「地方振興局等の再編」に係る知事訓示
                          平成15年10月27日
職員の皆さん、おはようございます。知事の山田です。
 今日は、皆さんに地方機関の再編についてお話をさせていただきたいと思います。
 先の京都府議会9月定例会において、地方振興局等の再編に関する条例の改正案及び補正予算案を可決していただきました。

 これにより、私ども京都府は基本的には戦後続いていた12振興局体制の本格的な再編統合に踏み出すことができることになりました。
 今後、9月8日に公表した「再編実施案」に基づき、職員の皆さんにも来年5月1日の再編実施に向けて、全庁を挙げて準備に取り組んでいただかなければなりません。
 そのためにも今日は、改めて、職員の皆さんに、私からも直接再編の必要性やねらい等について、お話しさせていただき、ご協力をお願いしたいと思います。

【再編の必要性 〜時代の変化・地方振興局等が抱えている課題〜】
 私どもの12振興局は、戦後の京都府の繁栄を支え、府民の皆様の生活を守る上で大きな役割を果たして参りました。高度経済成長にともない、保健・福祉行政や土木行政、そして産業育成まで、多くの増大する事務を職員の皆さんが着実にこなし、府民福祉の向上に努力をしていただいたことに対しまして、深く感謝を申し上げたいと思います。

 しかし、私達を取り巻く環境は、時代とともに大きく変わりました。そして、今、また、大きく変わろうとしています。豊かさを実現するため、ナショナルミニマムの達成を、国を起点とした中央集権型社会のシステムで行ってまいりましたが、確かに、そういったシステムが一定の役割を果たしてきたのは事実だと思います。

 しかし、最近の霞が関の状況を見ても分かるように、ナショナルミニマムがある程度達成される一方、人々の価値観が多様化し複雑化する中、中央集権のシステムは現実への対応能力を失いつつあり、かえって画一的な施策による没個性的なまちづくりの弊害や住民・地域ニーズを的確に捉えられない制度的な疲労が顕著になってきたのは皆さんご存じの通りです。

 また、さらに国の財政難がその流れに拍車をかけています。

 私は知事就任以来、このことを繰り返し指摘し、国の政策に対し、京都府が主体的な判断を行う必要性を述べ、その場合私どもはあくまで府民を羅針盤とすることによってこの時代の変化に対応し、自立的な京都府づくりが可能となるということを申し上げてまいりました。

 そして、そのためにも、現地・現場主義を唱えてまいりましたが、それは制度的には一番住民に身近な市町村から説き起こし、都道府県はそれを支え、広域的にバランスをとり、そこからさらに国へと住民の国民の意思を伝えていく、そういうシステムに変えていくことだと申し上げてまいりました。
 
 そして、昨年からアクションプラン等による府民参画・府民協働の行政や、ローカル・ルールの適用などによる地域の実情を踏まえた公共事業の推進など新たな取組を行ってきたところであり、皆さんの積極的なご協力を本当にありがたく思っております。

 しかし、こうした「地域」「住民」を出発点とする分権型の行政システムへの転換を進めるには、まさに府政の最前線である地方機関の再編を抜きにして考えることはできません。

 この地方機関につきましても、この60年余りの年月の中で、周囲の状況は大きく変化しました。交通・通信は飛躍的な発達を遂げ、府内の時間距離は大幅に短縮されました。
 特に市町村の変化は大きなものがあり、12振興局の創設時には、京都市を除き217を数えた市町村は5分の1の43となり、同時に地域保健法等により、多くの事務・権限が市町村に移っていきました。

 今日、福祉関係の事務をはじめ住民に身近な事務はほとんど市町村へと移ってきています。保健センターもすべての市町村に設置され、府の保健所業務も大きな変化の中にあります。

 そして、市町村は今このような時代の流れの中にあって、それに対応した行財政基盤の強化に必死に取り組んでおり、合併をはじめ市町村の今後のあり方について真剣な議論を行っているところであります。しかもその議論は、地方分権が我が国の閉塞状況を救い、国の財政危機の打開のためにも必要であるという重い使命のために大変厳しいものになっているのが現実です。

 ご存じのように既に丹後六町は合併が決まりました。宮津与謝、福天加佐では法定協議会が立ち上がっています。地方機関の環境は急速に変化しています。

 果たして、このような動きに私どもの組織は対応できるのでしょうか。

 この間、職員の皆さんの努力にもかかわらず、府民の需要の変化に、そして府民に一番近い市町村の変化に地方機関は対応できていないという声が挙がっております。

 府民から見れば、市町村も都道府県も自分たちの生活を守る地方公共団体という面では同じ存在です。市町村が権限を持ち、行政分野を拡大すれば、都道府県がそれに応じた補完体制をとらなければ、これは税金の無駄遣いとしか映りません。

 本来、市町村域を超える広域行政という観点からその役割を果たすべき府の地方機関が一つの市域しか所管しない『1市1振興局』ではそもそも市の業務に対し、府はいかなる立場に立つべきなのか、調整機能も果たせないまま府民の目には非効率な存在に映ります。  

また、市町村から見ても、振興局が単なる経由機関にしか映らず、「振興局は権限もなく、本庁に足を運ばなければ結論がでず、解決が図れない。むしろ本庁との直接のやりとりを阻害している」と厳しく指摘されるにいたっています。

 振興局の職員の皆さんが職務に忠実に努力しても、市町村から見た場合に振興局が助けになると言うよりは邪魔な存在になりつつあるという意見は、誠に残念な話です。私どもは地方機関の再編をしなければ市町村にとりましても、職員の皆さんにとりましても、もちろん府民の皆様にとりましても不幸な状態になると考えました。

 もちろん、そのような非難ばかりではありません。振興局の若手職員が市町村の観光など地域振興について積極的に取り組んでくれたことに対し、振興局はここまでやってくれるのかと町長が感激して語ってくれたこともあります。

 また、記憶に新しいSARS事件のおりに、亀岡や宮津の振興局が、そしてその周辺の振興局、保健所が本当に不眠不休で頑張っていただき、保健所、振興局の名を高めていただきました。

 それだけに私は、厳しい批判は素直に受け止めなければならないと考えますが、同時に振興局が府民の福祉向上のために大きな役割を果たすことができる、そういう可能性を最大限伸ばしていくことが府政の大きな責務であると考えております。

 私たちは、この地方分権の流れの中で、一番住民に身近な基礎的自治体である市町村を支え、助け、さらに広域的立場で、複雑・多様化する行政需要に効率的・機動的に対応するための能力を備えた地方機関の創設に向けて進むべき時にあるのです。

【再編のねらい】
 では、具体的にはいかなる再編を行うべきでしょうか。
 現在の地方機関が、小規模かつ狭域な組織のため、対応力や課題解決能力に欠ける点を踏まえ、私は市町村の頼りになる現地解決能力を持つ、より広域的な振興局をつくるべきだと考えました。

 したがって、今回の組織改革は市町村への権限委譲の推進、市町村との人事交流の拡大と併せて、地方振興局等の再編を推進し、広域性・専門性を有し、地域の戦略づくりなど地域施策の企画立案機能や市町村に対する広域的な支援機能を備えた『広域振興局』として新たに生まれ変わらせることによって、市町村との一層の連携を図りながら、現地・現場主義の考えの下、地域に根ざした地方行政を展開していこうとするものです。

 本庁の組織が基本的には部局別の縦割りになっているため、ともすれば地域の重点よりもその部門の重点に流れやすくなる中、新しい広域振興局は地域戦略の中心部門として本庁に対して積極的な提案のできる、職員の皆さんにとりましてもやりがいのある実践的な機関に生まれ変わっていただくことが必要であると考えております。

 このため、今回の再編では、
@ 本庁と地方機関との積極的な人事交流を進めるとともに、広域振興局において緊急的な事案 が発生した場合に迅速的な対応ができるような人員配置を行います。
A 市町村の地方債許可、保健所福祉関係の個人給付の決定、土地利用の許認可など、大幅な権 限委譲を行って、現地で迅速・的確な対応ができるよう、現地解決能力の向上を図ります。
B 市町村や各種団体を交えた地域戦略会議の設置など、地域戦略に基づいた地域政策の企画立 案機能や市町村に対する広域的な支援機能を持たせます。
C 広域振興局長が予算編成等に参画する機会や独自の予算執行枠を設定いたします。
 これらにより、名実ともに広域振興局の機能を充実させ、一方本庁組織については、これに従って、よりシンプルで企画力を備えた組織改革を目指したいと考えております。本庁の皆さんにもこういった組織の考え方を十分理解していただきたいと考えております。    

【おわりに】
以上、地方機関の再編のねらいは今申し上げたところですが、組織や制度の改正というのは、はっきり言って申し上げてみれば、行政における道具をそろえただけに過ぎません。

 いかなる、道具も使う人の気持ちが入らなければ、何の役にも立たないのが現実だと思います。 したがって、今申し述べたねらいも職員の皆さんのご協力がなければ絵に描いた餅にすぎません。

 それどころか、へたをすれば悪い方向へ行く恐れさえあります。これだけの大きな改正です。当初はどうしても変化に伴う軋轢や、新しい仕事に対する混乱が起きる可能性があります。その場で止まってしまえば、この再編は良い結果を生まないと思います。新しいことに対し積極的なチャレンジを心からお願いします。私をはじめ管理職の役割は、そうした皆さんのチャレンジをしっかりと支えることだと思っております。

 そして、それと同時に大切なことは、今は変化の時代です。この再編もその変化に対応した柔軟なものでなければなりません。私がもっとも嫌うのは、固定的で一律的な制度の運用です。ともすれば、私どもの行政はその傾向が強く、現地・現場の課題に応じた対応よりも規律が優先される傾向があります。
 
 府民の思いを踏まえた行政を行うためにも、地方機関は現場の課題により柔軟に対応することが求められており、そのためには常に組織のあり方を繰り返し点検し、皆さんとともに考えていきたい。実はここが一番難しいのかもしれません。

 すぐにすべてがうまくいくとは思っていませんが、一人一人の職員の皆さんがよりよい方向へ力を合わせて進めていく、そういう主体的な行動が今京都府において、何よりも重要であるということを私はこの放送で皆さんに申し上げたいと思います。

 職員の皆さん、私たちは大きな時代の変化の流れの中にいます。また、私たちには、その流れをつかみ、府民の皆様とともに府民の目線にたって、府民の皆様が明るく力の満ち、誇りの持てる京都府をつくっていかなければならない使命があります。
 私は職員の皆さんの力、京都府が持つ力を信じ、今回の地方振興局等の再編も必ずや成功裡に
実行できるものと確信しております。
 皆さんと一緒に、府民の皆様と手を携え、新しい京都府の組織体制を確立するため、更に知恵を絞り、ともに汗をかきたいと思います。皆さんのご協力を改めてお願いし、この放送を終えたいと思います。
 本当によろしくお願いいたします。