台風23号から何を学ぶか

災害の日常化のもと”地域力”

支える行政の支援を


”災い”を考えるシンポに会場いっぱいの300人
 
 2月6日、京都市内で「災を考える京都シンポジウム」(主催京都自治体問題研究所など)が開催され、300名が参加しました。阪神・淡路大震災から10年、新潟中越大震災、とりわけ京都府北部に大きな被害をもたらした台風23号水害などを教訓として国土政策・都市政策、そして住民のいのちを守る自治体とコミュニティの役割について活発な問題提起と議論が行われました。

 シンポジウムの開会のあいさつでは、志岐常正氏(京都大学名誉教授)が「災害は終わらないうちにやってくるというのがこの間の状況だ。防災は無理でも減災は可能。とりわけ京都を含む北近畿では阪神淡路大震災前の状況によく似ており、他のどの地域よりも急いで国はもちろん個人・地域・自治体が備えにとりくむ必要がある」と強調しました。そして、「自助努力には限界があるもとで、自治体や国へはっきり要求することが重要であり、それも住民の責任・権利だ」と強調しました。

 あふれてくる側での対策が重要

 講演ではまず中川学さん(国土問題研究会事務局長/府職労乙訓支部)が「災害とどうつきあうか台風23号水害から考える」と題して主に由良川水害について話しました。昭和28年水害との比較で出水が非常に早かったことを、雨量や水位データなどを示して解説。そして死亡者15名のうち、水死された方が10名にもなっており、土砂崩れによる被害より大きかったのは近年にない特徴であったと指摘。
 また宿命的な洪水被害を受ける由良川の地理的特徴についてもふれながら、ダムや連続堤防などの構造物に全てを任せるのではなく、集落を囲む輪中堤や、日常的に使う拠点とも位置づけた集落ごとの災害シェルター(関西学院大学・片寄氏の構想)の整備など、あふれてくる側での対策(流域治水)が大切だと指摘しました。大野ダムもそれなりの効果を発揮したが、由良川改修計画で想定された程には達しておらず、水害防止については限定的なものと語りました。
 さらに復旧・復興のあり方についても生活と営業の復旧支援が大切と語りました。一方この間、行政の側がハード対策では追いつかないからソフト対策が大切と強調していることについて、「確かにそのとおりだが、河川管理者である国や府県の責任逃れのようにも聞こえるのが気になる」と強調しました。そして最後に台風23号水害で舞鶴がまったく孤立したことからも、現場を遠ざける昨年の土木事務所統廃合は「とんでもないミステークだったのではないか」と語りました。

 最大の防災対策は日常のまちづくりに

 続く講演では奥西一夫氏(京都大学名誉教授/国土問題研究会理事長)が「2004年の台風災害の特徴」について、広原盛明氏(元京都府立大学学長)が「災害問題と自治体再編〜災害は忘れないうちにやってくる〜」と題してお話されました。
 広原氏は、「天災がしばしば起これば天災でなくなる。災害への無知が天災と感じさせるのだ」との寺田寅彦(明治期の地球物理学者で随筆家)の災害観を引き合いに出しながら、「最近は災害が忘れないうちにやってくる。災害はもはや『天災』とはいえない」と語りました。そして日本の災害対策の問題点として、@災害予知対策へ傾斜していること、A災害救助法はあるが災害復興基本法がないこと、Bハードな土木事業中心でソフトな生活再建支援事業がないこと を指摘しました。
 また、都市にあっては一極集中型の都市構造や木造密集市街地の放置、災害をきっかけとする都市計画などが、農村にあっては自然の地形を無視した農業土木事業、促成栽培型の林業事業などが、過疎化、少子高齢化による地域コミュニティの崩壊、地域防災力の低下などとあいまって災害に弱い都市と農山漁村をつくっていると語りました。そしてこの間の市町村合併の強行がこれに拍車をかけていると指摘しました。
 そのうえで、災害が常態化・日常化しているもとでハードな土木事業だけでは地域を守れず、日常のまちづくりこそが最大の防災対策であり、地域コミュニティの再建と維持が防災対策の基本とされるべきと強調しました。

 公の支援は欠かせない

 講演を受け会場からも積極的な発言があいつぎました。
 府職労舞鶴支部の三澤さんは、台風23号水害時の中丹東土木事務所と同舞鶴駐在の対応についてリアルに報告。「広域化したなかで業者の力では限界があり、結果として職員が現場に行けて対応できたところのみが事態に対処できた」と語りました。
 舞鶴加佐地区に住む小杉さんは、台風23号水害時に露呈した地域力の低下について発言。「昭和28年水害では住民だけでかなりのことがやれたが、今回は過疎高齢化のもとで自宅の畳さえ上げられない状況があった」と語り、「かろうじて機能した消防団でも維持が困難になっており、災害復興も含めて公の支援が欠かせない」と指摘しました。その他にも京都市消防ネットや京都地方気象台の職員からの発言や質疑応答が行われ、今後とも防災についてさらに論点を深め、教訓化していくことを確認しあいました。
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