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露骨な争点隠しが奏功 |
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法政大学名誉教授 五十嵐 仁さん |
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7月10日に投開票された参議院選挙で、自民・公明の与党は改選議席の過半数を獲得し、勝利した。非改選議席をあわせ、参議院でも改憲勢力が3分の2を握る事態となった。この結果をどう見たらいいのか。法政大学名誉教授(政治学)の五十嵐仁さんに話を聞いた。 ▼安心と安定求めた国民 ほぼ予想通りの結果が出たということでしょう。有権者は変化を望まなかったのだといえます。 客観的な情勢も与党に有利に働きました。熊本の大地震、英国の欧州連合(EU)離脱決定による経済不安、日本人の犠牲者が出たバングラデシュでのテロなど、こういう状況の中で、国民は安心と安定、安全を求めたということです。 アベノミクスについても、完全に否定できないと考え、もう少し様子を見ようということだったと思います。 同時に、選挙戦術としての争点隠し、あるいは選挙があること自体を隠す手法が取られました。アベノミクスを煙幕に使い、国民に評判の悪い争点を「隠す、ゆがめる、うそをつく」という戦術を駆使しました。 ▼マスコミの責任も大 マスコミへの介入と懐柔もひどかったですね。特にテレビは今回の選挙をきちんと報道しない。党首討論をやったのはTBSだけ。NHKに至っては、ニュースでもろくに扱わず、選挙があることさえ知らないという雰囲気がつくられたと思います。 争点や政策が十分に浸透しない中で、争点隠しを意識的にやったのです。例えば消費税問題。10%への増税は延期せずにやると言っていたにもかかわらず、「新しい判断」で延期してしまった。本来なら、これが中心的な争点になるべきでしたが、争点から消されてしまいました。 改憲問題もそうです。改憲勢力に3分の2を取らせてはならないということが争点からずらされました。個別政策について言えば、環太平洋経済連携協定(TPP)や原発再稼働などでは反対が多い。だから争点から隠したかったのでしょうが、隠し切れなかったところでは、自民党は苦戦しています。 秋田を除く東北の1人区で野党が勝ったのは、TPPへの反発ですし、とりわけ福島の場合は原発再稼働問題が影響しました。沖縄では米軍基地建設への姿勢で現職が落選しています。争点がはっきりしたところでは、有権者はきっちり判断をしているのです。 ▼1人区では野党が健闘 32の1人区で、野党はそれなりの成果をあげました。野党と与党が1対1で勝負しなければ、接戦にならないことがはっきりしました。 今回、野党共闘は11の選挙区で勝利しました。共闘ができていなければ、この11の勝利は難しかったと思います。もっと早くから、全面的にやるべきだったといえます。 今後については、複数区での共闘にどう教訓を生かすのか、さらに比例区での共闘にもうまく対応していけるかが課題になるでしょう。比例区での統一名簿という点では、憲法学者の小林節さんたちの動きがありましたが、失敗しました。投票率は上がらず、かえって共産、社民の比例票に影響したかもしれません。 ■改憲は思い通りには進まず 今度の選挙結果によって改憲勢力が参院でも3分の2を占める状況が生まれました。安倍政権は改憲の動きを進めてくるでしょうが、そう簡単にはいかないのも事実です。 自民党は改憲問題を争点から外しました。公明党は公約にさえ書かず、腰が引けています。これは、今後国会で審議する上ではブレーキになるでしょう。 つまり、改憲問題を隠したことによるメリットとデメリットがあるわけです。メリットは選挙に勝てたこと、デメリットは改憲のための審議がやりにくくなったということです。ここは野党にとってもチャンスです。必ずしも自民党の思い通りにはいかないということだと思います。 ▼民進党に再生の芽? 今後についていえば、アベノミクスがどうなるか。首相は「道半ば」と言っていますが、さまざまな経済指標を見る限り、道半ばではなく、安倍政権以前の状況に戻っています。前へではなく、後ろ方向へ引き返している感じ。今後、この経済政策の真価が問われることになります。 最後に、改選時から議席を減らした民進党ですが、どん底から多少は浮かび上がったと見ます。一時は国民から総スカンを食って、もう顔も見たくないくらいに言われましたが、安倍暴走を止める上で同党への期待は上向いてきたのではないでしょうか。3年前よりは再生の芽が出てきたと言っていい。 それも、野党共闘の一員として頑張ったからこそだと思います。問題はそれを今後の野党共闘にどう生かすかです。複数区への対応を含めて野党第1党の役割を果たせる党になれるかどうか、民進党にとってもここが分岐点でしょう。(連合通信) |
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