共済年金と厚生年金の一元化、今秋にも提案の動き

安心して暮らせる年金制度確立へ自治労連が見解

 最低保障年金の確立を 

はじめに

政府・与党は、官民「格差」を理由に、公務員の共済年金と厚生年金を一元化する方向を打ち出しました。昨(2005)年末の論点整理、今(2006)年2月9日の政府・与党協議会における「被用者年金一元化についての検討・作業方針」の確認を受け、今秋にも予定される法「改正」へ向け、4月中にも政府・与党の方針を確定するという異例の速さで作業がすすめられています。その内容は、共済年金の諸制度を厚生年金に合わせるとする、保険料の大幅引き上げ、転給や職域加算の廃止、旧恩給分への追加費用の廃止・縮小などの重大な制度改悪です。自治労連は、これまでも全額公費による最低保障年金制度の確立を基本とする年金制度の改善・拡充を訴え、その実現のための取り組みを重ねてきました。そうした立場から、今回の一元化問題を含むこれからの年金制度について一定の見解を表明し、取り組みの強化を図るものです。

1 今やるべきことは最低保障年金制度の確立

 今日の年金制度をめぐる最大の問題は、第一に、日々の生活を到底まかなえない低額年金、無年金の人が膨大な数にのぼっていることです。国民年金しか受給していない高齢者は900万人もいますが、受給額は平均で月額46,000円に過ぎません。第二には、国民年金の保険料を払っていない人が1千万人を超えるなど、年金制度全体の空洞化がすすんでいることです。まさに憲法25条が保障する国民の生存権、14条にある法の下の平等に反する重大な問題です。一昨年政府が通常国会で強行した年金改悪法は、骨太方針に示された「社会保障制度の一体的見直し」の名の下に進められている介護・医療制度改悪と連動して、保険料の連続引き上げ、給付水準の一律引き下げという庶民への負担強化、生活破壊をすすめるものにほかならず、年金制度への不安・不信感を一層つのらせるものでした。「自立自助」を理由に社会保障に対する使用者負担を削減する、企業の社会的責任の放棄ともいうべきこうした財界の意志に応えて国民に痛みを押し付ける小泉「構造改革」路線が、今日の問題点を生み出してきたことは明らかです。

今回の被用者年金一元化は、あたかも公務員の年金制度が特別に優遇されているかのように描き出すことで、公務と民間の分断をはかりながら、結果として、共済年金の諸制度を引き下げるだけのものに過ぎません。年金制度全体の問題点を覆い隠し、本当に必要な改革から国民の目を遠ざける役割さえ果たすものと言えます。今必要なことは、安心して暮らすことの出来る年金制度確立のために真の改革を実行することです。全労連・自治労連は、全額公費負担による最低保障年金制度の確立を基礎に、社会保険方式による国民年金、被用者年金を上乗せする二階建て制度の構築を訴えてきました。最低保障年金は、低年金・無年金者問題を解消して年金への信頼感を回復するための最善の方法であり、平等で安心な高齢期生活を実現する第一歩となるものです。最低保障年金確立へ向けた議論こそ急ぐべきです。不安定な一階部分を放置したまま二階・三階に手をつけても、それでは問題の解決にはなりません。

最低保障年金確立にとって重要な問題は、財源をどう確保するかということですが、世界第二位という経済力を生かし、国の財政運営のあり方をかえることで、それは充分に可能です。公共事業中心から社会保障中心へと税金の使い方を変える、大企業・大金持ち優遇の税制をあらためる、莫大な積立金を使う、非正規雇用の拡大を規制し企業に対し適正な使用者負担を求める、さらに雇用対策、少子化対策の強化などで長期的にも財源は充分確保できるものと考えます。同様の制度は、政令指定都市市長会も提案しており、連合や共産党や民主党などの政党とも共通した要求となっています。これからの被用者年金制度は、最低保障年金確立への過程の中で議論し改革されるべきです。

2 政府・与党案の問題点と自治労連の要求

@保険料水準の統一について
 年金空洞化の最大の原因が、国民年金の高い保険料にあることは誰の目にも明らかです。国民年金(一階)部分の確立なしに年金制度の安定はありえず、この問題の解決を図ることが第一義的な課題です。その上に、被用者全体の負担の平等も含めた二階部分の統一を議論すべきです。
保険料水準の統一は、料率決定方式や過去の歴史などこれまでの積立・運用の実績を無視して、あたかも公務員が優遇されているかのように描き出しながら、共済年金加入者の負担増を進めようとするものです。急激な負担増は、「給与構造改革」の名による賃金水準低下と合わせ、公務労働者とその家族の生活を破壊します。

A積立金の管理・運用について
 年金制度全体の積立金の運用に対しては、不透明感が強く、年金不振を招くひとつの要因となっています。運用のあり方を抜本的・民主的に見直すことが第一義的に重要です。将来は、単に「積立を増やし続ける」のではなく、欧米なみの賦課方式としていくことも含め、計画的・段階的に取り崩していくことも選択肢のひとつです。現状では地方公務員共済年金積立金は地方金融機関を通して地域経済と密接に関連しており、また、地方債の財源など地方公共団体の財政を支える役割も果たしています。地方の実情に即した運用に配慮すべきです。
そのためにも、これまでどおり各地方の共済組合を残し、生かしていく事が必要です。共済組合においては、これまでも年金・医療・福祉を一体の事業として取り組んできましたし、現在の地方公務員共済と国家公務員共済の一元化作業は、それぞれの組織を残しながら保険料一本化を進めています。組合員に近い地方の単位で運営することでこそ、共済の各種事業や積立金運用の透明性が保障され、信頼感も高まるのです。

B制度的な差異、特に転給制度の取扱いについて
 制度の差異=「公務員優遇」として、年金制度の水準を下げるだけの議論が展開されています。特に、共済年金にある転給制度は、死亡した者によって生計を維持していた遺族のうち先順位者が失権した場合に次順位者に支給されるというもので、遺族年金が一家の働き手を失った遺族の生活を保障するものであることからみて必要不可欠な制度です。国民年金の遺族給付では、18歳以下の子どもがいなければ全く給付されませんし、障害も1、2級しか支給されないというもので、厚生年金だけでなく国民年金にも、長い間、こうした制度的整備が求められていました。遅れた部分の改善によって年金への信頼感を高めることが必要なのです。

C職域部分の取扱いについて
職域部分は、定年退職後の生活保障という観点からも認められ、充実が図られるべきものです。したがって、「廃止・見直し」は、労働基本権問題を含む公務員制度全体の議論と並行して検討されなくてはなりません。現実には、様々な形態をとりながらも、民間企業の7割に三階部分に相当する企業年金があることからみれば、新たな官民「格差」を生み出す「廃止」に道理はありません。民間の制度も考慮した「見直し」が考慮されるべきであり、将来は、年金額全体の引き上げで「格差」解消が図られなければなりません。

D追加費用の取扱いについて
追加費用とは、昭和34・37年の国公・地公の各共済組合法施行以前に採用した職員について、法施行までの期間部分に対応する「恩給」を支払うための「国の負担」をいいます。それ以前に退職した職員(軍人・軍属やその遺族を含む)に対して国が全額を負担して恩給を支給(総務省人事恩給局、総額1兆円)していることと同様のことであって、とても公務員優遇などと言えるのものではありません。国が行なってきた労務政策である以上、国が負担を続けるのは当然のことです。この費用を削減し既裁定者に対する給付を減らすことは、受給者の生活権・財産権や現行組合員の負担増を考慮しない一方的なものとして容認することはできません。また現役の公務員によってその負担分をまかなうとすれば、厚生年金との一元化の際に厚生年金の保険料をさらに高くするか、給付をさらに削減するしかなく、厚生年金加入者の理解を得られるものではありません。

おわりに−共済年金・厚生年金一元化に強く反対を表明する

公務員制度は、憲法が定める全体の奉仕者としての職務の遂行のために整備されてきたものであり、共済制度は、「公務員及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するとともに、公務の能率的運営に資することを目的(地方公務員共済組合法)」につくられたものです。労働基本権が制約されてきたもとで、次々と新たな行政需要が拡大する今日、公務に打ち込めるいっそうの環境整備が求められています。こうした経過に目をつぶり、働く意欲さえそぎかねない今回の一元化を容認することは出来ません。同時に、一昨年には見送られたパート労働者の強制加入など、公平を口実に国民負担拡大を企図する再改悪の引き金となるであろう今回の一元化に、自治労連は、強く反対を表明します。私たちは、今後も目先の改革論議に振り回されることなく、共済年金や厚生年金などの被用者年金を含む年金制度全体の改革に真摯に取り組んでいきます。
2006年3月28日 自治労連中央執行委員会

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