(03年2月)だったが、他県と違い、このプログラムは「企画」と「財政(再建)」が一体化したものだったので、強力に押し進められることとなった。
 都市型製造業や観光業などに財源配分を集中する一方、国の補助金からの脱却をめざすとともに、福祉や医療、教育、環境などに軸足をおいた産業構造の転換と雇用確保にまとまった財源配分を行った。
 さらには、1万にのぼる企業を3年間かけて職員が訪問し、@公共事業を削減せざるを得ないことの説明、A県として何ができるかの相談という、きめ細かいとりくみを重ねた施策に生かしてきた。

 
格差社会で府県の役割は重大

 こうしたなかで、日本でもっとも優れた内容といえる入札制度改革や事業評価制度ができた。田中県政の意義としては、@「脱ダム」宣言に象徴される大型公共事業の見直し、A小さな村に県職員を派遣して支援するなどの補完性の原理の追求、B流域協議会などの住民参加の体制づくり、などがあげられる。もちろん、市町村や議会との関係では、その限界も明らかになったが。
 都道府県には現代的な意義がある。「帰属意識の強さ」と「地域格差が強まる」もと、都道府県の補完・支援の役割は一層重要になっている。「地域の崩壊」が広がっているもとで、道州制がどれだけのことができるだろうか。
 今、道州制は、従来の効率性重視の経済主義からの推進論でなく、国家改造を実現しようとする政治的思わくからの「ねらい」として急浮上している。安倍内閣の2010年めざす戦略の一つである。
 小さくても輝く自治体の存在は貴重だが、それだけでは弱い。今、自治体関係者が声をあげるときだ。府職労の皆さんの奮闘に期待したい。


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