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2016年10月24日

金もうけ手段のISDS条項
〈資料〉レポート「不公正からの利益」

国家を食い物に

 TPP(環太平洋経済連携協定)に規定されているISDS条項(投資家と国家間の紛争解決システム)の危険性が、日本ではあまり知られていない。「進出した国で企業が不当に資産を没収されないために必要」「先進国の国民には関係ない」などと説明されているためだが、実際は甘いものではなさそうだ。その一端を明らかにしたレポートを紹介したい。

 タイトルは「不公正からの利益」。米国とヨーロッパのNPO(民間非営利団体)が2012年に共同で調査し、まとめたもの。特に、多国籍企業などの「投資家」が進出先の国家を訴えたとき、その実務を担当する国際弁護士らの「仲裁ビジネス」に焦点を当てている。人権や環境を犠牲にして賠償金をむしり取る――そんなハゲタカ商売として急成長してきた実態が報告されている。

 当初は進出先の不当な政策から投資家を保護するのが目的だったが、北米自由貿易協定(NAFTA、1994年発効)を機に、金もうけの手段に変質したという。

 レポートをまとめたのは米国のトランスナショナル・インスティチュートとベルギーに本部を置くコーポレート・ヨーロッパ・オブザーバトリー。どちらも人権や環境、社会正義などに関する調査や提言活動を行っている。

 要約版を基に、その中の「調査で明らかになった11の事実」を紹介する(※は編集部による注釈)。

 欧米のNPOが共同でまとめたレポートによると投資問題にかかわっている弁護士たちは、ISDS条項(国家と投資家の間の紛争解決システム)を使って国家を食い物にしている。投資家に有利な仲裁廷で多額の賠償金を巻き上げるのが主な方法だ。さらに、「訴訟」をちらつかせて法律や制度の変更を迫るという脅しも行っている。いずれにせよ、被害者はハゲタカに狙われた国の納税者・国民である。

(1)過去20年で急増/ISDSの紛争事案

 投資に関わって仲裁廷に持ち込まれる事案は、過去20年間で急増した。例えば、世界銀行内の紛争解決国際センターに登録されたものだけで、1996年の38件が2011年には累計で450件になっている。

 仲裁に関わる費用も劇的に増えている。09年と10年には、企業が1億米ドル(104億円)以上の賠償金を国家に要求している事案が151もあった。

 ※ISDS条項では、「期待した利益」が相手国の規制や制度によって損なわれたという理由で、投資家が国家に賠償金を請求できる。舞台となる仲裁廷は、紛争解決国際センターや国際連合国際商取引法委員会のルールに基づいて設置される。特定の裁判所があるわけではなく、その都度設けられる。通常の裁判とは異なり、3人程度の弁護士が仲裁人として紛争解決のための判断を下す仕組みだ。投資家の側だけに訴える権利があり、結果に不服でも上訴することはできない。

(2)ブーム到来で大もうけ/投資問題に関わる弁護士

 ISDSの仲裁事案にかかる費用は、1件800万ドル(8億3200万円)以上。なかには3000万ドル(31億2000万円)を超えるものもある。

 エリート弁護士を抱える事務所は、弁護士1人につき時給1000ドル(10万4000円)を請求する。その仲裁人たちも1事案につき100万ドル近いサラリーを得ている。こうしたコストは進出先の納税者が負担することになる。基本的な行政サービスにアクセスできない人々がいるような国も例外ではない。

 例えば、フィリピンは空港関係のドイツ企業フラポート社に関わる二つの事案で5800万ドル(60億円)を費やした。この金額は教師1万2500人の年収に等しい。あるいは、380万人の子どもたちに行う結核やジフテリア、破傷風、ポリオの予防接種の金額と同等である。

(3)少数の弁護士が君臨/投資に関する仲裁産業?

 投資に関わる仲裁産業では三つの弁護士事務所が君臨している。フレッシュフィールズ(英)、ホワイト・アンド・ケイス(米国)、キング・アンド・スポールディング(米)である。この3事務所は2011年、130の事案に関与していた。

 たった15人の仲裁人(弁護士)が全体の55%の事案に関わってきた。彼らのほとんどがヨーロッパと米国、カナダの出身者である。これら少数の弁護士グループは「内なるマフィア」と呼ばれたりもする。同じテーブルについて、仲裁人になったり助言者になったりしている。これは利益相反ではないのかという懸念を抱かせる。

 ※国際法に詳しい三雲祟正弁護士によると、ISDS条項で訴えられた国家の側も弁護士を雇わなければならない。しかし、英語が堪能で投資や貿易の国際法に詳しく、国際舞台で経験を積んだ専門の弁護士はごく少数だという。「おそらく日本の弁護士で対応できる者は皆無」と三雲さん。結局はトップ3の事務所や15人の弁護士らに頼むしかないのだという。彼らはお互いに連携しており、ある時は投資家側、あるときは国家側で仕事をすることも珍しくないようだ。

(4)投資家利益を最優先/公共の利益は無視

 複数の有力な弁護士たちは、主要大企業の役員に名を連ねている。途上国をISDS条項で訴えている企業の場合もある。そういう弁護士のほぼ全員が、民間企業の利益保護こそ最重要だというビジネスの信条を共有している。

 公共の利益との関係では次のようなことがたびたび起きる。例えば、アルゼンチンが経済危機に陥ったときのこと。仲裁人である弁護士たちは仲裁廷の判断に当たって、失われた企業利益以外のことは全く考慮しなかった。

 国際司法裁判所の裁判官ブルーノ・シンマ氏は「投資に関わる仲裁においては、国際的な環境と人権の法律により重きを置くべきだ」と提案したことがある。だが、仲裁人の弁護士たちの多くは、それを猛然とはねつけたのだ。

(5)国家を脅す手段にも/米小売店の清掃労働者

 専門的な仲裁部門を持つ弁護士事務所は、国家を訴えようとあらゆる機会をうかがっている。ごく最近では、危機的な状況にあったギリシャやリビアを訴えてはどうかと投資家に勧めたり、「最上の利益を保証できますよ」と大企業に多国間投資協定の活用を提案したりしている。

 彼らは、国民の健康や環境を守るために制定されている法律を弱めること、あるいは法の適用を阻止することを追求し、そのための脅しの手段、「政治的武器」としてISDS提訴を勧めてきた。

 この手の弁護士たちは、交通事故を商売にしている連中と同じだ。「救急車を追いかける奴ら」という言葉がある。交通事故が起きたときに、病院の救急処置室に駆け付けて顧客を獲得しようとする弁護士たちのことを指している。

(6)「ISDSは必要」/外資を呼びたいなら

 エリート仲裁人の弁護士たちは国家に対し、「投資に関わる仲裁システムは必要です」と積極的に売り込んでいる。外資を呼び込むための必要条件だと言ってきたのだ。だが、実際は逆だったのではないか(外資が国家を食い物にするための必要条件だった)。

 国家がISDS条項の仲裁システムに参加する危険性には、あまり注意が払われていないように見える。

 ※レポートによると、危険性に気付いた国もある。オーストラリア政府は「ISDS条項付きの貿易協定には賛成しない」と宣言した。ボリビアやエクアドル、ベネズエラなども同様の理由からいくつかの投資協定を終了させたり、離脱したりしている。南アフリカは国家の発展・開発という観点でそれまでの投資政策を洗い直し、その結果、新たな投資協定にはもう参加しないと宣言した。

(7)あいまい用語を駆使/国家をだます手口

 投資にかかわる弁護士たちは政府に対し、投資協定への署名を勧めている。協定に書かれている「言語」によって、その政府が訴えられる可能性が大いにあるにもかかわらず、である。彼らは、協定条文のあいまいな用語を使って訴訟を増やしてきたのである。

 140の仲裁ケースを調べてみると、仲裁人たちは一貫してさまざまな条文について拡大解釈をしていることが分かる。しかも、原告(投資家)に有利になるようなやり方である。「投資」という用語一つとってみてもそのことが言える。 一方、人権や社会的に保護すべき権利がテーマになると、今度は逆に限定的な解釈をするのが特徴だ。

(8)不利な改革は阻止/強力にロビー活動展開

 これら弁護士事務所や仲裁人たちは、先進国の政府に対しても影響力を発揮できる立場にいる。投資家が不利になるような制度改革を阻止するために強力なロビー活動を行う。米国においても、欧州連合(EU)においても事情は同じだ。 オバマ米大統領が就任したとき、彼は投資協定に関して政府による規制強化策を提案した。だが、この「チェンジ」は大企業に後押しされた弁護士らによって阻止されたのだ。

 仲裁人たちは、今の投資家主導の国際体制に疑問をさしはさむ国に対し、声を荒げて非難してきた。

(9)ここにも回転ドア/弁護士と政策担当者

 投資に関わる弁護士と、政府の政策担当者との間には回転ドアがある。こうした仕組みが、不公正な投資体制を支えているのだ。

 著名な弁護士たちは投資協定や自由貿易協定の交渉において、首席交渉官を務めていた。そして、自国の国家がISDSで訴えられたときには、国家を守るために働いたのだ。

 あるいは、政府の助言者(アドバイザー)を務めたり、世論対策を担当した者もいる。そうした活動を通じて、立法に影響力を行使するのである。
 ※回転ドアとは、政界、金融業界、法曹界などの間を、人材が自由に移動するシステムのこと。日本的な出向や天下りとは異なる。政府職員だった人物が企業の重役になり、さらに政府高官になって政権に戻ることもしばしば。TPP交渉で有名になったマイケル・フロマン米国通商代表は、財務省の首席補佐官→大銀行シティーグループ役員→米政府通商代表、という経歴の持ち主だ。通商代表になってからもシティーグループからの不透明なお金の流れがあるのでは、と問題にされたことがある。

(10)学説にも影響力/学会を牛耳るパワー

 投資に関わる弁護士たちは、投資関係法や仲裁についての学説に大きな影響力を行使している。アカデミックな論文を大量に生産し、投資関係法に関する主要学会誌については、74%の編集委員をコントロールできる立場にある。

 だが、彼らがこうしたシステムから私的な利益を得ていることは明らかにされていない。
 関係学会の独立性が懸念される状況である。

(11)訴訟が金融商品に?/投機筋とも蜜月関係

 投資に関わる仲裁システムは、ますます金融投機筋との関係を深めている。投資ファンドがISDS条項に基づく紛争に資金を提供し、その見返りに分け前を得るという関係だ。このようにして、紛争仲裁ビジネスが過熱し、裕福でない国家も支出を強いられる。

 ファンドなどの金融関係者と仲裁人、弁護士と投資家は個人的にも密接な関係を築いている。

 有力な投資ファンドのジュリディカ(英)、バーフォールド(米)、オムニ・ブリッジウェイ(ニュージーランド)は既に、紛争の仲裁に関する部門を設置している。

 仲裁事業に資金提供する手法は広がりを見せており、「訴訟」をワンパッケージにして第三者に売る商売まで現われた。リーマンショックの金融危機のときに流行したクレジット・デフォルト・スワップ(CDS、金融デリバティブの一種)と同様の投機的な商売である。(連合通信) 

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