高齢者狙い撃ちの負担増

政府の「医療制度改革大綱」

 高齢者の医療費自己負担の大幅引き上げなどを柱とする政府の「医療制度改革大綱」がこのほどまとまりました。06年通常国会に関連法案が提出される予定です。
 現在、高齢者の医療費自己負担はかかった医療費の1割。これを2割(70〜74歳)に引き上げるのが改革の中身。一定所得以上の高齢者は現行の2割負担が3割負担になります。療養病床に入院する高齢者の食費・居住費の全額自己負担化や、新たな高齢者医療制度を創設(08年)しすべての高齢者から保険料を徴収することも盛り込まれました。
 こうした負担増は「所得の高い高齢者もいる。現行の1割負担は現役世代に比べて低く、不公平」という理屈で正当化されています。 しかし、高齢になれば病気にかかりやすくなって当たり前。70歳以上の高齢者の医療費は、30〜40歳の世代の3〜4倍です。つまり、病院窓口での自己負担額は現在の1割負担で、なんとか現役世代と同程度に抑えられているのです。2割負担になれば、負担額は現役世代の倍以上に膨れ上がってしまいます。


●「医療費高い」は政府のウソ?
 患者負担増の狙いとして政府・与党は医療費抑制を掲げます。今回の改革案では、高齢者負担増に加えて、経済の伸びに合わせて医療費総額を抑制する考え方も盛り込まれました。
 しかし、日本の医療費は他の先進諸国と比べると高くありません。医療費の対GDP(国内総生産)比は、欧米諸国よりも低水準。1人当たり医療費は、英独仏などより1〜3割も低く、米国の半分以下です。
 こうした安上がりな医療にも関わらず、日本の平均寿命は世界で一番長く、新生児死亡率も最低水準。WHO(世界保健機関)のリポートでも、健康達成度の総合評価で日本は世界一にランクされています。


●狙いはアメリカ型の儲ける医療
 安くて成果の上がっている日本の医療制度を政府・与党はどこに導こうとしているのか?
 今回の医療制度改革大綱には含まれていませんが、政府は健康保険がカバーする病気の範囲を縮小することも検討中。医療の公的負担を最小限に抑えて、残りは自己責任でという発想です。財界からは公的保険を縮小した分、民間保険を売って儲ける本音も出されています。
 実はこうした医療制度を採用している国があります。米国です。しかし、命を儲けの対象にした制度の下、一部の金持ちは最高水準の医療を受けられる反面、4000万人以上が無保険下で生活しています。医療費が払えずに破産する人は、クレジットカード破産に次いで第2位。低所得者は医者にも満足にかかれず、新生児死亡率は日本の3倍です。

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