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2016年02月15日

経験者いるのになぜ求人?
ハローワークの非常勤職員

雇用不安煽る公募制度

  年度末が近づくと、首都圏のハローワークで働く浜田恵さん(仮名、48歳)は不安に襲われた2年前の日々を思い出す。「公募」によって、やっと慣れてきた仕事を失いそうになったからだ。失職を想定して次の仕事を探さなくてはというあせりと、でも辞めたくないという気持ちの狭間で心が揺れた。幸い、雇用は継続できたが、浜田さんはいま「雇用の安定をめざすべき労働行政が、足元で雇用不安を煽るなんておかしいと思います」と語る。

▲人事院が公募強要

 公募制は2010年に導入された。それまで「日々雇用」で不安定だった非常勤職員の雇用を、3年までは更新して働けるという期間業務職員に切り替えたのだ。ただし、4年以降も働くには公募を経なければならない。努力義務なのに、各省庁に対して一律に公募実施を強要している人事院の存在が背景にある。
 公募には当然、一般の求職者たちも応募してくる。同じように面接を受け、結果を待たなければならない。「仕事は引き続きあるし、私も自費で資格を取るなど努力してきたつもり。なぜ公募しなければならないのか、本当に分かりません」と浜田さん。

▲経験が大事な専門職

 業務は、高校生の就職支援が中心だ。卒業予定者に対する職業相談や紹介、学校を訪問して職業講話やガイダンスも行う。

 浜田さんは「高校生たちは仕事や社会のことがよく分かっていません。それを一方的に教えるのではなく、自分で考えてもらうように持っていく。若い子たちはその気になれば、どんどん成長する。すごく可能性を感じます」という。自分の一言が彼ら彼女らの人生を左右しかねないと思うと、責任の重さを痛感する。無事に就職できて、尋ねてきてくれたときには「本当にうれしい。社会に出て歩き始めた子らの姿をみると、本当にやってて良かったなと実感します」

 経験がものを言う、貴重な専門職なのだ。

 最初の1年間は、仕事の流れを覚えるだけで精一杯だった。一人前になるには最低3年はかかる。そんなときに公募が待ち構えているのである。

▲心が揺れる日々

「公募で落ちたときのことを考えて、早く次の仕事を探しておいた方がいいとは思いました。でも業務中の職探しは無理。休みを取って検索機を使えば、仕事を探していることがみんなにばればれです。『彼女は転職する気なんだ』って思われたらまずいです。だから動きにくい。本当は辞めたくないんだし」

 心が揺れる毎日。そんな日々を経て、雇用継続が確定し、やっと落ち着いた。でも、気持ちは複雑だった。当時、公募には自分を含めて10人が応募した。9人は一般求職者である。

▲こんな制度はやめて!

 経験もあり、ノウハウも身に着けてきた自分が採用されるのは、ある意味当然とは思う。だが、そんなことを知らない一般求職者が「身内の人間を採用する気なら、なぜ私たちに無駄足を踏ませるのか」という気持ちになっても不思議ではない。実際、職場では「結局、ハローワーク内の出来レースじゃないの」と嫌味を言われた職員もいる。
 浜田さんは「彼女たちのことを考えると、自分の雇用継続を素直には喜べません。なぜ労働行政がこんなひどいことをするのか、全く意味不明です」と怒る。
 来年の年度末には、再び公募が予定されている。「こんな制度はもうやめてほしい。民間企業に対しては、非正規の無期化や正社員化を指導しているのに、足元の非常勤職員にやっていることは全く逆。自らも職業安定所の名にふさわしい存在であるべきです」

「国によるパワハラです」非常勤職員238人が手記/労働行政の公募に不安と怒り

 国の労働行政職員でつくる全労働は、非常勤職員(期間業務職員)を3年で雇い止めの恐怖にさらす「公募」を廃止すべきと訴え、省当局や人事院に再考を求めている。このほど、全国の非常勤職員238人から寄せられた手記を示しながら、当局に雇用不安の払拭を要請した。

▲行政の質にも影響

 手記には公募制度への不安や疑問、怒りがつづられている。多くは「能力や資格等で2回更新して、なぜ3回はダメなのでしょうか。公募をする必要性がわかりません」「日々の業務の中で築き上げた知識、経験を持った職員を公募で雇い止めにしないでください。本人の精神的苦痛だけでなく、家族にも影響を及ぼします」といった心情を吐露。中には「国によるパワハラでしかありません」との厳しい指摘もある。

 全労働によれば、公募にこだわっているのは人事院である。「公正さを担保するため」というのが実施の理由だ。しかし、当事者へのダメージに加え、第一線で働く経験者が雇い止めになれば行政サービスの低下は避けられない。定員削減が続く中でこうした非常勤職員は貴重な戦力であり、全労働は早急な問題解決が必要と強調している。

 2月初めに開かれた全労働の中央委員会でも、公募問題で発言が相次いだ。

 中央委員からは「大事な職員たちになぜ一律公募をかける必要があるのか」「民間でこんなことをやっていたら、やめさせるよう指導するはずだ」「公募ではなく、頭を下げてでも残ってもらわなければならない人たちだ」などの意見が相次いだ。本部は、手記も活用しながら、公募廃止の取り組みをさらに強めると答えていた。 (連合通信)

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