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2016年03月28日

「停波」による脅しは本気
〈どう見る?安倍政権の報道圧力〉

砂川浩慶立教大学准教授に聞く

  政治報道のあり方を理由に民間放送局の「電波停止(停波)」にまで言及した高市早苗総務相の発言。報道管制ともいえる姿勢に不安を感じる人は少なくない。安倍政権による報道への圧力、高市発言、放送行政のあり方について、メディア総研所長を務める砂川浩慶立教大学准教授に話を聞いた。

▲「停波」による脅しは本気

 ――安倍政権になってメディアへの圧力が強まっています。
 砂川 一昨年の解散総選挙前、自民党が在京民放5社とNHKに「公平」な報道を求めて以降、昨年春にはテレビ朝日とNHKを本部に呼びつけ事情聴取したり、同党内の「文化芸術懇話会」では「マスコミを懲らしめる」という発言まで飛び出しました。11月にはBPO(放送倫理・番組向上機構)の意見書に安倍首相と高市総務相がかみ付き、そして今回の「停波」発言。短期間のうちに、政府与党がこれほどまで放送を槍玉にあげるのは極めて異常です。

 放送局への行政指導は、数え方にもよりますが、これまで32~34件あります。そのうちの4分の1が第一次安倍政権(06~07年)の1年間で出されました。NHK「従軍慰安婦」番組改ざんで圧力をかけた幹事長代理時代など政府与党の要職にいた時期を含めると、3分の1を超えます。

 第一次政権当時の総務相は菅義偉・現官房長官でした。当時、関西テレビ「発掘!あるある大事典」のねつ造問題を機に、再発防止計画を提出させたうえで、それでも改善しない場合には、「停波」を可能にする放送法「改正」法案を準備しました。野党との修正協議で条文化を見送った経過があります。

 高市総務相は「私の時にはしない」などと述べていますが、これまでの経過をみれば「本気で停波をやろうとしている」という印象が否めません。

▲分断されたメディア

 ――放送局側の対応はどうでしょうか?
 メディアが分断されているという問題もあります。日本の放送メディアは新聞と密接に結びついていて、「親安倍」と「反安倍」とに分かれています。これを反映し、昨年以降、安倍首相はNHK、日本テレビ系列、フジ系列には出演する一方、TBS、テレビ朝日には一切出ていません。

「高市発言」については、「NEWS23」と「報道ステーション」が、その危険性の解説も含め、問題視していますが、他局はストレートニュース(簡単な事実報道)の扱いで、解説はしません。NHKに至っては、高市総務相や安倍首相の答弁でニュースを終えるので、政府側がきちんと答弁したと印象付ける作りになっています。

「表現の自由を守れ」とメディアが足並みをそろえられないのは、国民にとっても不幸なことです。戦前の日本では、政府が報道の口を封じ、国民は正確な情報を得られず、無謀な戦争に突入しました。

 踏み込んだ解説がないために、視聴者はニュースを理解しにくい。そのため、沖縄や安保法の問題を報じると視聴率は下がり、番組は芸能人の不倫などゴシップばかりになる。こうしたメディアの状況も戦前と似ています。

 ともすれば、「メディアは特権を守りたいがために『表現の自由を守れ』などと言っている」と見られがちです。だから、メディアの側は「しっかり権力を監視し、国民の皆さんに正確な情報を提供するためにも表現の自由が必要」ということをきちんと説明する必要があります。

表現の自由欠く高市発言

 高市早苗総務相は2月、通常国会で放送法についての認識を問われ、政治的公平に反する放送を行ったとみなした場合、「放送停止」の可能性があると答弁した。最大の問題は、表現の自由についての認識を欠いている点だ。

 ――高市発言の何が一番問題?
 放送法は、表現の自由を定めた憲法21条を具体化した法律であることを理解していません。これが最大の問題です。
 放送法4条の「政治的に公平であること」という番組編集準則が、罰則を伴う、強制力のある実効規定だというのが高市発言です。しかし、実効規定ならば、放送法は憲法21条違反になります。放送法は表現の自由のために定めた法律だからです。それ以外の解釈はあり得ません。
 だから放送法4条には対応する罰則規定がありません。高市総務相が電波法76条とともにあげた放送法174条の罰則規定は「地上波」、つまりテレビやラジオには適用されないと明記されています。同条をよりどころに「停波」の可能性を示した高市氏の答弁は「虚偽」と言われても仕方ないでしょう。
 また、同法と「対」をなす電波法には、「政治的公平」の定めはなく、政府転覆やわいせつな通信を禁じているだけ。政治的な表現を理由として罰則を科すことはできないのです。
 高市発言は「物言えば唇寒し」という時代の到来を予感させます。政治報道がタブー視され、メディアが萎縮する事態は、独裁国家と変わりません。

 ――高市氏は「従来の政府の立場を変えていない」と述べています。
 放送法の歴史を振り返ると、1950年の制定以降、4条は倫理規定という学説と、行政解釈は一致していました。それが93年の「椿問題」※を機に、放送行政局長が「政治的公平の判断は…最終的には郵政省(現総務省)が…判断する」と述べ、双方の間に微妙なかい離が生じました。ただ、処分(行政指導は含まない)された事例はありません。
 民主党政権もこの行政解釈に沿って答弁していましたが、必ずその前に「表現の自由が大切」と前置きをしていました。一方、高市氏は表現の自由には一切触れずに「法律に書いてあるのに罰則を科して何が悪いのか」と開き直っています。優先されるのが、表現の自由か、規制か。中身は全然違います。

 ――放送全体ではなく、「一つの番組」で「政治的公平」を判断するとの政府答弁書をまとめました。
 TBS「NEWS23」の岸井成格キャスターを名指しで批判した、「放送法遵守を求める視聴者の会」の全面意見広告(読売と産経に掲載)の主張がまさにこれでした。政府が禁止事項を例示したことは、萎縮効果を生じさせることになります。非常に問題です。
 一つの番組で判断するといいますが、では夏の参院選挙で安倍首相や閣僚の出演はいいのか。「政治的公平」といいながら、NHKが安保法案をまともに取り上げなかったことについては、自民党は何も問題視していません。狙いは、政府の意に沿わない言論の封殺にあるということです。

 高市氏は前例が既にあると正当化を試みています。実際、「政治的公平」がらみで行政指導された番組は、過去に2例ありますが、どちらもBPO(放送倫理・番組向上機構)が指導に反対していました。イレギュラーな事実を取り上げて、既成事実であるかのように言うのはフェアではないと思います。
 ※椿問題…1993年当時、テレビ朝日報道局長だった椿貞良氏が日本民間放送連盟の会合で、「反自民の連立政権を成立させる手助けになるような報道をしようと話し合った」などと述べたことが問題視され、国会に証人喚問された事件。(連合通信) 

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