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2016年03月14日

米国の高い薬価を維持・拡大
〈TPP協定文の分析〉

公的医療制度は耐えられるか

 TPP(環太平洋経済連携協定)で健康保険などの公的医療制度が壊されるのではないかという不安が指摘されてきた。政府は「日本の皆保険制度は守られる」と、大丈夫論を繰り返している。本当にそうなのだろうか。

▲データ保護期間延長も

 協定文を見る限り、公的医療制度を廃止すべきといった文言はない。しかし、だからといって安心できるとは限らない。
「医療」分野の分析を担当した、全国保険医団体連合会(保団連)の寺尾正之さんはこう述べる。
「薬価や保険といった個別の条文・取り決めによって、公的医療制度が切り崩される恐れがある」
 特に心配なのが薬価だ。TPPには、米国製薬企業の高額な薬価を維持し、広げる仕組みが盛り込まれているのだという。
 バイオ医薬品のデータ保護期間をどうするかが、交渉で大きな問題になったのは記憶に新しい。知的財産権に関わる分野であり、米国は12年を主張。結果として8年に落ち着き、日本政府は「国内制度への影響はない」とコメントした。
 だが、寺尾氏によると、「8年」という結論は、正確には「8年に限定することができる」と書かれていた。「つまり、8年に限定しないことも可能で、米国の言うように12年にすることもできる」のである。
「8年」で安心していてはいけないのだ。

▲ジェネリックが困難に

 実際、米国企業が開発する新薬の値段はどのくらいするのだろうか。
 例えば、C型肝炎のインターフェロン治療に使われる「ハーボニー」という新薬がある。医療関係者の間では「これがないと肝がんが抑制できない。副作用もなく、命をつなぐ待ちに待った画期的な薬」だという。日本のC型肝炎患者は150万人以上おり、治療には不可欠な薬だ。
 その値段は1錠で8万円する。ひと通りの治療を終える3カ月間で673万円(米国では840万円)。とても手が出る額ではないが、日本にはC型肝炎への医療費助成制度があるため、患者の自己負担は1カ月2万円、3カ月でも6万円で済む。
 1錠8万円は、日本の薬価基準では高すぎるという指摘もある。データ保護期間が延長されれば、安価なジェネリック薬品はつくりにくくなる。高価格の維持によって、製薬企業は莫大な利益を上げる一方、国の財政負担は重くなる。政府が負担に耐え切れなくなれば、患者負担の引き上げもありうるだろう。

▲米製薬企業が介入?

 薬価については、製薬企業の意向を反映する仕組みが盛り込まれている。
 食の安全でも、企業など利害関係者の関与が規定されていた。「透明性の確保」を理由にした、委員会や作業部会、関係者間の協議という枠組みだ。TPPの日米交換文書では、薬価を含む医療保険制度を協議対象にすることが合意されている。具体的には、薬価などを決める中央社会保険医療協議会(中医協)の議論に米製薬企業など利害関係者の意見を反映させるシステムづくりが狙われているのではないか。
 全国民をカバーする公的医療保険のない米国では、「命の沙汰も金次第」の状況が広がっている。米国ルールが適用されたときに、日本の公的医療保険制度が財政負担に耐え切れるかどうか、だ。

■自由化への終わりなきゲーム2国間協議などで緩和推進

 TPP(環太平洋経済連携協定)協定文の分析チームに参加した市民グループ「アジア太平洋資料センター(PARC)」の内田聖子事務局長は、作業を進めるなかでこう実感したという。
「これは自由化に向けてのエンドレスゲームです。国境を越えて規制を統一することが目的であり、TPPに反する国内規制やルールには常に監視と変更圧力がかけられていきます」
 つまり、昨年10月の「大筋合意」で中身が全て固まったわけではなく、今後も「委員会」「作業部会」「(二国間を含む)協議」などを通じて合意を形成していくことが想定されているのだ。

▲急がば回れ作戦か

 内田事務局長は「米国は交渉を重ねる中で、例えば日本の皆保険制度など各国で定着しているルールや制度を、そう簡単には変えられないと感じたのだと思います。だから、『これから規制をつくる』段階でルールを統一していくことを重視し始めたのではないでしょうか」と語る。
 例えば、「透明性の確保」というキーワードで、利害関係者の意見を尊重させる仕組みをつくるといった手法である。薬でいえば、米製薬企業の意向を日本の薬価審議に反映させるやり方であり、そこでは製薬企業に不利なことがらは合意しづらくなるだろう。
 急がば回れ作戦といえる。

▲関税問題はほんの一部

 内田事務局長はさらに、協定文からは見えてこない危険性があるという。
「協定文はどちらかと言えば、抽象的に書かれており、具体的なことは、2国間協議などで決められていきます。また、米国の『承認手続き』ルールによって、条約発効までの間に相手の国内法や制度をチェックし、変更を迫ってくる事態も予想され、軽視できません。これまでも米国は、FTAを結んだコスタリカやペルーなどに対し、条約批准後に制度を変更させてきた実績があります」
 TPPが恐いのは、協定が批准されると、こうしたシステムが一斉に動き出すことである。
 各国で異なる規制・ルールを、緩める方向で統一していくのがTPPだ。農産物や自動車部品の関税をどうするかといった問題が本当の争点ではない。それらは全体からみれば一部に過ぎないのだ。「TPPは関税の話でしょ」と誤解したままでいると、日本国民は将来、痛い目に合うことになる。 (連合通信) 

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