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2016年07月.04日

日米印軍事演習が引き金に
インタビュー/どうみる東シナ海の緊張

孫崎享・元外務省国際情報局長に聞く

 中国海軍の艦船が6月9日、沖縄県の尖閣諸島周辺の接続水域を通航し、15日には鹿児島県沖の領海に侵入した。政府与党は参院選で、この問題を安保法の正当化に最大限利用しようと躍起になっている。元外務省情報局長でイラン大使も務めた孫崎享氏は、同10~17日に沖縄県東方海域で行われた日米印合同軍事演習が引き金になった可能性が高いと述べ、「参院選前というタイミングを狙って演習を行ったと考えざるを得ない」と指摘する。

▼意味のない印の参加

 ――中国軍艦船が領海に侵入したと、政府やメディアは大騒ぎでした

 孫崎 私も驚きました。日本ではあまり報じられませんでしたが、同時期に、米国、日本、インドによる合同軍事演習が尖閣諸島周辺の海域で行われていました。「スターズ&ストライプス(星条旗新聞)」で、中国海軍がインド軍艦船を追尾して日本の領海に侵入したとの記事を読み、「そういうことか」と理解しました。

 日中有事の際、インドが東シナ海に駆けつけるというシナリオはなく、同海域での合同演習は軍事的に何の意味もありません。中国政府にとってインドは中印戦争(1962年)の相手国であり、将来のライバルとして、日本以上に警戒感を持つ国。インド海軍が東シナ海の合同演習に参加すれば、中国海軍が警戒行動を取らないはずがないからです。特に最近の中国は、挑発には軍事で対応しようとする傾向があります。

 意味のない軍事演習を、なぜあえて、東シナ海でインドを交えて行ったのか。米国は参院選前というタイミングを計ったと考えざるを得ません。

 日中間の緊張を高める事態を招くことで、昨夏成立した安保法の廃止を訴える野党の主張に、国民世論がなびかないようにすることを狙ったと考えるのが合理的だと思います。

 ――中国海軍がインド海軍の艦船を追尾した行為については?

 敵対的な軍事演習が近海で行われた場合、自国軍艦船が相手を追尾し、情報を収集したり警告を発することは、普通に行われていることです。そういう事態を避けることこそ必要です。

▼争点つぶしの布石

 ――米国の利点は?

 日中の緊張が高まれば、(1)日本国内で集団的自衛権の行使容認が受け入れられやすくなる(2)日本の軍事費を増加させ、米国製のオスプレイやイージス艦を買わせることができる(3)沖縄辺野古新基地建設の推進に有利になる――などの効果が期待できます。
 テレビのワイドショーは「中国はけしからん」という内容ばかり。効果が出てきているのではないでしょうか。

 ――米国は巻き込まれたくないのでは?
 尖閣の有事には米軍は出動しません。領有権に関しては、日中のどちらにも与しないという立場です。
 オバマ大統領が一昨年、尖閣諸島を「日米安保条約の対象」と述べ、多くの日本人は米軍が助けてくれると解釈していますが、その認識は十分ではありません。昨年改定した日米防衛協力指針では、日本の防衛は日本が「主体的責任」を負い、米国は補完、支援するとあります。まずは日本が対応しなければなりません。その結果、仮に、中国が尖閣諸島を支配したとすると、日本の施政下ではなくなり、安保条約の適用対象ではなくなります。
 実際、オバマは同日、尖閣問題で軍事行動に踏み切る「レッドラインはない」と述べています。
 また、米国の交戦権は連邦議会にあります。安保条約の条文上、議会が否決すればそれまで。直ちに原状回復するという北大西洋条約機構(NATO)条約と大きく異なります。

▼棚上げにし、外交努力で

 ――領海侵入についての国内の議論をどう見ていますか?

 これまで中国が軍艦を日本の領海に通航させなかったのは、国際法上できないからではなく、軍事的緊張を高めないよう、領有権問題を「棚上げ」にするという従来方針に沿っていたからでした。その点を見る必要があります。

 ――軍事衝突を避けるためにどうすべき?

 まず、東シナ海での軍事演習はやるべきではありません。地球規模の市場で経済成長をめざす中国政府にとって、尖閣諸島をめぐる紛争は割に合わないこと。両国にはその他に領土紛争はなく、尖閣の領有権問題を「棚上げ」にすればすぐに解決します。
 しかし、現在の日本政府を見ていると、自分たちの国づくりのために、尖閣問題を最大限利用しているとしか見えません。そういうやり方では、尖閣の領有権さえ守れなくなることが懸念されます。

接続水域…領海の基線から外側24海里(約44キロ)の海域。密輸出入の取り締まりや伝染病防止のために必要な規制を設けることができる。公海ですので、航行は自由です。

領海…領海の基線から外側12海里(約22キロ)までの海域。沿岸国の主権が及びますが、外国船舶には無害通航権があります。

■諸島の領有権は当事国で

「海洋進出」を強めているとされる中国が、南沙諸島(スプラトリー諸島)の実効支配を強めていることに、日本でも不安視する人が少なくない。どのような解決方法が考えられるのか。元イラン大使の孫崎享氏にさらに聞いた。

 ――6カ国の領有権問題を抱える南沙諸島で、中国が岩礁を埋め立て、軍事施設建設を強行しました。これに対し、米軍が「航行の自由作戦」を行い、緊張が高まる場面がありました。

 東南アジア10カ国から成るASEANと中国とが2002年に結んだ「行動宣言」では、平和的手段による、領土、管轄権紛争の解決が合意されました。それを考えれば、中国はああいうことをすべきではなかったと思います。

 ただ、日本国内では見過ごされていることですが、ベトナムも同海域で岩礁を要塞化し、軍のプレゼンスを強めています。こちらの方が実は先に行われているのです。ですから、中国の行動を一方的であるとも言えません。

 南沙諸島をめぐっては、周辺6カ国が自国の領海について独自の主張があります(図)。それぞれに一定の根拠があり、誰かの主張をダメだと決めつけることはできません。

 先日、ノルウェーの平和学者、ヨハン・ガルトゥング博士と懇談する機会がありました。博士は南沙諸島問題の解決について、海域を全体で共有した上で、資源などの権益を、中国、台湾などチャイナグループが4割、ASEANの4カ国が4割、残る2割は交通や環境整備に当てるべき――と提案していました。どの国の主張が正しいかと決めること自体に無理があるのですね。

「行動宣言」の精神に沿って、当事者どうしが平和的解決の努力をすることが大事です。

 ――米国や日本が関わるべきではない、と。

 そうです。少なくとも、南シナ海に自国の権益を増やしたいという野心を持つ国は参加すべきではありません。第三国の関与があり得るとすれば、スウェーデンやノルウェーなど、国際紛争の仲裁経験のある国や、その意思のある国に限るべきでしょう。 (連合通信)


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