総務省「地方公務員の給与のあり方に

関する研究会」が中間整理

自治労連が書記長談話

 3月28日、総務省の「地方公務員の給与のあり方に関する研究会」は、中間整理を公表しました。この研究会は、政府が04年「骨太方針」で地方公務員の賃金について「その適正化を強力に推進するとともに、地域の民間給与の状況をより的確に反映し決定できるよう、人事委員会機能の強化をはじめとしてそのあり方を見直す。国はそのための参考指標を整備する。」としたことを受け昨年10月に発足したものです。
検討のテーマとして@地方公共団体における給与決定の考え方、A人事委員会機能のあり方、B地域の民間給与の状況を反映させるための参考指標の整備、C給与構造の見直しの方向性などを掲げ、今回、中間整理として検討内容を整理・要約したものです。今後、05年度中に最終報告を行うとし、人事院の「給与見直し」とあわせ、06年度にむけた地方公務員賃金の抜本的改悪につながる重大な役割をもつものです。 
 自治労連は、「中間整理」が以下の特徴と問題をもっていることを指摘するとともに、今後、最終報告までに地方公務員の給与やその決定システムに対する自治労連の要求等を反映させるたたかいをいっそう強化する必要があります。

 
.研究会の「地方公務員の給与のあり方」見直しは、政府・財界の意向を反映研究会の中間整理は、地方公務員の給与制度・給与水準に対する国民の強い批判の要因が、@公務員の身分保障の実態や画一的・年功的な給与制度・運用等、A給与決定制度や人事委員会勧告の仕組みに対する説明不足等、B一部の地方公共団体における不適正な給与制度・運用の存在、C地方公務員によるサービスと住民の負担感とのギャップなどが考えられる。としています。
 しかし、公務員の「身分保障」は、憲法15条にもとづく「全体の奉仕者」としての職務という基本的性格に由来するものであり、また「人事委員会勧告の仕組み」は、政府自身が労働基本権を不当に制約した公務員の賃金決定システムに連動するものです。
 また、一部の不適正な給与運用の問題は論外としても、「住民サービスと住民の負担感とのギャップ」を地方公務員の給与制度への批判に結び付ける議論は全く問題を逆に画く議論であり、年金・医療など社会保障の改悪をはじめとした「構造改革」による住民サービス切り捨てに対する国民・住民の怒りの現れとして捉えるべき問題です。 研究会の「地方公務員の給与のあり方」見直しの要因と動機は、むしろ、05年骨太方針の論議の中でも強調された、奥田日経連会長など経済界幹部の「公務員の総賃人件費削減発言」や「経済財政諮問会議」における民間委員の「公務員の総人件費の削減にむけて」と題する要請、さらには3月28日に政府が明らかにした「地方行革新指針」や人事院の「給与構造の見直し」などを具体化し、民から官への「賃下げの循環」をつくることが最大の動機だと言えます。
 しかし、こうした「研究会」の地方公務員の給与制度の見直しは、「三位一体改革」による地方交付税の削減などと連動して、地方財政や地方の行政水準、人材確保などに重大な影響を与え、地域間格差を拡大するとともに地域経済に深刻なマイナス効果を及ぼし、総じて「地方の切り捨て」につながるという認識が全くないところに重大な問題をもっています。
 
 
.公務員の給与決定の原則と、その「社会的影響」をふまえたものでなければならない
「研究会」は、地方公務員の給与決定のもっとも重要な原則として、地方公務員法第24条第3項「生計費並びに国及び他の地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他事情を考慮して定めなければならない」とされており、これを「均衡の原則」と言い、この原則の実現は「国家公務員に準拠する(国公準拠)」ことより実現されるとする短絡的な議論を展開しています。
 さらに「国公準拠」の内容は、給料表の構造や昇格、昇給など「給与制度」と、基本給や各種手当などをラスパイレス指数で比較した「給与水準」の双方を準拠させることにあるとしています。
 しかし、第24条第3項は、「生計費」がトップ項目となっているように、公務員の賃金決定にあたっては、「生計費原則」や「同一労働同一賃金」「均等待遇」など、社会一般の給与決定の基本原則が重要ですが、研究会はこうした点を無視するとともに、賃金の決定の大原則である労使交渉により決定されるという性格を全く欠落された議論を進めているところに重大な問題をもっています。
 
 
.2度にわたるILO勧告をふまえ、「労働基本権の回復」を正面にすえた議論こそ必要

 「研究会」の検討の留意点として、「労働基本権については、現行制度の基本的な考え方を前提に人事委員会の機能を重視して検討する」としています。
 しかし、中間整理でも認めているように「給与見直し」は、賃金・労働条件に直接かかわるもので、労働基本権にもとづく労使協議、労使合意によって進められるべきものです。このことは、ILOが2度にわたる勧告で繰り返し指摘していることであり国際基準に明確に反するものです。
 ましてや、今回の「研究会」の主要なテーマに「人事委員会の機能のあり方」をすえていますが、人事委員会の機能のあり方は、「公務員の労働基本権の制約」と不可分の問題であり、労働基本権の問題を棚上げした議論は許されるものではありません。
 とりわけ、民間で進められている「能力・成果主義」にもとづく給与制度を公務に持ち込む動きは、従来の集団的労使関係を個別的な労使関係に置き換えるものであるだけに「労働基本権の回復」を含めた公務員の「給与決定システム」のあり方を根本的に検討されるべきです。
 
 
.研究会の具体的な検討事項も重大な問題をもっている
 「研究会」は、今後の検討すべき課題と論点として、@給与決定の考え方について、A人事委員会機能の強化について、B給与構造のあり方について、C「公民比較」の参考指標についての4点をあげ検討を進めるとしていますが、各検討項目に重大な問題を含んでいます。
 まず、「給与決定の考え方について」「人事委員会機能の強化について」は、「地域の独自性の拡大」や「地方財政の自立」「住民負担と給付(サービス)の関係などをどう考えるか」「財政事情を含めて判断することは、本来の役割でないか」とするなど人事委員会の勧告で地域の実情・財政事情による独自の賃下げを容認させるような議論があることは問題です。
 さらには、民間調査の体制や人事委員会のない自治体の方向性などを課題にあげるとともに、「調査対象となる企業規模を引き下げた特別調査を実施し、その実証結果等をふまえた検討を進める」とし、調査規模を50人以下の事業所に引き下げ、賃金水準の引き下げのための議論を進めています。 また、「給与構造のあり方について」は、地域ごとの民間賃金水準のより正確な反映や、職務・職責を反映する「能力・成果主義」賃金の検討など、人事院の「給与構造の見直し」の具体的内容をふまえながら検討を進めるとするとともに、「賃金構造基本統計調査」「職種別民間給与実態調査」などの統計資料を給与決定に、どのように位置づけ取り扱うのか、民間の就業構造、給与構造の変化をどう考慮するのか−などの検討課題をあげ、人事委員会の勧告機能をより「民間準拠」のための「統計調査機関化」する議論が行われているのは「労働基本権」とかかわって重大な問題です。

 
.あらためて自治労連はじめ労働団体との協議を尽くすことを求める 
 今回の「中間報告」の内容は、人事院の「給与構造の見直し」に沿って、公務員の賃金決定の原則を民間準拠にゆがめ「民間賃金の反映」として給与水準の大幅引き下げること、職務・職階の強化と評価制度による賃金格差を大きく拡大する方向が明らかとなってきたことに止まらず、さらに、地域の民間賃金や財政事情を反映させ、国を上回っていっそう切り下げを可能とするような賃金制度「改悪」となる重大な問題を含んでいます。
「研究会」は、今後の検討の中で、給与制度等の見直しは「人事行政、財政運営、人材確保、公務サービスの質などに深くかかわる問題」であり、また、「公務員の重大な勤務条件でもあり、関係者の十分な理解を得ることが重要である」として「職員団体など、・・関係者等からのヒアリングを行うなどできる限り幅広い意見等の把握に努める」としていますが、自治労連は、研究会がこの立場を引き続き堅持し、関係する労働組合との協議を尽くすことを強く要求するものです。 さらに、検討にあたっては@憲法が保障する「労働基本権」をふまえるとともに、「地方自治の本旨」にもとづき賃金の自主決定が尊重されるよう検討を行うこと、A人材の確保、公務サービスの専門性・安定性・継続性を維持する視点で「同一労働・同一賃金」「生計費原則」など原則をふまえること、B地方公務員の給与が、地域の行政水準、民間賃金水準の引き下げなど社会的影響をもっており、地域経済への影響等を十分に考慮して検討を行うこと−を求めるものです。
 自治労連は、こうした立場に立って地域の民間労働者、地域住民との共同を広げ「全体の奉仕者」としての職務が担える給与制度の確立を求めて奮闘するものです。