京都の最低賃金「1円」引き上げを答申

されど「0円」からは大きな前進

まだまた生活実態にかけ離れたもの

京都総評は、京都労働局に「異議申出」

 中央最低賃金審議会は7月21日、「現行水準を基本として引き上げ額の目安は示さないことが適当」として、据え置きを決めました。同時に「わが国の景気が回復基調にあることを踏まえ、地域の経済実態を考慮しつつ、自主性を十分に発揮されることを希望する」との公益委員見解が出されました。
 これに基づき、地域最賃の審議がされてきましたが、京都では「1円」(現行は時間給677円)の引き上げ答申が出されました。昨年の「0円」からは前進といえます。府職労をはじめ青年が「最賃生活体験」を行い、それをマスコミが大きく取り上げました。個人請願、団体請願を繰り返し、宣伝・デモも行ってきました。この中での1円アップです。それでも到底生活できる賃金とはいえません。
 京都総評は8月19日、京都労働局長に対し「異議申出」を行いました。
 

異議申出書

 最低賃金法第16条の2第2項及び同法施行規則第11条3の規程にもとづき、平成16年10月1日発効予定の最低賃金の改正決定に関して以下の通り異議申出を行ないます。

【異議の内容】

1、現行の最低賃金の水準は、働いて受け取る賃金としては、あまりにも低すぎ、少なくとも生活保護基準を上回ることをめざして、段階的に引き上げ、改善することが急務です。最低限の生活ができる金額を保障することをめざし、引き上げることを求めます。

2、今年の答申は1円の引き上げで、この引き上げ額では到底前項の目標に達するに程遠く、もっと抜本的な引き上げが必要です。

【異議の理由】

1、今回の審議のベースとなった中央最低賃金審議会の「現行水準を基本として引き上げ額の目安は示さないことが適当」という答申は、低すぎる現行の最賃水準を引き上げる必要性からみれば、現行水準を改善するものとは言えず、きわめて残念な公益委員見解となりました。しかし、昨年の凍結宣言ともいえる「0円」明示に比べれば一歩前進と言えるとともに、「わが国の景気が回復基調にあることを踏まえ、地域の経済実態を考慮しつつ、自主性を十分に発揮されることを希望する」などとの、地方での引き上げを促す方向を示しました。今回での京都での答申は、こうした中央の公益委員見解にそったものといえますが、我々は、引き上げ幅が不十分と考えるものであり、一層の引き上げを求めます。

2、現在の日本の最低賃金の最大の問題は最低生計費を保障できておらず、最低限の賃金として問題がありすぎます。また、こうした問題について、審議会で審議がなされたとは思われません。今回、私どもは、以下のような主張をしてきました。

@ 生活保護制度による最低生計費との比較で、現行最低賃金の水準は低すぎること。時間額677円を月額として試算すると約119000円で、これは、現在の稼働可能な人を前提とした大都市部での生活保護費に公租公課を含めた数値と比較すると約6万円ほど最低賃金の方が低くなります。このことは、現行最低賃金の異常な低さを示しています。現行の最低賃金と生活保護費との関係は、1978年までは最低賃金の方が高かったのです。これは、最低賃金の成立過程も含めて、働いて得る賃金としての最低賃金は、生活保護費よりは高くするのは当然であるとする政府の認識があったためです。低すぎる最低賃金を計画的に引き上げて、制度間の矛盾をなくしていく努力こそが求められています。

A 京都総評青年部が最低賃金生活体験を実施し、その結果を資料として審議会に提示しました。この内容は、現行の最低賃金を月額119000円として、自立した生活を前提に、固定的経費等を除いていき、1ヶ月間の生活をしたものです。この生活の特徴は、食生活がまともに送れないということであり、何らかの一時的な出費が発生した場合は、生活ができなくなるということでした。しかも、精神的な面での影響は大きく、働きながらの生活は不可能であるというのが結論です。これは、意見書で示した学生の生活費をも下回るものです。

3、現在の経済の状況は、回復基調にあるとはいえ、それは、多国籍企業と設備投資関連などの一部に限られ、労働者の所得の低位への移動が進む中、いまだに、中小企業や地域の経済は厳しい状況にあります。しかし、こうしたことを理由に、最低賃金の引き上げを配慮しなければならないほど、現行額は高い水準にあるわけではありません。逆に、最低賃金が低いために、過当競争の中で労働者の賃金が引き下げられたり、取り引きの前提となっており、このことが地域経済の自立的な循環の障害になりつつあるといえます。フリーターの急増が日本の経済や労働者の生活に重大な影響を与えるとのレポートが出ていることにみられるように、低賃金が社会に与えるマイナスの影響は次第に大きくなってきています。

最低賃金の引き上げは、社会全体の低賃金労働者の賃金改善につながり、企業間競争を公正なものとすることができます。同時に、消費の増大の経済効果は、低所得層の方が高く、景気対策として有効であることも広く知られています。国民の生活安定なしに、日本の経済と社会の健全な維持はありえず、最低賃金制度は、制度として、その中軸としての機能を果たしていくことが求められています。

4、日本は、最低賃金に関するILO条約を批准しており、この国際的な基準にもとづく議論が必要になってきていると考えます。それは、グローバル化の前提であるとともに、ILOが日本政府に是正をたびたび求めている賃金格差の是正、均等待遇の日本での具体化のために必要でもあるからです。その点では、ILO条約(26号条約・30号勧告)が示す、賃金率の決定にあたっては「労働者が十分に組織されており、かつ有効な労働協約が締結されている産業において類似の労働に対して支払われる賃金率を考慮すべきであり」「事情によりこのような基準が得られない場合には賃金の一般的水準を考慮する」とした基準からみても、日本の最低賃金の水準は大幅な改善を求められていると言えます。