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2013年 4月19日

「自民党憲法草案がもたらす社会」
憲法記念日インタビュー特集

弁護士 伊藤真さん

  自民党が野党時代の昨年4月に発表した「日本国憲法改正草案」は、改憲を目論む安倍政権の発足によって具体化する可能性が出てきました。草案の危うさはたびたび指摘されていますが、特に何が問題なのか。日本弁護士連合会憲法委員会副委員長の伊藤真弁護士に見解を聞きました。

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 自民改憲草案は、日本国憲法が持つ2つの特長を真っ向から否定しています。

 一つは、個人の人権を尊重し保障するため国家権力を拘束するとした立憲主義。「憲法は国民が国をしばるための命令書」というのが世界の常識ですが、草案は逆行しています。

▼「戦前に回帰している」

 それは「基本的人権は侵すことのできない永久の権利」とした現憲法97条を全て削り、102条1項で国民に憲法尊重擁護義務を負わせた点から分かります。立憲主義においては国家権力の側が擁護すべきなのですが、草案は日の丸君が代尊重(3条)、緊急事態指示服従(99条3項)など、国民に対し新たに10の義務を課しています。

 天皇の位置付けも変えられています。草案1条では天皇を「国の元首」とし、現在の4条にある「国事に関する行為のみを行い」から「のみ」を削除しました。草案102条2項では、現憲法が定める天皇の憲法擁護義務を外しています。これでは、天皇の権力は憲法を超越したものになりかねません。戦前の大日本帝国憲法へ回帰しています。

▼9条は骨抜きに

 草案が否定するもう一つは恒久平和主義です。この理念は、先の大戦で内外に多くの犠牲を強いた反省から生まれた日本独自のもので、世界の中でも先進的です。ところが、草案は前文にある「平和的生存権」をなくし、第2章の題名も「戦争の放棄」から「安全保障」に変えた上、9条も骨抜きにしています。

 9条は「戦争の放棄」「戦力の不保持」「交戦権の否認」の3つの要素で成り立っていますが、草案には「放棄」だけが残り、新たに自衛権の発動と国防軍の保持が加えられました。戦力を持ち交戦権を肯定することは、自衛権を名目にどんな戦争でも仕掛けられ、無制限に海外派兵された国防軍が相手国兵士を殺すことを可能にします。米国がイラクやアフガニスタンを侵攻したような軍事行動を日本も起こせるのです。安倍首相は「戦争放棄をうたっているから平和主義は堅持する。国防軍も自衛隊の名称を変えるだけ」と言いますが、とんでもないウソです。

▼自由失われ原発温存

 基本的人権が侵され、戦争ができる憲法がもたらす社会は、市民や労働者にとって息苦しいものになるでしょう。

 草案12条は「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」とあり、個人の人権よりも国策が優先するとしています。思想良心(現19条)、信教(同20条)、集会・結社・表現(同21条)、学問(同23条)などの自由は「公益や公の秩序」のために制限されることになります。

 同じ理由で、デモや脱原発運動も難しくなるはずです。原発に関しては、国防軍強化が核兵器保有につながる恐れがあり、そうなればプルトニウム生産のために必要とされるでしょう。軍備拡張は徴兵制導入に結びつくばかりか、軍事費増大を招き、生活保護や年金など社会保障の削減と増税はさらに進められます。

 そして、国策を批判すれば、前出の12条に逆らう「非国民」とされてしまいます。「お国のため」との言葉が再び飛び交う時が訪れるかもしれません。

▼「96条改正」は露払いだ

 首相らは「改憲されなかったのは国会議員の3分の2、国民投票の過半数を必要とした96条の規定が厳しすぎるから」と言います。でも、米国やスイスのように日本より規定が厳しくても改正した国はあるのです。この点、日本では国民が改正を望んでこなかったのは明らか。「96条改正」は9条を改悪しやすくする露払いとみた方がよさそうです。

 自民草案が憲法に変われば、次を担う子どもたちが大変な目に遭うのは想像できるはずです。憲法の問題を正しく理解し判断することは、今を生きる人間の責任だと思います。 (連合通信)
                         

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