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2016年10月24日

市民との共同の力示した新潟県知事選
〈働く・地方の現場から〉/ジャーナリスト 東海林 智

原発再稼働にきっぱりのーの回答

 原発の再稼働に慎重な姿勢を取っていた泉田裕彦知事の後任を選ぶ新潟知事選挙が、10月16日投・開票された。与党候補有利の下馬評を覆し、再稼働を認めないとした野党候補が圧勝した。知事選の背景をひもといた。

▲不利な状況でスタート

 世界最大級の柏崎刈羽原発を抱える新潟知事選は複雑な経過をたどった。原発再稼働に慎重で、4期目への出馬が確実視されていた泉田知事が8月30日に突如、知事選から撤退を表明した。その時点で、泉田県政の転換を訴え前長岡市長の森民夫氏が出馬を表明しており、自民、公明の推薦も得て優位な立場に立った。野党や反原発の市民らは突然の撤退に混乱し、民進は候補擁立を断念、そのため連合新潟は森氏の支持に回った。

 無投票の雰囲気さえ漂う中、市民や野党は諦めず、民進党の衆院予定候補だった米山隆一氏を市民と共産、生活(現自由党)、社民統一候補として担ぎ出した。医師で弁護士の米山氏はかつて、自民、維新から過去4回国政に挑戦し、いずれも敗北。政党の合併により、直前まで民進党の衆院予定候補だった。出馬に際し、民進党を離党して市民連合の候補になった。

 選挙の構図は、米山陣営にとっては非常に厳しいものだった。夏の参院選では、野党統一候補の森ゆう子氏が与党候補を破っている。しかし、その差はわずか2千票。しかも、今回は民主党が自主投票で共闘から外れ、候補者も当選経験のない米山氏だ。民主の票を入れて計算しても基礎票には10万票の開きがあった。

▲市民が原発を争点化

 だが、結果は米山氏が約52万票を得て、森氏を6万票引き離す圧勝だった。地元メディアに寄稿した政治学者は「単一争点化の劇場型選挙」と論じた。劇場型選挙と難癖をつけてはいるが、原発が大きな争点となり米山氏の勝利につながったのは間違いない。

 だが、原発が争点となったのは、米山陣営の作戦だけではない。県民が原発の是非を問う選挙に押し上げたのだ。米山陣営の選対幹部は「選対では原発以外の政策もアピールすべきだとの意見も出たが、街頭に出ると、『原発のことをもっと訴えろ』と市民が許さなかった」と、終盤の状況を振り返る。

 新潟は世界最大級の原発を抱えているが、福島第1原発事故以降も県民が原発に関して意思表示をする場面はなかった。知事選、衆院選、参院選……と選挙は多くあったが、国政選挙では全国的な争点が争われる中で原発問題は後景に追いやられた。知事選挙では慎重派の泉田知事がいたため争点になり切らなかった。 しかし、今回、原発問題の〃つっかえ棒〃であった泉田知事がいなくなる。市民は原発に対する明確な意思表示を求められた。そのことが原発問題を最大の争点として浮上させた。

▲民意読み違えた民進

「県政にはいろんな課題がある」と前述した政治学者は言う。市民はそんなことは百も承知だ。地元紙の世論調査では政策課題の1番は医療福祉、2番は雇用・経済で3番目が原発となっていた。それでも、県民の心の奥底に澱(おり)のようにたまっている課題が原発なのだ。だから、日本海側に新幹線を通すだの、プロ野球の球団を誘致するだのの旧態然とした与党の公約には目も向けず、命と未来を守るために原発問題で明確な意志表示をした。
 民進党は民意を読み違えた。中盤から終盤にかけて反原発の国会議員が個人として続々と応援に駆けつけ、最終的には蓮舫代表までが自主投票の選挙に駆けつけ〃船〃に乗った。共産、生活、社民の共闘でも市民と結びつくことで勝利への展望を開けることを見せた。民進には、その場しのぎではなく、戦略としての共闘の再考が求められる。

▲連合はどう見られたか

 一方、連合新潟は、民進の擁立断念を受けて森氏を支持した。民進が自主投票の道を外れる中、森氏の街頭演説に共に立つなど、良くも悪くも筋を通した。だが、連合の中で終盤に米山氏を支持するよう指示した組織も複数あった。一方、米山陣営ではこんなことも言われていた。「連合が入らなかったのは残念だが、原発問題では(連合に)気兼ねせずに主張できてかえってよかった」

 市民の間で連合という組織がどう見られているのか、社会的な連帯の担い手としては考えた方が良い。

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 10月の異動で新潟で仕事をすることになりました。これまで、厚生労働省を中心に労働行政を追いかけてきましたが、今月から視点を変え、地方から見える労働問題をリポートしたいと思います。ご愛読下さい。(連合通信) 

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