VDT障害による「調節衰弱」は公務災害

審査会が基金京都支部の採決を覆す

 昨年の10月7日、地方公務員災害補償基金京都府支部審査会は、京都府立医科大学付属病院・放射線技師MさんのVDT作業による眼精疲労からおこる「調節衰弱」を公務災害と認定しました。基金支部の「公務外」の認定を覆す裁決です。
 担当弁護士の村山晃さんは、「(調節衰弱は)職業病としては未だ定着していません。それだけに、難しい面があります」「基礎疾患病らしきものがあっても、本人にとっての因果関係の有無が重要であること、本件では仕事以外に原因を見出すのが困難であること」(Humanlyきょうと)と述べているように、今後の公務災害認定に新たな道を開くものです。

 
  改めて基金支部のあり方が問われる 
 
 公務災害認定までは、決して楽な道のりではありませんでした。申請したのが1998年、基金支部から通知書が届くまで6年半、それも公務外認定。
 「公務外認定」の中味には、重大な事実誤認がありました。基金支部専門医による意見概要に「第4子誕生(平成8年10月)に伴う家庭内のストレス(心労等)による影響・・・」と書かれていました。実際に第4誌が誕生したのは、平成8年3月27日でした。Mさんは、「家庭内ストレスがあったとは」まったく思っていませんでした。
 裁判闘争も辞さない構えでの審査会への提訴、府職労医大支部や弁護士などの支援で勝利することができました。
 この取り組みの中で基金支部・審査会のあり方が改めて浮上してきました。第4子誕生の事実誤認、事実誤認が明らかになってもあくまで公務外にこだわる姿勢、問題は大きい。
 長時間労働やVDT作業が膨大になっているとき、申請者の立場に立った審査をしてほしいものです。府職労執行委員で医大支部書記次長・富田茂信さんにに事件の経過と詳細を聞きました。

 
事件の詳細と経過府職労執行委員・富田茂信

 平成10年5月15日に、京都府立医大附属病院に勤務する放射線科技師Mさんは、地方公務員災害補償基金京都府支部長(当時は荒巻禎一、現在は山田啓二知事)あて公務災害認定請求書を提出(受理は平成10年8月28日付け)。平成8年1月の配置換えにより、インビボの検査で画像解析業務(VDT作業)となって10月末頃から眼精疲労を感じ、11月末頃さらに眼精疲労が強くなり、痛みを感じるようになったため、12月に眼科を受診、調節衰弱との診断がなされました。
 この原因として、公務以外に考えられないため、当然公務上の災害と認定されるものと思っていました。
 ところが、平成16年12月9日付けの公務災害認定通知書では「公務外の災害」に。「公務との相当因果関係が認められない」理由として要約次のように記述してありました。
 @ 本人の業務従事状況について
 他の職員の職務従事状況と比較して、本人のVDT作業が特段多いものとは認められず、同僚職員が本人と同様の症状を訴えているという事実は認められないことから、本人の職務が過重なものであったとは認められない。
 A 支部専門医の意見の概要
 家庭や職場でのストレスがあると罹患しやすいが、1か月以内で異常が出ることが多い。発症時期(平成8年11月)から考えると、人事異動(平成8年1月)による職場環境の影響よりも、第4子誕生(平成8年10月)に伴う家庭内のストレス(心労等)による影響が大きいのではないか。一方、平成8年1月以降の公務(長時間の近見作業)の蓄積による影響の可能性はある。
 B 医学的知見
 シンチグラムそのものは、細かいところを判断する検査ではなく、また、本人は医師ではないので、最終的な診断を行うことはないため、きちんと撮影されているか否かを判断するのみであることから、シンチグラムによる作業で、モニターをずっと見ていることは考えられず、モニターをずっと見ていることによる眼精疲労が起こったとは考えられない。また、本人は、病院の診断書によると、傷病名は、「遠視、外斜位、眼精疲労、調節痙攣疑い」となっており、支部専門医の所見にもあるように、「遠視」、「外斜位」はいずれも「調節衰弱」の素因として認められるので、本件の「調節衰弱」については、公務が相対的に有力な原因として発症したとは認められない。
 
 この理由には、事実誤認があり、それを理由に公務外と認定することは納得できない、と本人が組合事務所を訪れたのが、本件審査会への審査請求の始まりです。
 支部執行委員会で全面的に支援をきめ、次のとおりすすめることにしました。
 @ 地方公務員災害補償基金京都府支部審査会あて審査請求すること。
 A 可能な限り、職場の同僚や他の精通者に援助又は協力を求めること。
 B 弁護士を依頼すること。
 平成17年1月17日付けで審査請求書を提出しました(受理は平成17年2月7日付け)。請求理由は、概要次のとおりとしました。
 @ 第4子の誕生は、平成8年3月27日であり、平成8年10月とあるのは事実誤認であり(戸籍謄本の写しを添付)、従ってこれに関連する支部専門医の意見は根拠を失う。
 A インビボ検査(シンチグラム)は、画像解析処理つまりTVモニターをずっと見続ける作業が主な業務であったのは事実であり、これに関連する医学的知見は、事実誤認である。
 B 「遠視」、「外斜位」はいずれも「調節衰弱」の素因として認められる、とあるが素因は素因であって原因ではなく、またこの点での論証もなく、短絡的で論理性を欠いた記述となっている。

 平成17年2月16日付けで基金支部から弁明書の提出がありました。その内容は、要約次のとおりでした。
 @ 仮に、第4子の出生が平成8年3月27日であったとしても、その趣旨に変わりはないと考えられ、全体として根拠を失うものとは言えず、・・・請求人の主張には理由がない。
 A 本件に係る医学的知見によると、「シンチグラムそのものは、細かいところを判断する検査ではなく、・・・モニターをずっと見ていることは考えられず、モニターをずっと見ていることによる眼精疲労が起こったとは考えられない」とされていることから、請求人の主張は失当である。
 B 処分庁は、請求人の職務従事状況と他の職員の職務従事状況と比較しても、・・・請求人の職務が過重なものであったとは認められないとしたものである。したがって、当該職務従事状況及び本件に係る医学的知見等からみて、本件疾病と公務との相当因果関係は認められないとしたものであり、短絡的で論理性を欠くとする請求人の主張には理由がない。

 これに対し、平成17年4月に、全面的な反論書及び当時の同僚N氏の「眼の疲労や頭痛、肩こりに悩まされ、帰宅してもテレビや新聞を見るのがつらく、鍼灸院に針治療に通うようになった。しかし症状はなかなか改善せず、眼の疲労に不安を感じたため、平成12年春頃、他の部署への配置換えを希望した」との趣旨の意見陳述書や本人の業務に係る追加説明書を随時提出。

 平成17年5月9日付けで基金支部から再弁明書が届き、6月20日に口頭意見陳述が実施されました。(この間も本人からの意見陳述書、弁護士村山晃氏による意見聴取書を提出)
 口頭意見陳述の発言者は、本人の妻、当時の同僚のN氏、本人、弁護士であり、関係者として、当時の医大支部書記長増田勝氏と書記次長が同席。
 その場では、本人の妻が、家庭内ストレスが無かったことを、当時の同僚N氏が、発症当時の職場の状況と仕事の内容、眼を使う仕事で、自身も眼の病気になったことを。本人が、基金支部の理由が種種の点で事実をねじ曲げていることを具体的事実に即して、村山弁護士が本件の因果関係についての考え方や事実の認定のあり方について、それぞれ発言。

 平成17年10月7日付けで基金支部審査会から裁決書が届けられました。その内容は、主文が「基金支部長が平成16年12月9日付けをもって審査請求人に対して行った公務外認定処分については、これを取り消す」というものであり、理由(判断)は要約次のとおりでした。
@ 本件疾病の発症原因について、眼科医院医師は、いずれも調節の過度の使用、目、全身の疲労等であることを指摘しており、処分庁からの本件疾病に対する加齢、体質、基礎疾患等の影響の有無に関する照会に対し、36歳の年齢、その他調節衰弱を来す疾患は認められないことから他の影響は考えにくい旨を回答している。
A 京都府立医科大附属病院医師は「遠視」、「外斜位」を「眼精疲労を来す要因」と指摘する。
B 支部専門医は「遠視」、「外斜位」のような素因がある方が「調節衰弱」に罹患しやすいとしながらも、公務が相対的に有力な原因となって発症に至ったかどうかとの処分庁の質問に対して、・・・全体的に見ると、本件疾病発症における「家庭内ストレス等」と「職場環境・公務」の原因をそれぞれ50%程度との判断を示しているところである。
C しかし、支部専門医の所見は第4子誕生の時期及び家庭内のストレスの状況について事実誤認を前提に行われているものであり、本件疾病発症当時、本件疾病の原因となるような家庭内ストレスが存在したという事実は明確には認められないことから、家庭内のストレス(心労等)による影響を過度に評価しているものである。
 また、支部専門医は、家庭内のストレス(心労等)による影響とともに、平成8年1月以降の公務(長時間の近見作業)の蓄積による影響の可能性を指摘し、「通常の疲労ならば1日あければ十分回復するが、調節衰弱を来した場合には、1〜3日の休養では回復は困難である。すなわち、調節機能に対する疲労は、ある限度を超えれば蓄積するものである」との所見を示している。
D したがって、この状況を踏まえて支部専門医の所見を判断した場合、職場環境・公務の影響が本件疾病発症に関して相対的に有力な原因となったと認めざるを得ない。

 結論として、「以上のような、請求人の本件疾病発症前における職務従事状況及び本件疾病の医学的知見等から総合的に判断すると、請求人は、本件疾病発症前の職務における長時間の近見作業によって、右眼の調節機能を自然的経過を早めて著しく増悪させ本件疾病の発症原因とするに足る負荷を受けたと認められるものであり、本件疾病は公務に起因して生じたものと認めるのが相当である」としています。

 この裁決を受け、平成17年10月18日付けで基金支部長から「公務上の災害」と認定した旨の公務災害認定通知書が届けられました。

 今回の事案に係る見解は、次のとおりです。
1 今回の結果を導き出した大きな要因は、本人の強い意志があったことです。その意志をくむかたちで、関係者が持てる力を発揮しました。
2 事実誤認という、所属長及び処分庁(基金)の杜撰な対応によって処分がなされたものであり、逆転認定裁決は当然のものです。
3 関係者によると、支部審査会で逆転することは稀であること。さらに、VDT作業によるものは、極めて少ないこと、などから、画期的なことと受け止めています。
4 公務災害を引き起こさないためには、労働組合の不断の監視と既存の安全衛生委員会の十分な活動とが必要であり、今後ともそのために奮闘します。

目次へ