これは「地方切り捨て」の報告だ

「地方公務員の給与のあり方に関する研究会」

自治労連が書記長見解

1 06年3月27日、総務省の「地方公務員の給与のあり方に関する研究会」(04年10月発足)は、今後の地方公務員給与のあり方に関し、最終報告を行いました。

 
いっそうの賃金格差の拡大

 報告は、給与決定の考え方、給与構造のあり方、人事委員会の機能のあり方などについて改革方向を打ち出したものです。これは、現在たたかわれている「給与構造改革」の攻撃とあわせ、地方公務員のあり方に重大な影響を及ぼすばかりか、「三位一体改革」と連動して地方財政や地方の行政水準、人材確保などに重大な影響を与え、「地方の切り捨て」につながる重大な問題をもつものです。自治労連は、研究会の検討にあたって、小泉「構造改革」による賃金削減、格差拡大のための検討でなく、@)憲法が保障する「労働基本権」を踏まえ、「地方自治の本旨」にもとづき労使交渉による自主決定が尊重されること、A)人材の確保、公務サービスの専門性・安定性・継続性を維持するうえで、「生計費原則」、「同一労働・同一賃金」、「公平・公正」などの原則を踏まえること、B)地方公務員の給与が、地域の行政水準、民間賃金水準のありかたなどに社会的な影響力をもっていることをふまえ、地域経済への影響等を十分に考慮することなどを求め、具体的な提言を行ってきました。こうした立場から、以下、報告の主な内容と問題点を指摘し今後の課題を明らかにするものです。

  
「給与決定の考え方」の大きな問題点

2 報告は、「給与決定の考え方」で、地方公務員法第24条3項の「生計費、国の職員の給与、他の地方公共団体の職員の給与、民間事業の従事者の給与、その他の事情」は妥当としていること、「民間給与を考慮する場合の考え方」として「公務員の職務に類似した職務の民間従事者の給与を考慮することが合理的」としていること、自治体の独自賃金カットに対し「財政事情の考慮を人事委員会が行うことは適当でない」との指摘を行なっていること、検討にあたって「地方分権と地方自治の進展をふまえ…それぞれの地方公共団体が適切に給与決定を行なうし仕組みとなるよう留意」するとしていること−などは、この間の自治労連の意見の主旨から見ても、評価できるものです。
 しかし、同時に、以下のようにきわめて重大な問題点を持っています。
@ 「給与決定の考え方」では、職務給の原則について、年功的要素を弱める上からも改めてその徹底が必要としています。また、「国公準拠の刷新」として、給与制度は国の制度の適用を求め、給与水準は「地域の民間水準」に従うことを求めています。このことは報告が「給与構造の改革」を国に準じて早期に実施することを求めていることとあわせ、@)地方公務員の賃金水準の大幅削減と地域間格差の拡大、「職務・職責」の強化と能力・成果主義の「査定」による職員間の賃金格差拡大などを自治体に押し付け、A)地場の民間準拠により、国の賃金水準を上限とし大幅な水準引き下げと地域間格差の拡大を迫まるとともに、地域の民間労働者の賃金引き下げと格差拡大に拍車をかけるものです。なお、人材確保等の要素の考慮については「政策判断として今後の検討課題」と先送りとしました。

A 人事委員会機能強化として、@)勧告内容の充実と説明責任の徹底(給料表等の明示、勧告の基礎となる資料公表の制度化など)、A)公民較差の算定方法等の改善(役職の対応関係等の見直しなど)、B)民間給与の調査方法等の見直し(調査対象の企業規模の100人未満の企業も調査など)、C)賃金制度・運用に対する監視・管理権能の明確化(級別定数管理の権能の明確化等)、D)人事委員会相互の連携強化(給料表作成能力の向上や共同研修の実施、調査データの相互利用、モデル給料表の作成などに必要な体制を構築)などを上げています。
とりわけ問題なのは、賃金引き下げと地域間格差の拡大につながる民間調査を100名以下企業までの拡大方向を打ち出していること、政令市などのように勧告で給料表を示していないことを取り上げ説明責任として勧告で給料表を示すことを求めていること、人事委員会に「級別定数の管理機能」などの明確化を打ち出したことなどは、賃金の引き下げや労使交渉の制約につながり、今後の重要な課題となるものです。

B 人事委員会のない市町村に対し、都道府県人事委員会の勧告を参考にすること及び民間給与のデータを提供し市町村長が独自に判断できる制度を検討することとしており、都道府県人事委員会勧告に基づき給与決定に拘束を強める重大な問題を持っています。

C 「改革を推進するための参考指標」として、@)地域手当を含めた給与水準を一体的に評価する新ラスパイレス指数を考案し、A)住民等が合理的な給与制度、運用等について評価・検証できるようなガイドラインの整備の検討を求めています。これは、地域手当を含めた給与水準で国や自治体間で賃金比較をし、国の監視を強めるものです。
 小泉内閣は、行革推進法や総人件費改革を打ち出し、「小さな政府」論=大きな国民負担増・格差拡大社会づくりをすすめています。報告は、こうした流れの中で、労働基本権の制約のもとで労使交渉による自主決定の幅を狭めること、「地方切捨て」と公務の全国的一体性の解体をすすめること、地域の民間労働者全体の賃金抑制と地域間格差の拡大につながるなどの恐れを持つものであり、今後の具体化、検討に向けた取り組みが重要となっています。

 
民間賃金、地域経済に大きな影響

3 研究会は、今後の進め方として、「ただちに着手するもの、関係者との合意形成を要するもの、法改正を含め制度改正が必要なもの」に区分し、具体的に進めるとしています。
 自治労連は、今回の報告にもとづく賃金改定が、職員の生活はもとより行政や公務員のあり方、地域経済や地域の民間賃金に大きな影響を及ぼすことを明らかにし、労働基本権回復のとりくみと結合し、職場・地域から公務民間、地域住民との共同を広げ、当面する夏季闘争をはじめとしたたたかいをさらに強めるものです。

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