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2016年09月20日

労働行政の変質は許せない
職場からの告発・怒りと不安

全労働大会傍聴記

  働く者を守るべき労働行政は今どうなっているのか、その一端を知るため全労働省労働組合(全労働)の大会を取材した。9月8日から3日間、宮城県で開催され、延べ100人以上が発言。特に、職員の専門性や経験を軽視する施策が進められる中、組合員からは怒りと不安の声が上がっていた。

▲新人事制度の中止を

「労働基準監督官が毎年増えていると報道され、外部の人からは『よかったね』と言われるが、実態は違う。監督業務に就く人数はむしろ減っていることが世の中に知られていない」

 愛知の組合員はこう述べ、現状を広く知ってもらう必要があると訴えた。

 確かに近年、監督官は年間200人前後を新規採用している。だが、監督業務の定員は増えていない。8年前に始まった「新人事制度」によって、労働災害防止を職務とする厚生労働技官と、労災補償を担当する事務官の採用がストップし、その穴埋めを監督官が行う仕組みに変わったためだ。技官・事務官が手薄になる一方、監督官が手探りで業務をこなす状態が続いている。

 中国地方の監督官はこう述べる。「技官の上司と2年間一緒に仕事をしたが、マニュアルに書かれていないことも多く、適切に即応しなければならない。経験がものをいう世界であり、2年程度ではとても無理」

 採用が止まっている技官からは、専門性の維持が困難になっていることが報告された。「一人の技官が複数の監督署をかけもちで担当しているケースがあり、もう限界」「このままでは民間労働者の命の問題に直結しかねない。災害防止団体をはじめ世論に訴えるべき」「基準系職場(監督、災害防止、労災補償)は存亡の危機だ」などの指摘である。

 監督官も不安を抱えている。新規採用されると3年間は監督業務に就くが、近年の大量採用で、どの監督署でも経験3年以下の職員が急増した。先輩たちは他業務などで多忙を極めている。実施訓練を含め十分な教育が受けられないのだという。

 全労働本部は、技官・事務官の採用再開を「待ったなしの課題」と位置付け、向こう1年間に集中的な取り組みを行うと説明した。所属長が本省に意見を上げる「上申」を徹底するほか、世論に訴えるための団体署名を提起している。

▲ハローワークも危ない

 職業相談や紹介などのハローワーク業務も様変わりしつつある。一定条件の下に求人・求職情報を自治体や人材ビジネスに提供する事業がスタート。情報を得た派遣会社が求人企業に対して、正社員求人を低賃金の非正規求人に変えるよう営業する事例も出ているという。
 さらに、職業相談や紹介の業務をオンライン化する「ハローワーク業務の総合的見直し」の準備作業が進行中だ。組合員からは「安定所の根幹業務を揺るがし、変質させるもの」「窓口対応をなくして(求職者にふさわしい)適格紹介ができるのか」「職業相談を経ずに就職してトラブルや離職につながらないか心配」などの声が相次いだ。

▲誇り奪う非常勤公募

 定員削減が続く中で、いまや非常勤職員は貴重な労働力だ。にもかかわらず、有期契約で3年を越す場合は「公募」手続きが必要とされている。契約を切られる恐れもあり、当の非常勤職員からは「次年度以降も働き続けられるのか心配で夜も眠れない」などの声が上がった。

 関東地方で高校生の就職支援をしているジョブサポーターの女性はこう訴えていた。

「先日も子どものいる女子高校生を就職させることができた。子連れであいさつにきてくれたとき、本当にこの仕事をしていて良かったと思った。人の人生を左右する仕事であり、経験に加えて高い意識と自信が必要。それなのに常に雇い止めの心配をしなくてはならない。安倍首相は『非正規という言葉をなくす』というけれど、まずは国が足元の非常勤をなくすべきではないか」

 全労働本部は「当事者の手記を集め、この問題を外にアピールしよう。公募撤廃に向け、今秋を重点に当局追及を含めて勝負をかける」と答弁し、早期解決を呼び掛けた。

 労働行政が危うい。その変質を食い止めるため、幅広い力合わせが急務と痛感した。(伊藤篤) 

〈用語解説〉新人事制度

 2008年10月採用の職員から適用されている人事の新ルール。監督官の業務を増やし、それ以外の職員(事務官)について、それまでの安定系・基準系といった区別をなくし、ブロック単位での異動を可能とした。監督官に追加された業務は、労災補償業務と災害防止。従来は専門官(厚生労働技官など)が担ってきたもので、高度な専門性と経験が必要とされていた。新制度導入により、労災補償事務官と技官の採用がなくなった。(連合通信) 

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