シリーズ自治体再編

「庶務的事務」まで民間委託するって……

シリーズF NPMって何のことT

企業の経営手法を自治体に導入


行政の「効率性」・「経済性」って・・・
 このシリーズのAで「地方独立行政法人」について、シリーズのCで「指定管理者制度」について取り上げました。外部委託(アウトソーシング)という点では、「指定管理者制度」だけではなく、学校給食など公共サービスの民間委託や大阪府のように「庶務的事務」まで民間委託する事例も各地に出てきています。
 これらに共通しているのは、「効率性」と「経済性」です。近年、こうした考え方を行政運営に持ち込んでいる自治体が急増しています。こうした手法はNPM(ニューパブリックマネジメント)と呼ばれていますが、今回はこのことについて考えてみます。

京都府もNPM手法を導入

 「京都府新しい行政推進懇話会」が2003年6月におこなった提言は、「従来の行財政の枠組みにとらわれずに、民間の効率的・合理的な経営手法も可能な限り取り入れ、最小の資源で最大の成果を生み出せるよう、新しい行財政システムを構築するとともに、これらを推進する職員の意識改革などが必要と考え」とし、これを受けて「京都府行財政改革指針〜かいかくナビ」が策定されました。
 「かいかくナビ」では、適正な民間委託の推進や地方独立行政法人化、公共事業や事務事業の評価制度、コスト意識をもった施設整備、外郭団体の廃止・民営化や経営改善計画、経営戦略会議における施策推進方針、新人事評価制度などNPM手法がいたるところに取り入れられています。
 
国民は行政にとっての顧客

 NPMという用語を政府が公式に使ったのは、2001年6月の「骨太方針」です。そこには次のとおり書かれています。
 「国民は、納税の対価として最も価値ある公共サービスを受ける権利を有し、行政は顧客である国民の満足度の最大化を追求する必要がある。そのための新たな行政手法として、ニューパブリックマネジメントが世界的に大きな流れとなっている。これは、公共部門においても企業経営的な手法を導入し、より効率的で質の高い行政サービスの提供を目指すという革新的な行政運営の考え方である」
 果たして、こうした考え方が行政に当てはまるのでしょうか。

企業経営的な手法が行政になじむのか

 「国民は納税者、顧客である」が、NPMの考え方の基本です。これは、一見正しいようですが、大変な問題を含んでいます。国民は税金や使用料などの対価を払うからサービスを提供されるというなら、税金が払えない人たちはどうなるのでしょう。生活保護世帯の人たちは行政サービスの対象から排除されてしまうのでしょうか。憲法は、国民の様々な権利を規定していますが、その権利は対価を払わなければ発生しないのでしょうか。
 また、「国民の満足度の最大化」「質の高いサービス提供」を口実に行政より民間企業のほうがたくさんノウハウをもっているとし、企業経営的な手法による政策の企画立案と実施執行の分離として、行政サービスへの民間企業の参入を大規模にすすめようとしています。しかし、そんなことで行政が果たさなければならない専門性に裏付けられた公的責任や公共性、公平性が維持できるのでしょうか。
 全国各地で行政運営の手法として取り入れられているNPMは、もっと慎重に議論されるべきではないでしょうか。
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