地方はバッサリ、キャリア優遇

地域格差・職務給強化・査定賃金導入

人事院の「給与構造見直し」案

 人事院は、夏の勧告に給与構造の抜本的見直し案を盛り込む方向で作業を進めている。地方で働く国家公務員の賃下げと自治体への波及が狙いだ。解せないのは、見直しが本省勤務のキャリア官僚にとっては処遇改善につながること。激しさを増す公務員バッシングの裏側で、こんな中央官僚の「お手盛り改革」が許されるのかどうか。
 見直し案(素案・昨年十一月に提示)などに基づきキャリア優遇のあの手この手を検証しました。

@約5%の賃下げ/東京は現状維持
 人事院は国家公務員の賃金水準を一律5%程度引き下げる案を提示しています。東北・北海道では公務員賃金の方が民間より5%弱高いからというのが理由。まず全体を5%程度引き下げたうえで、市町村などの地域ごとに「地域手当」を上乗せして調整。
 民間賃金の高い地域ほど地域手当が多く出るという仕組み。賃金水準が低い零細企業ばかりの市町村では、地域手当がつかないケースも想定されます。
 人事院は当初、民間より賃金が低いとされる東京について、地域手当込みで現行水準を2%程度引き上げる考えです。現時点で東京23区は、地域手当込みで現行水準維持の方向で検討されています。
 地方勤務の国家公務員には賃下げ。一方で、中央官僚には現行水準が保障されるのです。しかも、地方で削った人件費は形を変えて中央官僚に再配分されます。

Aカーブのフラット化/キャリアの道は花畑
 人事院は年功賃金を見直すため、賃金カーブをフラット化するという。高年齢層の水準を削って若年層に回すのが民間の一般的な手法だが、人事院案は違います。 約17万人の職員に適用されている行政職(一)賃金表は11級制で、各級は15〜32程度の号俸に細分化されています。1年で1号俸ずつ上がっていくのが、いわゆる定昇で、各級とも高位の号俸に行くほど上がり幅が小さくなります。
 人事院は4級以上の高位号俸水準を2%程度引き下げて、その分を前半号俸に回すといいます。
 一般職は早ければ30歳代後半で4級の高位号俸が適用になります。40歳代の働き盛りは大多数があてはまります。地方の出先機関に勤務する公務員の多くは昇格(上位の級に移動すること)機会が少ないため、やむなく昇給幅の小さい高位号俸にとどまることになります。
 一方で、キャリア官僚は一般職と同年齢であっても昇格機会と昇格スピードがまったく異なり、各級の前半号俸を通過し昇格していくのが一般的です。
 結果的に、高位号俸者の多い地方出先の一般職は全体の5%引き下げとあわせて最大7%もの賃下げとなります。例えば6級24号俸では年収で約50万円もの賃金カットになります。一般職は冬枯れの荒野の道を歩まざるを得ないのです。 一般職の賃金を削った分、キャリアが通過していく各級前半号俸は優遇されるわけだから、キャリアが歩む道は花畑といえるでしょう。

B下位「級」は統合/上位「級」新設
 人事院は各級号俸の最低額と最高額の幅を圧縮し、さらに1級と2級、4級と5級をそれぞれ統合する方向です。一般職の職員は級の統合などにより昇格機会が減少し、賃金の伸びが以前よりも抑えられることになります。
 そうしてねん出した原資で現行11級の上に指定職ではない12級を新設。キャリア官僚の処遇改善が狙いです。
 なぜ、わざわざ上位級を新設しなければならないのか。関係者の間では「背景には天下り規制や早期退職慣行の見直しなどに対応する、本省幹部の処遇維持という事情がある」といわれています
 天下り先が減っていることに加え、現在54〜55歳で早期退職している慣行の是正が求められています。定年まで本省内にとどまるキャリアを処遇する必要がでてきたのです。
 
C転勤には激変緩和?/本省職員への配慮
 転居を伴う転勤に対しては「転勤手当」のようなものが検討されている。人事院は「給与の高い地域から低い地域への異動に対する激変緩和措置」として、三年間を限度に3〜6%の手当を支給する考えです。
 一般職員も適用になります。ただ、本省から地方転勤後2〜3年で本省に帰り、出世していくパターンが定着しているキャリアには、とくにありがたい話。
 「地方で勤務する場合があっても本省庁職員には経済的負担をかけまいとする中央優遇の手当」との指摘があります。

D不可解な本省手当/筋違いの超勤対応策
 これまで本省の課長補佐に支給されていた「特別調整額」(8%支給)を本省手当に改めて、本省の課長補佐以下の職員にも支給することになります。
 従来の管理職手当という性格が変わり、本省という中央への手当となります。 人事院は「超過勤務の多い本省は大変であり、人材確保の観点からも新設が必要」と主張しています。
 本省職員が国会対応などの長時間労働を強いられているのは事実ですが、超勤にはきちんと超勤手当を支給するのが筋。そういう超勤を削減することにこそ力を入れるべきです。
 本省の職員にだけ手当をつけるやり方が正しいのかどうか。なにかといえば「民間準拠」や「民間動向の反映」を持ち出してくる人事院。それならば民間企業で一般的に「本社手当」が支給されているという実例を示してもらいたいものです。
【連合通信】
目次へ